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第14話

 今日も先週と同じように、怜音の隣で魔力水を作っていた。先週と違うのは反対側に麗華さんがいることくらいだろうか。


 梨央たちは僕がいる場所から離れた場所で、訓練をしている。今の僕ではレベルが違い、どういう流れなのかも丸わかりだった。


「梨央……、ほんとごめん……」


 ボソリとこぼれた言葉。その言葉は、離れた彼女らには届かない。本当に自分は遠い存在になってしまった。


 僕が足を揃えるどころか、梨央たちが僕に追いつけない展開。これ良かったのかと思うと、少し胸が苦しくなる。


 しばらくして、休憩時間がやってきた。梨央たちが走って戻ってくる。特に梨央と神代は走る速度がだいたい同じで、休憩になる度に競走をしていた。


 同じ女子なのに、まるで男子生徒が競り合ってるような構図。それに怜音は毎回苦笑いをしている。僕も少し飽きてきたくらいだ。


「ところで、見世瀬。貴方が第一部隊の隊員という噂は本当なのかしら?」


 僕が作った魔力水をチビチビ飲みながら、神代が問いかける。その質問には迷うことなく頷いた。僕が第一部隊の隊員。未だ自覚がないが事実ではある。


「そう……いえば……。今朝……。取材……」


 飛鷹が言の葉をかき集めながら話を続ける。人見知りでコミュ障なのにも関わらず、実際は話したがり屋なのかもしれない。


「たしかに。優人くんかなり緊張しながら取材受けてたね。もしかしたら、こういう機会が増えるかもしれないね」


「え? じゃ、じゃあ。僕はいつか有名人に……」


「なる可能性も、なくはなくはないね」


 怜音のどっちつかずな回答に、最上位クラスのメンバー全員が爆笑する。自分も何が言いたいのか、どう解釈すればいいのか理解不能。


 だけど、麗華さんは鋭い眼光で怜音に威嚇する。こういうのに敏感らしい怜音は、すぐに黙りこみ、場の空気が完全に冷めた。


「じゃ、もう一周したら、今度は優人くんと麗華さんに実戦形式の本格的なバトルをしてもらおうか」


「は? 中谷先生。本気で言ってるのよね? 星咲といい第一部隊隊長の朝比奈隊長といい。貴方は見世瀬に何を求めてるのよ?」


 たしかに、神代の意見はごもっともだった。星咲副隊長。いや、ここでは星咲先輩か。先輩の時も、訓練場での麗華さんとの一戦も、全て蓮がやったもの。


 だけど、今回に限って蓮は熟睡状態だ。きっと激しい戦闘になったとしても、起きることはないだろう。


「じゃ、それぞれ位置について」


「はい!」


 梨央たちが、競技場の中心へと移動する。だけど、最後の1回となった今の彼女らは表情そのものが違った。


 麗華さんが放ったさっきの眼光がきっかけなのだろうか。攻撃魔法がかなり正確に激しく鳴っている。


「みんなその調子! 怪我はボクが責任もって全部対応するから、容赦なくやっちゃってー!」


『はい!』


 怜音の言葉でさらに激しさが増す。もっと、もっと上へ。きっと僕を目標としているのかもしれしれない。


 だけど、僕と彼女らには大きな違いがある。彼女らには、伸び代がしっかりある。今後も訓練次第では強くなっていくだろう。


 だけど、スムーズに強くなってしまった僕に伸び代はあるのだろうか。多分、景斗さんなら『まだある』と言ってくれるかもしれない。


 それでも、蓮があっという間に麗華さんと星咲先輩を倒してしまった。その時点で僕の次の目標は蓮を超えること。


「春日井さん! 攻撃がブレてます! もっと自分の魔力の流れに沿って正確に!」


 麗華さんの指摘が飛ぶ。梨央は遠くからでもわかるような汗をかいて、必死にかじりついている。僕も、こういうのがしたい。


 だけど、自分と彼らでは実力は違う。きっと、僕の方が遥かに上だ。


「よし。試合終了。みんな怪我してるだろうから、順番に並んで」


『はい!』


 怜音がメンバーを集めて、昨日麗華さんと治療したように、凍結治癒を開始する。みんなこれで治るのかと疑問に思っているような表情をしていたが、回復するとすぐにはしゃぎ回る。


 僕もいつか彼に直してもらうんだろうな。そう思っていると、ゲートが開いた。そこから出てきたのは景斗さんで、右手に液体の入った瓶を持っている。


「やあ! 優人さん今朝はごめんね。あの子相当疲れてたでしょ?」


 他の生徒がいるにも関わらず、怜音と同等くらいノリが軽い。『せっかくだから出てきてください』と僕が言うと、こちら側にやってきた。


「たしかに相当疲れているみたいですね……。この様子だったら、どんなに大きな音を出しても起きないと思います」


「だよね。あ、これ」


 景斗さんは僕の方に瓶を渡してきた。これは一体。


「僕が作った濃縮魔力水だよ。今これが飲めるのは、怜音さんと僕くらいだけど、優人さんなら飲めるんじゃ――」


「総司令! 何を考えているんですか!」


「っとごめん。麗華さんはこのノリ嫌いなんだっけ?」


 濃縮魔力水とはなにか。それが真っ先に気になったが、今はそれどころではないようだ。麗華さんは、必死に景斗さんを説得している。


 総司令が上なのか隊長が上なのか。さっぱりわからない状況だ。梨央たちも呆然と立ち尽くし、怜音は少しだけ微笑んでいる。


「ところで、この濃縮魔力水って……」


「は? 見世瀬さん。まさか本気で飲む気ですか

?」


「え? 麗華さんダメなんですか?」


 用意してもらったものは使わせてもらう。これは金欠だった時期に自然とやっていた癖だ。だから、今僕は景斗さんが用意した魔力水がものすごく気になっている。


「麗華。彼が飲んでみたいって言ってるんだから。ね?」


「はぁ……。ですが、これは私が飲めないというか、過去に魔力中毒起こしたというか……。その……えーと……」


「あはは、まあ、彼が気になってるんだから。ね?」


 怜音の押しの強い言葉に、麗華さんはポッキリと折れた。僕は景斗さんから瓶を受け取り開けると、早速飲んでみる。


 一気に流れ込む魔力は、自分が作ったものよりも遥かに濃い。これは普通の魔力水の何倍なのだろうか?


 満タンにだった魔力も壁を壊し。キャパオーバーなのにも関わらずその先へと連れて行ってくれる。まだ物足りない。物足りない。


「これ、すごいですね……」


「あ、もしかして余裕だった?」


「え。あ、はい……。普通に飲んじゃいました。もしかして、景斗さんの予想外しちゃいました?」


 空気を読めなかった自分に対して、心の中で苦笑する。魔力中毒になったことがない分、期待に応えられなかったのが少し悔しい。


「大丈夫。大丈夫。僕は気にしてないから。ってことは、優人さんは飲めるっと……。これで3人か……」


「なんで、人数を数えて――」


「それはね。新しい三龍傑を作るため。正確には、三龍傑に匹敵する能力者を集めるため。かな?」


 そういえば、昨日も麗華さんが三龍傑のことを話していた。女性が一人、男性が二人。その3人から構成された最強部隊。


 思えば景斗さんは三龍傑の子供だと紹介された。


「景斗さんと、三龍傑の関係って……」


「知りたい? かなり長くなるけどね。この見た目だけど、僕もう100歳超えてるから」


「『え!?』」


 怜音と麗華さんを抜いたメンバー全員の声が重なる。どう見ても、景斗さんは20代くらいだ。そして、容姿も少年や青年と呼べるくらい若い。


「さ、これから優人さんと麗華さんが戦うと聞いたけど……。優人さんにはこの魔法式を渡すよ。まだ、完全に再現できてないけどね」


「『話逸らしたー!!』」


「ごめん、ごめん。じゃ、僕はこれから資料をまとめないとだから、帰るね。みんな訓練頑張ってねー。第一部隊で待ってるよー!」


「『逃げたーーーーーー!!』」

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