目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第21話 (前編)

 あれからどれくらい寝ていただろうか。多分もう1日は経っている気がする。だんだんと聴覚が回復していく。


 ここはどこなのだろうか。少しして、美味しそうな料理の匂いがしてきた。重い瞼を開ける。天井の照明が眩しい。


「あ、優人くん起きた?」


「……はい。怜音ここは……」


「ボクの部屋だよ。あの戦闘のあと、君は意識を失ってたからね。もちろん蓮くんも無事。景斗に確認してもらったから」


 それなら良かった。僕は身体を起こそうと、上体を持ち上げる。だけど、なかなか座る体勢になれない。


 非常に身体が重い。そして、だるい。こんなに疲れたことは今までなかった気がした。少しして、怜音の部屋に景斗さんが入ってくる。


 その表情はとても呆れている様子だった。僕に――いや、蓮になにか問題でもあるのだろうか。


「やっと起きたみたいだね」


 景斗さんの第一声。その声色はズンと重かった。


「君が……。いや、蓮さんが使った魔法は禁忌だよ」


「禁忌?」


「そう。あの魔法はかなり危険。失敗すれば記憶を失う。まあ、蓮さんが完成させたのは感心してるけどね」


 そんな危険な魔法を――蓮が使ったということは、もしかしたら僕のことを忘れてしまっているかもしれない。


「じゃあ、蓮は……」


「うふふ。気になる?」


「え?」


 景斗さんがキャラに合わないような微笑を浮かべた。


「魔法は――」


「はい……」


「問題なかったみたいだよ。蓮さんはすごいねぇ……。あんな巨大な魔法を正しい式で作っていた。僕の指導のおかげ……かな?」


 そこで自画自賛するのかと思ったが、魔法は成功していたらしい。つまり、蓮は僕のことをしっかり覚えてくれている。記憶も喪失していない。


 それだけで安心した。


「だけど、今はまた寝てるみたいだね……」 


「ですね。でも、なんで景斗さんはわかるんですか?」


 そうだ。景斗さんは蓮の状況を全部知っている。それも、全て当たっている。それだけでもすごいのに、景斗さんは僕の内側を見れないはずだ。


 すると、景斗さんは右袖をまくり上げ始める。そこには紋章の刻印がたくさんついていた。なんだか痛そうにしか見えない。


「たしか……。この紋章だったかな……」


「すごい量ですね……」


「まあね、大半は自分でつけたものだけど……」


 景斗さんが紋章を起動させる。すると、彼の瞳が緑色に変化した。


「うん。これだね……。蓮さんはー」


「だから寝てますって……」


「だと思う?」


「え?」


 景斗さんは再び微笑を向ける。そして、僕の方へと近づいてきた。


「たしか、ここだったかな?」


 彼は僕の目の前に立ち、首の付け根を引っ掻き始める。痛いのに気持ちいいのは何故なのだろうか。


 すると、心の中でなにかが動いた。蓮の声が聞こえる――気がする。


「やっぱり、起きてたみたいだね」


「で、でもなんで……」


「それはね――、この紋章は優人さんが来た後につけたんだ。これは優人さんと蓮さんの健康を見守るための紋章。構築するのに時間かかったけどね」


 軽くそう言う景斗さんはとても楽しそうだった。でも、これで蓮の意識も確認できたし、改めて一安心だ。


(蓮。聞こえる?)


 ――『ああ。けど、試作でもあれはキツかったわ。改良しねぇとな……』


(たしかに。もっと安全性を上げないとだね)


 僕から見てあの魔法は凄かった。だけど、身体への負担は異常なくらい大きい。そこをなんとかする必要がありそうだ。


 それでも、僕は蓮に憧れてしまう。だけど、彼はあくまでも魔生物の欠片。だから、もし僕が彼に近づきすぎたらどうなるかわからない。


 でも、彼は僕に協力することを決めてくれた。だから、僕も蓮を信用している。信用し続けたい。いつまでもずっと。


 そうしていると、景斗さんは『次は斬さんに用事があるから失礼するね』とだけ言って部屋を出る。


 その後僕は怜音から治療を受けて自室へと戻った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?