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第30話 (前編)

 四肢を持つ一体の龍。僕はそれを囲うように人を配置した。なぜ僕が指示を出しているか。それは副隊長からの指名。


 僕の指示の正確さを褒められ、一時的だが担当することになった。情報提供は蓮に任せている。二人で1人。それが僕だ。


 龍は自我を失っているのか、暴れ回っている。いやそもそも自我すら持ってない化け物なのかもしれない。


 この龍も実験台だったのだろう。人が無理やり動かそうとして、操られる状態。本当に変な思想を持った人は何をするかわからない。


 僕は盲視術を発動させた。副隊長には外部に影響が出ないよう、フィールドの範囲指定を。怜音には空間魔法を利用して、相手の動きの把握を。


 僕は他の気配がないかを確認する。蓮にも無理を言って、盲視術の制限時間を解除してもらった。


 ――『本当に大丈夫なのか?』


「大丈夫。蓮のためだから」


 ――『わかった。けど、どうなっても知らないぞ!』


「だ、大丈夫だって」


 身体はもう動いている。剣を両手に持ち、一気に駆け抜ける。敵の脚まであと数メートル。振り切ったタイミングで弾かれた。


「優人くん! そのまま!」


「ありがとう怜音。怜音は状況把握を中止して戦闘組に入って!」


「オーケー!」


 僕はその場に留まり、剣を振り続けた。明日肩を痛めそうなくらい硬い肉質。何度弾かれても、鱗を剥がすように切り刻む。


 もっと、もっと力技で行ければ。これに関しては副隊長が適任だろう。僕はフィールド指定を完了させたばかりの副隊長を呼ぶ。


 蓮のフォローで通信魔法のコツも掴めた気がした。彼は物知りだ。だから、色んな魔法を作ることができる。


 僕は星咲副隊長に頼んで、自分に向かって魔法を唱えるように伝えた。通常水と火は相性が悪い。そんな気がしたが絶対にそういうわけではない。


 怜音に頼んで水剣を氷剣に変えてもらう。そこに炎を纏わせる。これだけでもかなり強い。このメンバーだからこそできる連携だ。


 斬る度に熱い。だけど、一瞬の冷気で冷やされる。火傷防止も兼ねた作戦はある意味成功だった。


 だんだん肉質が柔らかくなっていく。直後ドスンと地面が揺れた。怜音の情報によると、龍がバランスを崩したらしい。


『やった!』と思った。僕は別の脚を攻撃しに向かうが、予定を変更。蓮の欠片を探すことに専念する。


 四肢のうち残り3足は怜音と星咲副隊長に任せ、シャボン玉に飛び乗った。ぐんぐん上昇していく感覚。


 高所恐怖症でも視覚を失っていれば、そこまで怖くは無い。ここだという位置で飛び降りる。


 すると、ゴツゴツとした足場に着地した。きっと龍の背中だ。ここから蓮の意見を聞きながら移動を開始する。


 そこでは小さい魔生物の気配も感じた。うようよと蠢いている。非常に気持ち悪いし邪魔臭い。


 ライトニングを放ち1体ずつ倒していく。それだけでも大変なのに、手間かかせの化け物だ。


 さらに、さらに多く。たくさんの攻撃をしないと意味がない。僕一人で乗り越えられるのか。


 いや僕には、怜音よりも、副隊長よりも大事にしないといけない人がいた。僕と身体を共有していて、誰よりも強い人……。


「蓮! 交代!」


 ――『よしきた!』


 主導権を切り替える。蓮が暴れる。欠片探しも彼の方が早いはずだ。身体の向きが斜め上を向く。首の上だろうか?


 敵の気配はこの龍だけ。金属音のようなものが響き渡る。だけど、蓮自身も手応えが無さそうだ。


 僕はこの音の正体を探る。だけど、それに近いものはどこにもない。蓮に上空へ移動するよう伝える。


 高いところはかなり怖い。けれども、怖がってる暇はどこにもない。地上の様子を確認する。そこには第一部隊のメンバーが全員集まっていた。


 ――『麗華! みんな!』


『蓮さん。見世瀬さん。遅くなり申し訳ございません……。私たちの力もぜひ使ってください』


 ――『助かる!』


『蓮くん! 魔力供給を第一部隊全員に行き渡るように!』


 ――『もちろんだ! 任せとけ!』


(みんな……。ありがとう……)


 誰にも聞こえない僕の声。だけど、みんな僕を――僕たちを信用してくれている。でも、1つ疑問があった。


 僕は紛い物だ。そんな僕を信用する人の方が多い。情報の発信源は景斗さんなのだろうけど、僕の真実を知っているのは景斗さんを除けば2人だけ。


 それでも、麗華さんや他のメンバーは僕に協力してくれている――。


『優人! お待たせ!』


(り、梨央!?)


 突然の助っ人に僕は驚いた。よく見ると最上位クラスの面々。彼らも助けに来たのだろう。


『皆さんお集まりいただきありがとうございます。飛鷹さんは遠距離支援を――、永井さんと神代さん。春日井さんはサポートに回ってください。できるだけ接近しないようよろしくお願いします』


「『はい!』」


 4人が定位置につく。飛鷹以外の3人はヒーラーとして行動を取り始めた。怜音も回復担当と攻撃担当を両立させて、かなり効率的な動きをしている。


 副隊長と隊長の連携はとても息がピッタリだった。本来のペアはこの2人なんじゃないかと思えるほどに。


 だけど、僕は蓮に任せている。本当にそれでいいのかわからない。だけど、ここは自分で戦うなのかもしれなかった。


 僕は蓮に入れ替わるよう伝える。しかし、彼は自身の欠片を探すことに集中していて、相当難儀しそうだ。


 それでも自分も戦ってると思えば、大丈夫。そんな気もしてきた。


「蓮! 欠片は見つかりそう?」


 ――『もうあと少しまで来てる。問題ない!』


「了解。どちらにしても吸収するんだよね?」


 蓮の動きが止まる。どうやら合ってるようだ。もしかしたら、僕自身が蓮そのものになる日も来るんだろうな。


 でも、その覚悟はできている。僕も自分の存在に納得できてない。それなら、僕が消えてもいい。そうなったら、寂しくならないように梨央とも別れよう。


『みーんなーーー! お待たせーー!』


『夢乃ちゃん! オーケー。ヒーラー増員。みんなどんどん戦闘に集中して! ボクも本気モードに移行するよ!』


 夢乃さんの到着。それより気になったのは怜音のという言葉。瞬間、辺り一帯に雪が降り始めた。


 これを怜音が一人で。僕の魔力を使ってもこんな大掛かりな魔法を使われたら……。


 ――『やばいな……。魔力が足んねぇ……』


「え?」


 ――『怜音のやつがほとんど持っていきやがった……。このままじゃ安定供給ができない』


「……。大丈夫。僕自身が魔力になる」


 その発言に蓮が黙り込む。僕が魔力になる。僕自身を犠牲にして魔力を生み出す。一か八かの作戦だ。


 だけど、それを蓮が許すかどうか。そこがまず問題。僕は誰よりも蓮を信じている。きっと彼は……。


 ――『すまない。可能ではあるが危険すぎる』


「ッ!?」


 ――『俺自身。オマエを失ったら困るんだ。俺が生きているのはオマエがいるから。けど、その生命線が途絶えたら俺も消える。本当にそれでもいいのか?』


「蓮……。でもこのままじゃ……」


 ――『したいなら勝手にしろ。ただ、手助けは一切しない』


 僕の意見を反対された。それは少し悔しいけど、蓮の言う通りだ。改めて、僕が消えた時の梨央の気持ちを考えてみる。


 きっと、彼女は悲しむ。必ず悲しむ。僕と梨央は小学生の時からの友達だ。それに今この場にもいる。


 ――『どうする』


「……。わかったよ。撤回する。撤回するけど、僕の一部。使っていいよ」


 ――『わかった。だけど、アイツを悲しませるなよ?』


 僕自身が感じる魔力が増していく。その全てを仲間に預ける。蓮は戦場で躍動する。彼と自分は本物を見つけるまで…。

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