四肢を持つ一体の龍。僕はそれを囲うように人を配置した。なぜ僕が指示を出しているか。それは副隊長からの指名。
僕の指示の正確さを褒められ、一時的だが担当することになった。情報提供は蓮に任せている。二人で1人。それが僕だ。
龍は自我を失っているのか、暴れ回っている。いやそもそも自我すら持ってない化け物なのかもしれない。
この龍も実験台だったのだろう。人が無理やり動かそうとして、操られる状態。本当に変な思想を持った人は何をするかわからない。
僕は盲視術を発動させた。副隊長には外部に影響が出ないよう、フィールドの範囲指定を。怜音には空間魔法を利用して、相手の動きの把握を。
僕は他の気配がないかを確認する。蓮にも無理を言って、盲視術の制限時間を解除してもらった。
――『本当に大丈夫なのか?』
「大丈夫。蓮のためだから」
――『わかった。けど、どうなっても知らないぞ!』
「だ、大丈夫だって」
身体はもう動いている。剣を両手に持ち、一気に駆け抜ける。敵の脚まであと数メートル。振り切ったタイミングで弾かれた。
「優人くん! そのまま!」
「ありがとう怜音。怜音は状況把握を中止して戦闘組に入って!」
「オーケー!」
僕はその場に留まり、剣を振り続けた。明日肩を痛めそうなくらい硬い肉質。何度弾かれても、鱗を剥がすように切り刻む。
もっと、もっと力技で行ければ。これに関しては副隊長が適任だろう。僕はフィールド指定を完了させたばかりの副隊長を呼ぶ。
蓮のフォローで通信魔法のコツも掴めた気がした。彼は物知りだ。だから、色んな魔法を作ることができる。
僕は星咲副隊長に頼んで、自分に向かって魔法を唱えるように伝えた。通常水と火は相性が悪い。そんな気がしたが絶対にそういうわけではない。
怜音に頼んで水剣を氷剣に変えてもらう。そこに炎を纏わせる。これだけでもかなり強い。このメンバーだからこそできる連携だ。
斬る度に熱い。だけど、一瞬の冷気で冷やされる。火傷防止も兼ねた作戦はある意味成功だった。
だんだん肉質が柔らかくなっていく。直後ドスンと地面が揺れた。怜音の情報によると、龍がバランスを崩したらしい。
『やった!』と思った。僕は別の脚を攻撃しに向かうが、予定を変更。蓮の欠片を探すことに専念する。
四肢のうち残り3足は怜音と星咲副隊長に任せ、シャボン玉に飛び乗った。ぐんぐん上昇していく感覚。
高所恐怖症でも視覚を失っていれば、そこまで怖くは無い。ここだという位置で飛び降りる。
すると、ゴツゴツとした足場に着地した。きっと龍の背中だ。ここから蓮の意見を聞きながら移動を開始する。
そこでは小さい魔生物の気配も感じた。うようよと蠢いている。非常に気持ち悪いし邪魔臭い。
ライトニングを放ち1体ずつ倒していく。それだけでも大変なのに、手間かかせの化け物だ。
さらに、さらに多く。たくさんの攻撃をしないと意味がない。僕一人で乗り越えられるのか。
いや僕には、怜音よりも、副隊長よりも大事にしないといけない人がいた。僕と身体を共有していて、誰よりも強い人……。
「蓮! 交代!」
――『よしきた!』
主導権を切り替える。蓮が暴れる。欠片探しも彼の方が早いはずだ。身体の向きが斜め上を向く。首の上だろうか?
敵の気配はこの龍だけ。金属音のようなものが響き渡る。だけど、蓮自身も手応えが無さそうだ。
僕はこの音の正体を探る。だけど、それに近いものはどこにもない。蓮に上空へ移動するよう伝える。
高いところはかなり怖い。けれども、怖がってる暇はどこにもない。地上の様子を確認する。そこには第一部隊のメンバーが全員集まっていた。
――『麗華! みんな!』
『蓮さん。見世瀬さん。遅くなり申し訳ございません……。私たちの力もぜひ使ってください』
――『助かる!』
『蓮くん! 魔力供給を第一部隊全員に行き渡るように!』
――『もちろんだ! 任せとけ!』
(みんな……。ありがとう……)
誰にも聞こえない僕の声。だけど、みんな僕を――僕たちを信用してくれている。でも、1つ疑問があった。
僕は紛い物だ。そんな僕を信用する人の方が多い。情報の発信源は景斗さんなのだろうけど、僕の真実を知っているのは景斗さんを除けば2人だけ。
それでも、麗華さんや他のメンバーは僕に協力してくれている――。
『優人! お待たせ!』
(り、梨央!?)
突然の助っ人に僕は驚いた。よく見ると最上位クラスの面々。彼らも助けに来たのだろう。
『皆さんお集まりいただきありがとうございます。飛鷹さんは遠距離支援を――、永井さんと神代さん。春日井さんはサポートに回ってください。できるだけ接近しないようよろしくお願いします』
「『はい!』」
4人が定位置につく。飛鷹以外の3人はヒーラーとして行動を取り始めた。怜音も回復担当と攻撃担当を両立させて、かなり効率的な動きをしている。
副隊長と隊長の連携はとても息がピッタリだった。本来のペアはこの2人なんじゃないかと思えるほどに。
だけど、僕は蓮に任せている。本当にそれでいいのかわからない。だけど、ここは自分で戦う
僕は蓮に入れ替わるよう伝える。しかし、彼は自身の欠片を探すことに集中していて、相当難儀しそうだ。
それでも自分も戦ってると思えば、大丈夫。そんな気もしてきた。
「蓮! 欠片は見つかりそう?」
――『もうあと少しまで来てる。問題ない!』
「了解。どちらにしても吸収するんだよね?」
蓮の動きが止まる。どうやら合ってるようだ。もしかしたら、僕自身が蓮そのものになる日も来るんだろうな。
でも、その覚悟はできている。僕も自分の存在に納得できてない。それなら、僕が消えてもいい。そうなったら、寂しくならないように梨央とも別れよう。
『みーんなーーー! お待たせーー!』
『夢乃ちゃん! オーケー。ヒーラー増員。みんなどんどん戦闘に集中して! ボクも本気モードに移行するよ!』
夢乃さんの到着。それより気になったのは怜音の
これを怜音が一人で。僕の魔力を使ってもこんな大掛かりな魔法を使われたら……。
――『やばいな……。魔力が足んねぇ……』
「え?」
――『怜音のやつがほとんど持っていきやがった……。このままじゃ安定供給ができない』
「……。大丈夫。僕自身が魔力になる」
その発言に蓮が黙り込む。僕が魔力になる。僕自身を犠牲にして魔力を生み出す。一か八かの作戦だ。
だけど、それを蓮が許すかどうか。そこがまず問題。僕は誰よりも蓮を信じている。きっと彼は……。
――『すまない。可能ではあるが危険すぎる』
「ッ!?」
――『俺自身。オマエを失ったら困るんだ。俺が生きているのはオマエがいるから。けど、その生命線が途絶えたら俺も消える。本当にそれでもいいのか?』
「蓮……。でもこのままじゃ……」
――『したいなら勝手にしろ。ただ、手助けは一切しない』
僕の意見を反対された。それは少し悔しいけど、蓮の言う通りだ。改めて、僕が消えた時の梨央の気持ちを考えてみる。
きっと、彼女は悲しむ。必ず悲しむ。僕と梨央は小学生の時からの友達だ。それに今この場にもいる。
――『どうする』
「……。わかったよ。撤回する。撤回するけど、僕の一部。使っていいよ」
――『わかった。だけど、アイツを悲しませるなよ?』
僕自身が感じる魔力が増していく。その全てを仲間に預ける。蓮は戦場で躍動する。彼と自分は本物を見つけるまで…。