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第20話 (後編)

 意識を現実に戻すと、見える世界が変わっているように感じた。また蓮と、一緒に暮らせる。それだけで嬉しいのに……。


 スマホが鳴る。送り主は景斗さんだ。『蓮は起きた?』たったそれだけ書かれている。僕は肯定のメールを送った。


 部屋を出る。もしかしたら、もうここには戻って来れないかもしれない。だけど、まだ未熟でもできることがある。


 再びスマホが鳴る。怜音からの応援要請メール。彼らの方でなにかあったのかもしれない。僕は景斗さんの部屋へ走り出す。


 そして、景斗さんに頼んでゲートを開いてもらい、現場へ向かった。現場は道が入り組んだ住宅街。


 大量の魔物が溢れかえる中でも、怜音や星咲副隊長。麗華さんが戦っていた。その戦闘は激しくなっていて、下っ端は避難誘導をしている。


 だけど、みんなボロボロでかなり疲れている様子だった。そんな中で僕が先に取った行動。それは蓮と交代すること。ここは戦闘慣れしてる彼の方が有利だ。


「怜音! 麗華さん、副隊長! 皆さん僕より後ろに退避してください」


 僕は蓮と交代する前に声掛けを行う。乱暴な戦い方をする彼の攻撃が当たらないように……。


「景斗さんと話してたら遅くなりました。怜音。連絡ありがとう」


「どういたしまして」


 怜音はうんと首を縦に振る。そして、避難誘導の下っ端だけを残して、戦闘組が下がる。


「まず通路に水を張ります! 中は空洞なので問題ないです。その下に住民を通してください」


「了解!」


 僕は言った通りに水で作った膜を張る。そして自分はシャボン玉の上に乗っかり、膜の上に出る。


 真下では避難誘導が本格化し始める。目線を前に向ければ、膜より下へいけない魔物たちが入口を探している。


 しかし、この膜に入口というものは存在しない。全魔力をつぎ込んで作ったものだ。探すのを諦めるくらい広範囲に設置した。


「蓮。魔法使用そのままの状態で交代できる?」


 ――『そんくらいできるっての。あとは任せとけ!』


「うん。お願い!」


 僕はバックヤードへ移動する。蓮の視点がスクリーンに表示される。彼は一気に距離を詰めていくと、水でできた鉤爪で敵を引っ掻いた。


 僕と蓮の共通点。武器は違えど至近距離戦ができること。もう怪我も怖くない。何も、どんなことも怖くない。


 蓮はさらに敵を引き裂いていく。遠くの的は遠距離魔法を駆使して倒し。景斗さんからもらった『幻水』と『水壁』も使用する。


 けれども、その用途が違った。幻水は全て誘導に使い。蓮は単独で戦う。身代わりは作らない戦略だった。


 水壁ともなれば、敵を1箇所に集めるために使っている。蓮の乱舞はとても激しく、こちらまで酔ってしまいそうな勢い。


 そこで、視界が消える。盲視術を発動したらしい。それでも、グワングワンするのが伝わってくる。


 突然聞こえ始める蓮の笑い声。伸び伸びと戦えてることが嬉しいのかもしれない。もっと、もっと暴れて敵を全滅させてくれ。そんな感情がいつの間にか芽生えていた。


「蓮! 順調?」


 ――『順調だ! 避難誘導もちょうど終わった。これで安全だ!』


「了解。そのまま続けて!」


 蓮が昏睡状態になる前よりも、息が合うような気がした。団結力というか、結束力が上がったみたいだ。


 ――『優人! 敵の気配はどれくらいだ?』


「!? え、えーと、あと500から600……!」


 知らず知らずのうちに僕を頼るようになった蓮。2人で一人。僕が蓮に言った『一つになろう』という言葉が、ついに実現した。


 ――『んじゃ。新作出しますか……』


「新作?」


 ――『ああ、オマエとの壁があった間に、ちゃちゃっとな!』


 いつの間にそんなことをしていただなんて。直後視界が回復する。スクリーンに映っているのは黒の大群。これは全てかき集めた魔物らしい。


 ――『俺が……。一度使ってみたかった魔法があってだな。ようやくその試作が完成したんだ』


「使ってみたかったって……」


 ――『三龍傑。片翼が使った大魔法。アイツらの敵でありながらも憧れていた』


 水壁を常時発動させたまま、蓮は語る。彼が上空を見る。空はどんより曇っていた。蓮が右手を上げる。展開される巨大な魔法陣。


 ――『行くぞ!』


「うん!」


 ――『ワールドジャッジメント・ライジング・レイ・ラビリンス!』

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