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第11話

「何しようか……」


 午後の時間。僕は何をして潰そうか悩んでいた。特にやることはない。スマホはあるけど、今の流行りもわからない。


 ゲームも、なにもしたことが無い。してるとしたら読書くらいだ。それも、新聞を読む機会が多かった気がする。


 重い身体を起こす。魔力水で魔力を回復させたのに、身体的疲労は残ったままだ。本当は何か疲労回復にいい食べ物を食べた方がいいのだろう。


 だけど、僕にはそんな知識はなかった。もっといえば、何を食べればいいのかすらわからない。机にはお粥が置いてある。


 付け合せに色々なものが並んでいた。卵で閉じたものはどうやら卵味噌というらしい。麗華さんは青森出身のようで冬の郷土料理とも言っていた。


「ちょっとだけ……食べようかな……」


 僕はベッドから起き上がり、足を引きずりながらテーブルへ向かう。椅子に座ると、卵味噌をひとすくいお粥の中に入れた。


 早速食べてみる。味は濃いめで少ししょっぱかったが、おかげでご飯が進んだ。個人的にはこの味が好きだ。もうひとすくい。食べる。


 あまり空腹を感じなかった身体は、少し温度を取り戻す。もっと食べたい。僕は食卓の方に向かい、炊飯器を確認する。


 麗華さんはこれも予想していたようで、炊きたてのご飯があった。少しだけもらって自室に戻る。


 それにしても、なんで初めて食べるものは、ご飯が進むのだろう。この前食べたとんこつラーメンも替え玉する気は本当はなかった。


 けれども、怜音の行動に触発され、実際食べてみたら飽きない。また食べたいと思うくらいに。


「こんな料理があるなんて知らなかった……」


 そっとこぼれる言葉。それは、どこか感謝が滲んでいたように思えた。小さい時。もっと親に感謝の気持ちを伝えていれば。もっと自分が強いと、教えられていたら。


 必死に僕を逃がしてくれた両親。そんな偉大な人に僕がなれたなら。どれだけ嬉しいことか……。


 ――『優人。それ何杯目だ?』


「た、多分……3杯目……」


 ――『思ったよりも、たくさん食べるんだな……』


「え?」


 蓮の発言には、明らかに謎が含まれていた。『思ったよりも食べる』たしかに、今考えてみればそうだ。


 今までは、魔力水と何も入ってないスープ。そして、少ないまかないだけの生活。だけど、とんこつラーメンの時も、あそこまで食べられるとは思わなかった。


 成長期は終わっている。だけど、実際にはこれから。僕は、3杯目のご飯を食べ終えると、ちょうどよく卵味噌もなくなった。量もピッタリだ。


「蓮。これからどうする?」


 ――『どうするって、俺は何もできねぇよ。身体は一つしかないんだ』


『そうだよね……。それじゃあちょっと反省会でもする? それくらいならできるよね?』


 何もないところに話しかけてる自分。だけど、それでも僕には見えてしまう。頭の中であってもその存在が、温かさがわかる。


「僕が盲視術を使った感想だけど……」


 ――『ん?』


「あれは、かなり気配に敏感じゃないと、上手く使えないよ。僕にあって蓮にないものは、敵味方の分別がついてないこと、僕は気配で敵か味方かわかるけど……。蓮の戦い方は無差別的な感じだった」


 僕は思ったっことを全部話した。その意見に、蓮は頭をかしげる。どうやら自覚を持ってないようだ。きっと麗華さんと星咲副隊長はそれを見破っていたのかもしれない。


 怜音と麗華さんが話していたことを思い出す。その内容の中には、蓮の盲視術を禁ずるというものだった。


 そして、僕が盲視術を使った時は、麗華さんに褒めてもらった。最初の対応が正しかったのかもしれないと、納得してしまう。


「やっぱりあの術は危険だよ。蓮がいなかったら僕も飲み込まれてたかもしれない……」


 ――『そうだな……。まだ未完成だったってのもあるが……』


「未完成?」


 ――『そうだ』


 僕はあれが完成形だと思っていた。それはただ僕の扱い方が上手かっただけ。蓮は今も研究してるという。


 だけど、あの術式が発動した時。自分の中で見た事のない文字があった気がした。本当に今気づいたっていうのもあるが……。


 蓮に問いかけてみる。だけど、彼はどこの言葉なのか教えてくれない。それ以上に、教えたくないという感情が僕の内側で広がった。


「じゃあ、わかった。この術。2人で研究しよう」


 ――『なんでだ?』


「だって、蓮がわからないところ。もしかしたら僕が知ってたり……?」


 ――『オマエ面白いこと言うな。わかった。じゃあ、今日の夜から始めよう』


 そうして、蓮との約束が決まった。彼が研究している術を完成させる。それが第一目標。僕が使っても蓮が使っても、安全な術式。


 詠唱からして、展開までの式は省略済み。問題は中身だ。僕はそういうものを作ったことすらない。だけど、興味が出てきているのはなぜか……。


 ――コンコン……。


 部屋の外からノックする音がする。僕は扉の前に立ち開くと、そこには麗華さんがいた。しっかり食べることができた自分を褒めに来たらしい。


「あの後本当に心配でしたが、しっかり食事ができたみたいですね」


「まあ、お昼は割と入る方なんで……」


「そうなんですね……。一食でもしっかり食べられるのなら良かったです。過去にこの防衛部隊に所属していた人には、数ヶ月間食事をとらない人もいたみたいですから」


 数ヶ月食べないのは正直驚いたが、そんな人もいるんだと無理やり飲み込む。そのような人はどのようにして生活をしてきたのか。それが不安だ。


 麗華さんは、スマホから1枚の写真を取り出す。そこには、小さい子供が写っている。どうやら幼少期の麗華さんらしい。


 その隣には少し背の高い女性。反対側には背の高い男性が立っていて、その後ろにも男性が一人。


「これは三龍傑といって、この防衛部隊の基盤を作った人と言われています。彼らが7年前のことをかなり昔に予知し、書き残しをしてくれたと……」


「その三龍傑の名前は知ってるんですか?」


「いいえ。会ったのはこれっきりで、彼らはこの事態を根本から終わらせるため旅に出ました。もう数十年は帰ってきていません」


 そんな昔から……。僕はもっと彼らを知りたいと思った。もっと。もっと知りたい。どこかに記録が残っているのなら、片っ端から見たいくらいに。


 麗華さんがスマホを閉じる。そうして、さらに続けた。


「そういえば、彼らのことをよく知る人物がこの第一部隊に所属していたはずです。たしか、三龍傑の子供だとお聞きしました」


「本当ですか!?」


「はい。ただ、最近顔を見せないので……。ついてきてください」


「はい!」


 僕は麗華さんについていく。通路にはたくさんの扉。そこが全て個室になっていて、余暇はそこで過ごす。


 場所によってはお酒の臭いがしてきて鼻をつまんで通り過ぎた。しばらくしてやってきたのは、金メッキで塗装された扉。


 麗華さんも、そこに行くのは久しぶりとのことで、こちらまで緊張感が漂ってくる。麗華さんが扉を叩く。扉が開いた先には、1人の少年の姿。


 『どうぞこちらへ』と促され入ると、富豪のような豪華な内装だった。僕とは違いすぎて目がチカチカする。


「こちらが、三龍傑の息子さんです。今は戦場には出ずに、ここで訓練内容を書いてもらっています」


「初めまして、宮鳥みやとり景斗けいとです。君が新しく入ったっていう……」


「見世瀬優人です。よろしくお願いします……!」

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