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第8話 (中編)

 蓮と星咲副隊長は仲良いんだか悪いんだか。戦闘が始まって10分。激しさは増していき、怜音の呆れ顔が目に入った。


 お互いボロクソ言いながら、直接、攻撃を与えていく。ボロボロになっていく副隊長の身体。きっと僕の身体もズタボロだろう。


 それでも決着はつかない。どちらも譲ろうとしない。このままではどちらかが倒れるか、地上の人に危害を与えてしまう。


 そんな時。星咲副隊長の身体が凍りつく。蓮も『動きを封じられた』と苦言を漏らし、下を見ると怜音が右手を挙げ冷気を放出していた。


 ゆっくり降下していく。地に足をつけると、怜音から見守っていた人たちに謝るよう言われた。


 しかし、素直に謝れない人同士だからこれも大変だ。僕は蓮に替わるよう伝えると、すぐに交代してくれる。


「なんか、すみません……。暴走しないよう押さえたはずだったんですけど……」


「ふん……。結局は動きたかっただけ……。かもしんねぇな……」


「え?」


 星咲副隊長は怜音に手当てをしてもらいながら、包帯を頭に巻く。だけど、僕には何もしてくれない。


 たしかに今回も蓮が悪かった。だから、何もしてくれない。自分の体を見る。全身に火傷の痕。副隊長の火力は半端じゃない。


「優人くんも手当てした方がいいかな?」


「え? で、でも、悪いのはこっちだし……」


「そんな放っておけないよ。ちょっと腕見せて」


「あ、はい……」


 大きく破れた服の袖。顔を出す皮膚は広く爛れていた。怜音が亜空間から消毒液と大きな綿を取り出す。


 綿に消毒液をつけて消毒してもらうと、電撃が走ったような刺激で頭が痛くなる。


「大丈夫?」


「は、はい……。かなり沁みてますけど……」


「あはは、別に痛いなら痛いって言っていいんだよ。じゃ、治療を始めるから」


「わかりました」


 消毒を終えた火傷部分が氷に覆われる。さっきとは違い痛みは無い。急速に爛れた部分が治っていき、元通りになった。


「ありがとう。怜音……」


「どういたしまして。今日は知らない人だらけでしょ」


「そうですね……。何かあったんですか?」


 そう質問すると、怜音は僕の腕を掴み訓練場の外へと連れ出した。何か言えないことがあるのだろうか。


 鉄扉の外なのに、ザワザワという音が漏れている。どうやらさっきの戦闘で混乱させてしまったらしい。


「今日は第二部隊と合同なんだ。だから、本当は蓮くんには出てきて欲しくなかったんだよね」


「すみません……。たしかに、僕と蓮では話し方も性格も違うから……」


「そうだね。第一部隊でも彼のことは外部には出さないようにしてもらっている。だから、今言い訳を考えているんだけど……」


「言い訳?」


 こんな時隊長がいれば楽なのに、彼女は買出し中。だから、今いるメンバーで解決する必要がある。


 蓮にそのことを伝えると、第二部隊にも共有して貰えばいいんじゃないかと、返答が来た。


「だそうなんですけど……」


「いや、それはやめた方がいいと思う」


「どうして?」


「君はまた実験台にされたい?」


 怜音は低いトーンで言った。


「されたくないです。でも、なんでそんなことを……」


「景斗さんが言ってたと思うんだけど、第二部隊は別名研究部隊。より安全な方法で魔生物を研究し解決法に導く部隊。君の場合は必ずと言ってもいいほど、観察対象にされる可能性が高い。ボクたち第一部隊にとっては大きな痛手だ。だから、第二部隊に蓮くんのことを共有できない」


「わかりました」


 怜音の気持ちはよくわかった。彼に従った方が良さそうだ。僕と怜音は再び訓練場に入る。


 すると、第二部隊の人であろう面々が僕に近づいてきた。


「君第一部隊の副隊長さんから聞いたよ。さっきのバトルほんと凄かった。また見せてよ」


「たしか、レンって言うんだっけ? あの子の戦闘技術見習いたいわー」


「うんうん。動きに無駄はなかったし。攻撃も正確。遠近両方に対応できる彼には尊敬しちゃうかも」


「『え? え?』」


 時すでに遅し。星咲副隊長が全てを説明してしまったらしい。蓮のことが知られたことに怜音はガクりと崩れ落ちた。


 僕は彼に大丈夫か聞くと、ゆっくり立ち上がらせる。しかし、彼の身体は完全に力が入らなくなっていて、非常に重く感じた。


「すみません……。蓮が迷惑かけてしまって」


「……」


 僕の言葉に誰も反応しない。やっぱりここは蓮に任せるしかないのだろうか。とりあえず、蓮を呼ぶことにした。


『目付きが違う……』


 第二部隊のメンバーが口を揃える。だけど、僕自身はどう変化したのかは知らない。


 ――『んーと……。優人。これはどういう状況なんだ?』


(わからない。戻ったらこうなってたんだ)


 ――『そうか。とりま、自己紹介すればいっか……』


(お願い)


 蓮の腕がスクリーンに映る。どうやら挨拶前の髪直しみたいだ。そこまでカッコつけなくてもいいのに……。


『俺は蓮。すまないが、さっきのが普段の姿で、見世瀬優人と言ってな……。俺はただこの身体を依り代にしているだけ……』


『蓮さん! サインください!』


『へ?』


『わたしも! さっきの戦闘でファンになりました! どんな技術を習得してあそこまで無駄なく戦えるんですか?』


『それ。自分も知りたい! ぼく、本当は第一部隊に入りたかったんですけど、能力が足りなくて試験で不合格で。アナタみたいな技術があれば、夢を叶えられますか?』


『ちょ、ちょっと待ってくれ』


 蓮が自己紹介をした瞬間。歩く道が見えないくらいの群れ。我先にと質問を投げかけ、彼は身動きすらままならない。


 これはマズイと思ったけど、微かに蓮の笑い声が聞こえた。ある人からペンを受け取ると、色紙に英字でRenと書く。


 ある人に戦闘技術が知りたいと言われると、楽しそうに解説をする。またある人に魔法のレパートリーを尋ねられると、実演を開始した。


 第二部隊のメンバーは、みんな目を丸くさせてその魔法に浸っていた。どうやら結果オーライだったようだ。


『ありがとうございます! ところで、幻水と水壁の併用と、盲視術はどっちが強いんですか?』


『ん? 俺の実力なら同等くらいだと思うぜ? ただ、盲視術は安定しないな……。最近またミスが見つかってさ』


『ミス? ですが、魔法って誰でも……』


『誰でも使えるって言いたいんだろ? けどな、高度な魔法はしっかりとした魔法式が必要。不備があれば、危険に晒しちまう。盲視術は――っていうか、優人が小学生の時に俺が作った魔法式。今も改良を続けているくらいだ』


『なるほど……』


 メモをとる女性隊員。そこへ、星咲副隊長がやってきた。


『蓮。手の内を明かすのはそこまでにしろ』


『あいあい。俺も疲れたから寝るわ。んじゃな!』


『ありがとうございました!』


 蓮と入れ替わる。僕よりも彼の方が有名になってしまった。少し悔しいがどうしようもない。


 ただ、蓮が魔生物と知られれば終わったのと同じ。それだけは、避けておきたい。


 第二部隊はそれぞれで情報共有をしている。意識空間では、蓮が大きないびきをかいている。


 蓮の即寝は真似できない。本当に疲れたんだなと思った。


 そして、鉄扉が開く。現れたのは、麗華さんと、景斗さんの二人だった。

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