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第12話

 この景斗さんって人。怜音によく似ていて存在感に大きな差がある。もっといえば、今いるのは少年だけど、実際にはもっと生きているような。


 一体いくつ歳が離れているのだろうか? 気になるところだけど、抑え込む。


「優人さん。ちょっと僕のところに来て、今から最適な訓練方法を作るから」


「は、はい……!」


 景斗さんに呼ばれ近くにいくと、その時点で彼のオーラに圧倒される。本当に近付いていいのかすら、わからないくらいに。


「ほら早く!」


「行ってらっしゃい」


 麗華さんに背中を押され、景斗さんの隣に

座る。そこにいると、なぜか心がスッキリした。彼は僕の目を覗いてくる。


 数秒見ただけで、紙に何かを書き始めた。それだけで本当にわかるのだろうか? 少し心配になりながらも、じっと待つ。


「優人さん。ちょっと僕の右目だけを見てくれる?」

「み、右目ですか?」

「うん。もう少し詳しく知りたいから」


 僕は彼の右目に焦点を合わせる。彼が書いてるノートは2枚目3枚目と綴られていき、最終的に何枚書いたのかがわからない。


 しばらくして、景斗さんが僕の瞳から視線を外した。そこからさらに書きなぐっていく。


「うん。だいたいわかったかな」


「ほ、本当ですか?」


「もちろん」


 景斗さんは書いたばかりのノートを渡してくる。それを見ると、しっかり僕に関する情報が書かれていた。


 そこには僕の中にいるもう一人の存在まで。もっといえば、その蓮が考えた魔法の構造までぎっしり書かれている。


 たったこれだけでわかるのは、正直異常だ。


「この情報どこで……」


「ついさっき……。と言ったら、混乱するよね」


「ついさっき……」


 彼は本当に普通のことをしたまでという顔で、僕を見つめてくる。少しすると、別のノートを取り出し、そこにも何かを書き出し始めた。


「君……。ううん。君たちに最適な訓練方法は、僕と一緒でいいかな?」


「景斗さんとですか?」


「うん。その代わり、かなりハードだけどね」


 その言葉に、思わず麗華さんを見る。彼女も、目を丸くさせて立ち尽くしていた。


「僕の訓練は、完全非公開。加えて入れたとしても、隊長と副隊長。あとは怜音さんだけ。他の人は入ってはいけないし、隊長たちからの口外は禁止」


「かなり厳重なんですね……」


「まあね。その分命の危険性も……。おっと、これは実際に見せた方がいいかもね」


 命の危険性もあるとは、思わず震えそうになる。だけど、それが僕に向いているというのなら気になる部分もある。


 景斗さんは麗華さんに訓練場の様子を聞くと、どうやら本日の訓練は終了したとの事。じゃあ行こうということになった。


 麗華さんは副隊長と怜音を呼んでくると、先に部屋から出ていく。僕はというと、景斗さんが作ったゲートを通って移動した。


「さて、まずは点検っと……」


「景斗さん。なんでこのタイミングで?」


「内緒」


 すると、彼の身体が宙に浮く。今朝は気付かなかったが、壁に上部には複数の穴が空いていた。そこを一つ一つ見ていく。


「ぼ、僕も手伝いましょうか?」


「大丈夫……。自分が見てるのは一個ずつじゃないからね」


「それならいいですけど……」


 景斗さんが全部の穴を確認し終えた時、ちょうど麗華さんたちが入ってきた。入口の方には、たくさんのボタン。これから始まることが不安になってくる。


 訓練場の中心に立つと、麗華さんと星咲副隊長が魔法を唱え始めた。直後、光の壁が展開されていく。


 壁の内側には景斗さん一人。壁が天井近くまでいくと、横に広がっていく。それは、穴の下を持ち上げているかのような器型になった。


「景斗くん。準備はいい?」


 怜音が問いかける。


「いいよ。そのままいつものメニューで」


 景斗さんが答えた。


「了解。じゃあ、ここと……。ここをっと……。景斗くん。状況合ってる?」


「問題ないよ。じゃあ開始」


 怜音が一際大きなボタンを押す。すると、天井の穴から鏃が見えた。それは勢いよく飛んでいく。


「まずは500本からっと……」


 景斗さんは、矢を避け魔法で弾き、どんどん攻略していく。よく見ると、彼の瞳は真っ白に染まっていた。


「怜音。あれは一体?」


「あれ? あ、景斗くんがやってること?」


「はい」


 その質問に、怜音は口篭る。言えないことなのかもと反省していると、閉ざされた口が開いた。手元にはいつの間にかスマホが握られ、パシャリと1枚写真を撮る。


「まずはこれ見て。景斗くんの瞳。白いでしょ」


「はい。確かに真っ白ですね……」


「この状態になると、目も耳も使えない。そんな状況で飛んでくる矢を避ける。気配を察知する能力を彼はひたすら極めているんだ」


 だから、矢が外に出ないようにする壁を作り、攻撃を反射させて回避を続ける。確かに僕が盲視術を使った時の状況に似ていた。


 時間が経過すること約30分。ようやく矢が止まる。それすらも察知したらしい景斗さんの瞳に、色が戻った。


 怪我ひとつしていない彼は、もはや人間の域を超えている。そんな訓練を僕も今から受けることになる。


(蓮。どうする?)


 ――『俺がやれってか?』


(まあ、それもそうだけど……。もしかしたら、2人分やるかも)


 今のうちに状況交換しておこうと、蓮と相談する。盲視術は蓮の許可があれば僕も使用可能だ。だから、朝の戦闘で使えた。


「優人さん。君が研究している術式。ちょっと見せてもらってもいいかな?」


「え? 術式って可視化できるんですか?」


「できるよ。ただ、僕しかできないけど」


 景斗さんの袖が光り輝く。僕の額に手を当てると、歪な文字列が浮かび上がってきた。蓮に聞くとこれが盲視術の魔法式らしい。


「うーん。配列が思ったよりも雑だね……。安定性安全性、その他諸々が入ってない……。このままだと危険だから……」


「景斗さん。何してるんですか?」


「あ、これ、術式の再構築。こういうの得意だからね」


 そう言いながらも、文字列が長く長くなっていく。自分でわかる項目と言ってもほとんど知らない。魔法がこんな術式でできているとは思わなかった。


「よし。こんな感じかな? 今は試験段階だから、消費魔力量が多いけど……。君なら問題ないよね」


「え?」


「だって、もう一人の方が、隊長と副隊長両方倒したんでしょ? 君の記憶を辿った中で、そういう情報が出てきたから」


 この人どこまで僕の情報を……。疑問ばかり生まれる彼に置いてきぼりにされそうで、必死に食らいつこうとする自分。


 これからが僕の出番。訓練場の中心に立つ。星咲副隊長と麗華さんが壁を作る。そして、盲視術を発動させる。


 景斗さんが組み換え直した術式は、とても安定していた。意識を持っていかれそうな感覚がしない。


 これなら、もっと落ち着いて行動できる。どこからか物が飛んでくる。風切り音、振動する何か。反射的に動く身体。


 どんどん避けていく。とても楽だ。ものすごく楽だ。魔力の減りはたしかに早い。だけど、全てが一定で、寄り添える。


「終了!」


 魔法が切れる寸前。誰かの声が聞こえ解除する。視界が元通りになると、景斗さんがやってきた。


「どう? 僕が修正した術式は」


「はい! とても使いやすかったです!」


「それなら良かった。もう一人にも伝えて貰えると嬉しいな。今のその術式。どういじっても安全は変わらないようにしたから」


 この景斗さんって人は、どこまでもすごい。僕は訓練場から出ると、彼の過去をたくさん聞いた。それはどれも面白くて、興味に繋がるものばかり。


 部屋に戻ると、すぐに夕食になった。麗華さんや星咲副隊長。怜音のすすめで食卓へと向かうと、食べながらたくさん話をした。


 両親と一緒にいた時とは違う。楽しい時間が僕のもとに戻ってきた気がした。

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