目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第13話

 平日の朝は午前4時から始まった。景斗さんと同じプログラムになった僕は、僕よりも先に起きていた麗華さんの料理を食べて、訓練場に。


 そこにはもう既に景斗さんの姿があり、昨日と同様に点検作業中。遅れて、星咲副隊長と麗華さん。怜音がやってくる。


 今日の朝の訓練は僕の出番がない。というのも、盲視術を生み出した蓮が主役だからだ。早朝から僕のアラームで叩き起された彼は、とても眠そうな声をあげていた。


 その後彼は2度寝を始めたので、飼い犬のミセスに一発放ってもらって回避。頭が痛くなるほどの大声に思わず苦笑してしまった。


 本当に犬が苦手なんだなと思っていると、彼はコーヒーが飲みたいと言い出したので、麗華さん厳選のマンデリンを用意してもらった。


 身体を共有しているからこそ2人して強烈な苦味に耐えながら、こんな毎日が今後も続くんだと、笑いあった。


「さて、優人さん。今日も始めるよ」


「はい! よろしくお願いします。ただ、心配なのが約1名……」


「蓮さんだよね?」


 そこも見抜かれてたらしい。僕は蓮を呼び出すと、すぐに交代した。ただ、心配なのは訓練に関してではない。


 昨日の訓練で、蓮は麗華さんに大怪我をさせた。そこを星咲副隊長が怒っていないかが問題。また喧嘩しなければいいけど、不安なのは変わらなかった。


『じゃあ。蓮さん。盲視術に関して色々質問してもいいかな?』


『へ?』


『だから質問。君が作ったものなんでしょ?』


 まだ寝起きモードの蓮は、何度も景斗さんの言葉を聞き返した。数回繰り返すと、ようやくスッキリしてきたようで……。


『盲視術は、んー。元々俺は魔法作りが好きで――。小学生時代から夜中に魔法開発してた。盲視術はその時に偶然できたもんで……』


『ふむ……。偶然ねー。そういうのってかなり危険だから、基礎知識無しで作るのはやめた方がいいかな?』


『まあ。そうだよな……。あの後景斗が作り直した術式を片っ端から見たが、俺の知らないものばかりだった』


 今のところ景斗さんとの関係性は良好。ここからヒートアップしなければ――だ。


『じゃあ、君の感想を聞くために、例の訓練してもらおうか』


『了解。ただ、まだ眠気が取れきれてないから……』


『そういうのは無し――ね?』


 ギラリと光る景斗さんの瞳。たとえ寝起きでウトウトが酷くても、容赦はしないようだ。学校での訓練は始まったばかりだが、この時点で梨央たちがやってるものの方が楽だとわかった。


 その後、訓練は順調に進んだ。蓮の感想は『異常すぎるほどに扱いやすい分。元々入れてた要素が省かれてしまっている』とのこと。


 たしかに、本能を刺激する要素が抜けてるような気がした。それもあって、攻撃力を身体能力を底上げしていた気もする。


 約30分間。蓮と景斗さんは相談と術式の改良を繰り返した。術式の確認で訓練をしたのは合計で5回。しかし、学校の時間もあって完成には至らなかった。


 訓練場を出て2度目の朝ごはんを食べる。自分は何もしてないのに、白米をおかわりしてしまった。身体の疲労は避けられないみたいだ。


 麗華さんが作ったゲートを通って登校。もちろん星咲副隊長と怜音もいる。加えて何故か麗華さんも来ていた。


「おはようございます!」


 通学路に立つ生徒会役員。声を張り上げて挨拶をしている。


 その先には、校長先生の姿。人だかりができていて、非常に騒がしい。なんだなんだと近づくと、どうやら取材を受けてるようだった。


「――ですから。こちらへの被害は防犯カメラに映る通り、討伐部隊の活躍で……。彼は一切関係がなく――」


『しかし、映ってるのはこの学校に在籍してるものと……』


「私は知りません……」


 僕は前に出ようかと悩んだ。記者が言ってるのは昨日の僕のこと。それだけはわかる。


「おはよう。優人。昨日と一昨日手紙来なかったけど、どうしたの?」


「え。あ、その……ちょっとね……」


「その表情はなにか隠してる?」


 自分が今第一部隊に所属していること。それを言おうか悩んだ。もし言ったら、梨央を悲しませる。言ったら『自分も入りたかった』とすがってくる。


 もう、僕は一般学生とは違う。普通の人とは違う。魔生物が現れればすぐに駆けつけ、そして解決をさせる任務がある。


 いくら、僕が研修生だったとしても、正確な状況としては本物の隊員だ。危険な目に遭うことも増えてくる。


 そんな戦場に、梨央を連れて行きたくない。小学生時代とは完全に真逆になってしまった。


「優人! 何黙ってるの!」


「いや……。その……」


「何も言わないから。本当のことを教えて!」


 梨央が迫ってくる。ここを切り抜けたいが、その声量で記者がやってきた。これは非常にまずい予感がする。


 怜音と星咲副隊長。そして麗華さんの方を見る。彼らは一斉に頷き、僕の背中を押した。梨央に『ちょっと待ってて』と伝え、カメラの前に立つ。もちろん、麗華さんも一緒だ。


「すみませんが、昨日の一件に関する取材でしょうか?」


 麗華さんが事情を聞くところから始める。すると、多くの記者はうんうんと頷いた。そこから更に続ける。


「日本魔生物討伐部隊・第一部隊隊長、朝比奈麗華です。昨日の一件ですが、こちらの見解としては第二次魔生物暴走事件の前兆もあるとみて、現在調査中です。また、昨日の事件を解決したものに関してですが、一昨日正式入隊したこちらの見世瀬優人さんの活躍により、対処を行いました」


 この場の空気が歪む。麗華さん の長ゼリフは、どこまでもしっかりしているような気がした。僕は彼女の顔を見る。


 次は僕の番だ。まさかの展開にnよる一発本番。一度深呼吸して気持ちを整える。


「皆さん初めまして、一昨日第一部隊に正式入隊したばかりの見世瀬優人です。昨日の件は僕が初任務また、初戦闘で成功させたまぐれ的なものです。今でもちょっと実感がありません……」


 そう言ったあと、思わず梨央の方を見てしまった。麗華さんが後方から僕の顔を押さえ、無理やりカメラ目線にさせる。


『では、彼は期待の新人ということでしょうか?』


「はい、そうですね。彼の実力は未だ未知数です。いずれは私が持っている隊長の座を取られるかもしれません」


 麗華さんのジョークじみた言葉に、居合わせた人たちが苦笑を浮かべる。自分も思わず『まさか』と思ってしまった。僕が隊長になれるはずがない。


「では、取材の受け答えに関しましては以上とさせていただきます。早急に撤退して貰えると助かります。ここは学校の通学路ですので」


 麗華さんの対応は早かった。そして、隊長という立場もあってか、記者はどんどん離れていく。約10分ほどで、群れた人々は消えていた。


「見世瀬さん。お疲れ様です」


「ありがとうございます。麗華さん」


 僕と麗華さんが取材後の挨拶をしていると、顔を真っ赤にさせた梨央がやってくる。きっと僕にヤキモチを焼いているのだろうか。


 だけど、その表情はとても明るかった。頬には涙まで流れている。一体彼女に何があったのか。それが気になって仕方ない。


「梨央。どうしたの?」


 とりあえず質問してみる。すると彼女は……。


「ううん。なんでもない。それよりも、第一部隊入隊おめでとう。抜かされちゃったね」


「あ、ありがとう……梨央……」


 僕の方が下だったはずが、いつの間にか、梨央よりも遥か上に。自分の実力なのか。それ以外なのか。未だにさっぱりわからない。


 とりあえず、学校でも積極的に訓練を受けることにした。きっと、あのにものすごく質問攻めされるだろうけど……。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?