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第18話

「この世界の真実?」


 僕は景斗さんの言葉を聞き返してしまった。この世界になにかあるのだろうか。僕は残った魔力水を飲む。だけど、景斗さんは次から次へと新しいものを作る。


『これも飲んでいいよ』そう景斗さん言いながら渡してくるので、僕はゆっくり味わうことにした。


「この世界の真実って……」


「だからこれから説明するから……」


「は、はい……」


 手に取る2つ目の瓶。魔力はもうオーバーしているけど、いくら飲んでも溢れることを知らない。僕の魔力はほかと違う。そんなはずがない……。


「三龍傑のことから入ろうか」


「三龍傑? あの麗華さんのスマホに入ってた写真の……」


「見せてもらったんだね。それに僕は新しい三龍傑を作るとも言った。その理由も説明しないと……」


 順を追って説明してくれるのはありがたい。だけど、なんで僕だけに……。それがわからなかった。


「この世界に魔法があるのは、龍と契約した3人。さっきから言ってるけど、三龍傑が来てから。その三龍傑のうちの2人が、いわばアダムとイブのような存在なんだ」


「アダムとイブ?」


「そう。この世界に来た時はもう壊滅状態だった。人の気配もしない。そんな空虚な世界だったんだ。そこを僕の両親。あ……」


 景斗さんの両親? 彼は『言っちゃいけないことを言ってしまった』というように、ハッとした表情で固まる。


「だ、大丈夫です。気にしてないので……」


「そう? ならいいんだけど」


 なんとかなった……。


「つまりここの世界にいる人のほとんどが、僕の両親の子孫ってわけなんだ。僕の両親は魔力を持っている。その魔力を持ってる人同士が交配する。そして、魔力を持たない外国人と交配して、持つ人でも劣化版が生まれる」


「だから。同じ魔法使いでも、精度や魔力の純度。練度の差が違うと……」


「そういうことだね」


 だけど、なんで僕は小学生の時に正確な計測ができなかったのだろうか。それが気になるけど、それ以外にも気になることがあった。


「景斗さんの両親の子孫が多いって……」


「うん。言ったね。僕の親は6人の男と5人の女を育てた。そのうちの1人が僕。しかも長男だからね」


「ということは、1番上?」


 景斗さんは『うん』と頷く。そして、スマホを取り出しコピー機で印刷を始めた。それは、たくさんの名前が書かれている。家系図なのだろうか。


「これが僕の。ううん僕たちのだね。1番上が僕の両親。そこの下に僕の名前。結婚したことがあるのは兄妹だけで、僕は未婚だね」


「え? そうなんですか?」


「うん。恋愛には興味なかったから」


 コピー機は動き続ける。5枚10枚と家系図の表が出てくる。そして、ついに現在の分に辿り着いた。


「うん。やっぱりね……」


「やっぱり……?」


「ほら、ここ。両親の名前で合ってる?」


 僕は渡された紙を見る。そこには男女の名前が書かれていて、読み仮名まで振られていた。苗字を確認すると〝見世瀬〟と書かれている。


「多分。そうです……。だけど、なんで……」


「なんでだろうね。これを見ると、僕と優人さんは遠い親戚ってことになる。そして、ここも見て」


 景斗さんは同じ段の別の紙を渡してくる。それにも目を通してみると……。


「星咲に……中谷……」


「うん。もしかするとこれは斬さんと怜音さんの両親だね」


「たしかに、星咲の下に先輩の名前があるけど、怜音の名前がないです」


 僕の素朴な疑問に、景斗さんは悲しそうな顔をした。なにかあったのだろうか。


「よく気づいたね。残念ながら、怜音さんの両親とは連絡が取れていない。まだ怜音さんの実親なのか確認できてないんだ」


「そんな……」


「うん……。だから、証明できるものがないんだけど……。唯一証明の頼りになるのが、君が今飲んでる濃縮魔力水。僕の魔力に限りなく近い人しか飲めないように作ってある」


「それで、怜音はその魔力水を飲めた……と……」


「そういうことだね」


「だから、僕と血縁関係の可能性も……」


 景斗さんが再び頷く。それでも、彼にはもうひとつ確認しないといけないことがあると、別の紙を用意した。


「今、蓮さんは寝てるんだよね?」


「あ、はい。早朝の訓練以降、ずっと寝ています。自分も起こしに入れなくて……」


「そう。おそらくは……と思ってたことが当たったみたいだね……」


(え?)


 景斗さんは引き出しを開けて、透明な液体の入った注射器を手に持つ。それを僕に差し出してきた。


「これを使うといいよ。上手くいけば目を覚ますと思う」


「わ、わかりました……」


 僕は注射器を受け取って確認する。注射器の先には、中身が出ないようにするカバーが嵌められていた。


 景斗さんが『そのままポケットにしまっても問題ないよ』と言ってきたので、ポケットに入れる。


「あと、この会話は聞こえてると思うから。詳しくは本人から聞いて。まさか、彼がだったとはね」


? あれってなんですか?」


「じゃあ次はその話題にしようか」


 僕は本日4つ目の濃縮魔力水を飲む。だんだん身体が慣れてきていて、飲みやすく感じていた。


 対して景斗さんはまたスマホを操作して、コピー機を動かす。そこから出てきた紙には、工場のような建物の写真だった。


「ここが魔生物暴走事件の発端になった研究所。ここで、絶滅した生き物を復活させようとする団体が生まれた」


「学校で遭遇したニホンオオカミ……」


「そういうこと。あれは、今現在いるオオカミや野犬にニホンオオカミの遺伝子を何度も加えて、存在を近くさせたもの。それがエスカレートして与えられたのが、魔生物の


 景斗さんの顔がどんどん暗くなっていく。僕は不安になりながらも話を聞いた。きっとこれにも伝えがたいことがあるのだろう。


「この研究所の研究員に……。僕の親戚がいたんだ。ある意味での宗教みたいな場所でね。多分調査に入ったのち、入信してしまったのかもしれない……」


「そんな。だけど、それが今日言ってた新しい三龍傑を作ることと関係が……」


「あるよ。ものすごくある」


 景斗さんは追加の魔力水を用意して僕に渡してくる。断りたいけど断れない自分がどうしようもなく感じる。


 これで何杯目だろうか。それすらも忘れているくらいだ。目の前の彼は、さっき見せてきた紙を改めて差し出してくる。


「君にはここの破壊をお願いしたい。本当は斬さんにも親族なのかという確認を取って、三龍傑――いいや、三英傑を正式に結成してからの方が確実にできるんだけど。時間がないからね」


「だけど、僕には破壊系の魔法がないです。今日貰った魔法式も解析して使ってみましたが……」


「早速使ったんだね。どうだった?」


 景斗さんは僕の方に身を乗り出してくる。思わず仰け反る身体は床へ押しつぶされ、持っていた魔力水が全てこぼれた。


「片方は、『幻水』……。もう片方は『水壁』とつけて使用しました。どちらも使いやすかったです……。まず必要な魔力が少なくて、多用しても問題ない感じでした」


「ふむ。幻水と水壁ね。僕のお父さんがつけた名前と一緒だ。もしかしたら、お父さんの魔法を全種使えるかもしれないね」


「え? え!?」


 景斗さんの父親の魔法が使えるとは、どういうことなのだろうか。それ以上にこの魔生物と蓮の関係性が何なのか。


 景斗さんは『部屋に戻っていいよ』と言ってくる。だけど、謎が多すぎて聞きたいことだらけだ。それでも、彼は帰るよう促してくる。


「続きは全部蓮さんが知ってると思うから、そこで詳しく聞いて。僕にも限界があるんだ。夜の訓練の準備もあるからね」


「わ、わかりました。ありがとうございました」


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