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第2話

 怜音と別れて、研究所へ戻る途中。池口先生が大学内を案内したいと言ってきた。僕はこれに従ったが、きっと裏がありそうだ。


 池口先生はスマホで何かを調べている。覗き込んでみると、どうやら学校内マップではなく、ニュースサイトのようだ。


 そういえば、最近僕もお世話になってるサイトだと、周辺を警戒しながら歩く。魔生物の気配は消えたものの、まだ油断できない。


 だけど、先生の手元がどうしても気になってしまう。梨央によれば、スマホ依存症の前触れに陥り始めてしまったらしい。


「あった」


「池口先生?」


 先生はとあるサイト記事を引っ張り出して、僕に見せてくる。そこの冒頭には、孤児院のことが書かれていた。


 どうやら、不祥事に関する内容のようだ。池口先生がゆっくりとスクロールする。文章には強調の赤線や黄色い線が引かれている。


 その中で目立ったのは〝見世瀬少年〟というものだった。僕の苗字だ。


「この見世瀬という苗字なんだが……」


「はい?」


「かなり少ない苗字で、キミを見てもしかしたらと――」


 たしかに、僕が知ってる限りでも、同じ苗字の人は両親くらいだ。だけど、もう両親はいないので、より希少苗字化が進んだ気もする。


「見世瀬さん。キミは今いくつ?」


「え、えーと……。あと1ヶ月程で17になります」


「そうか。実はこの記事が書かれたのは約7年前でね。ちょうどキミが10歳の時だ。そして、この記事をよく見てくれ」


「はい……」


〝見世瀬少年10歳。密閉された樽の中で見つかる。発見時より36日前から異音が確認されたが、孤児院管理者及びスタッフは長期間放置〟


「……」


「見世瀬さん?」


「この記事……酷いですね……」


「そうだね……。だけど、最後の部分。見世瀬少年は命に別状はなかったって、書いてあるんだ」


「ほんとだ……」


 もしこれが僕だとしたら。正直関係する記憶が存在しない。忘れてしまってるだけかもしれない。


 でも、この記事を見て少し身体が熱くなった気がした。何かのフラッシュバック。そんなはずはない。


 蓮なら意味がわかるかもしれないが、彼は一向に起きる気配がしない。


 池口先生からページリンクを共有してもらい保存する。大外を回って周辺を散策していると、再び先生が声をかけてきた。


「あの……」


「今度はなんですか?」


「さっきの戦闘で戦ってたのは……」


「僕ですけど――」


 池口先生はかなり控えめな言葉で何かを言おうとする。口はさっきからパクパクと開閉させていて、少し恐怖を感じているような表情を見せていた。


「あの戦い方は――」


 戦闘の前半だけを見ていた――後半は怜音が視界を完全に封印していたため見てないが……。


 その戦い方に関しての質問らしい。僕はどう説明しようか悩んだ。今のスタイルはもう一人の人格・蓮がやってたことを参考にしているだけ。


 個人的な戦闘スタイルではなく、共通に切り替えていた。だから、僕のバトルにも幅ができたイメージだ。


「キミ。怜音から聞きましたが、〝盲視術〟っていうのを使っていると……」


「盲視術のことですか?」


「ええ」


 池口先生は興味津々に聞く耳立てて僕の顔を覗く。あの術は僕と、景斗さん。そして蓮だけが使えるもの。


 かなりの気配察知能力がないと非常に危険なものだ。今も進化をしていることから、僕の知らないところで改良されてるのかもしれない。


 それだけでも、めちゃくちゃ助かっている。


「あの術は真似しない方がいいですよ。今は大丈夫ですけど、前まではものすごく怖かったですから」


「怖い? 怖いとはどういうことですか?」


「それはですね……」


 盲視術は視覚を失った状態で、本能に任せ戦うもの。一般の人が真似できるものではない。


 最近扱いが上達した気がするが、自覚はしていない。自覚しにくいものだ。第一部隊に入ってまだ数週間。周囲の人の方が強く感じる。


「だから、危険なんです。一歩間違えれば、自分や仲間を攻撃してしまうかもしれません。それでも、日々調整して安全性を保ってますけど」


「なるほど……。それにしても、かなり戦闘慣れされてますよね」


「そうですか?」


 池口先生は、小走りで研究所の方向へと向かう。こんな時に空間魔法があれば――しかし、短距離なら歩いた方が早いかもしれないが……。


 約15分ほど歩いて、研究所に戻ると再び長靴を履いて中に入った。チカチカと光る蛍光灯。まだ昼間なのについている。


 先生は僕を施設内の奥へと案内してくれた。そこには、沢山のネズミがケースに入っていて、『これは実験用だ』と言われる。


 その後、何やら準備を始め出して机の上に注射器や、見た事のない器具が出てきた。これから一体何を……。


「見世瀬さん。先程魔生物からの被害に遭った負傷者に自分の血液を投与してましたよね?」


「あ、はい。してました。それが何か?」


「ちょっと採血させてください」


 突然の要件に、僕はどう対応すればいいのか分からなくなった。これで僕の真実を知られたら非常に困る。だけど――。


「分かりました。ですが僕から条件があります」


「条件? とは……」


「僕に関しての全情報を外に出さないでください」


 もうこれしかない。だって、僕自身も自分を知りたいから。池口先生はしっかり首を振る。


「では、腕を見せてください」


「わかりました」


 僕は自分の左腕を見せる。肘辺りの太い血管から採血が始まった。流れていくのは、真っ黒に変色した血液。


 きっと、これは魔生物の一部を持ってる影響の一つかもしれない。池口先生は僕から数本抜き取ると、半透明な容器に入れた。


 向かった先は、大きな冷蔵庫。しかし、これは冷蔵ではなく冷凍とのことだった。僕の血液を冷凍保存するようだ。


 研究所ではこんなことするんだと、正直驚いてしまった。これで何がわかるのだろうか。


 とりあえず、今日はこれで解散らしい。彼が僕に対して何がしたかったのか。それは現時点では全くわからなかった。


「そろそろ教室に戻ろう。キミの戦いぶりも見れたしね……」


「は、はい……」


 その時。研究所内の蛍光灯が点滅を始める。だんだん激しくなる白と灰は、視界を混乱させた。


 点滅を始めて約5分。そこで、完全に消える。直後、僕の後方に亜空間通路が開いた。中から出てきたのは第一部隊・隊長朝比奈麗華。急いで帰るよう言われ、僕は通路をくぐった。


「麗華さん。何があったんですか?」


「それよりもこれを見てください」


「はい?」


 麗華さんに見せられたのは、マップだった。だけど、土地勘がない僕はどこが現在地なのかさっぱりわからない。


 もう一つ気になったのが、映っているマップの上部だけが黄色で、下部は真っ黒になってることだった。


「今関東南区で大規模停電が起こっています。まだ関東北区では被害が出ていませんが……」


「南区? 北区?」


「そうでした。見世瀬さんは、高校周辺しか知らないんでしたね」


 麗華さんは、亜空間から大きなタブレットを取り出した。そこから、広いマップを開く。どこまでも見れそうなくらい大きな地図だ。


「少し長くなりますが、大丈夫ですか?」


「は、はい……。お願いします。隊長」

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