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第11話

 翌日。僕は寝坊して早朝の訓練を欠席した。起きた時にはもう既に6時を過ぎていて、朝食を時短で済ませ登校。


 昨日のパーティーは約5時間に渡って開催され、多くの人からの祝福された。しかし、急激な眠気で倒れ自室に運ばれたらしい。


 亜空間通路を通り梨央との待ち合わせ場所に着くと、僕は彼女に自慢した。梨央も褒めてくれて、気分が良くなった時。


 大学の入口に簡易会見セットが設置されていた。もう、僕が次期隊長ということが知られているのか。


「もしかしてまだ自覚ないんでしょ?」


「う、うん……」


「ほんと、優人って本番に弱いよね……。もっと胸を晴れればいいのに……。ほら、高校の時のみたいに」


 と言われても、高校周辺で魔生物が出てそれを討伐してからの取材は、かなり恥ずかしかった。


 まあ、噛まずに言えたのは自覚してる。けれども、今回感じている緊張感はその時よりも重い。


 僕が次期隊長になる。そう考えると失言は絶対許されない。


 一人の記者が振り向く。すると、会見エリアがザワついた。梨央も本気で僕を椅子の方へと押して行く。


『見世瀬優人次期隊長がお見えになりました!』


「えっ?」


(もうそんな感じで僕のこと呼ばれてるの?)


 驚きが勝り、肩に力が入る。まるでロボットのような動きになってしまい、取材陣は呆然とした顔で僕を目で追っていた。


 こんな姿がスマホやテレビで配信されていると知ると、ものすごく申し訳ない。


 僕が隊長になったとして、上手く第一部隊を引っ張っていけるかどうか。


『見世瀬さん。大丈夫なのでしょうか……』


「ッ!? ダ、ダイジョウブ……デス……」


 何故か言葉が詰まる。梨央も『棒読みになってるよ』と言い指摘。だけど、心拍数は上がっていくばかり。


 異生物のものなのに感情に左右されるのは変わらないようだ。僕は深く。深く深呼吸をした。


「えーと。この度、日本魔生物討伐協会本部より、関東地区第一部隊次期隊長候補となりました、見世瀬優人です。まだ実感は湧いてなくて、頭が混乱しています。未だにこんな僕でいいのかと自問自答している日々が続き、常に〝自分とはなにか〟。〝本物はどこにあるのか〟を探しています。こんな僕ですけど、正式に隊長となった時は、この関東地区だけでなく、日本全体を守護できるよう務めたいと考えています。まだ不完全存在の僕ですが、今後とも第一部隊への応援をよろしくお願いします」


『見事な長文ありがとうございます』


 僕の発言に女性記者が反応する。巻き起こる拍手。カメラマンの後ろにはたくさんの大学生や主婦の姿。


『では、質疑応答に移ります。先程見世瀬さんは、関東地区のみならず、日本全体を守護できるように、と仰いましたが、今現在具体的に考えていることはありますでしょうか?』


「はい。今現在第一部隊は研究を主として活動している第二部隊と共同で、抗ゾンビ化症予防ワクチンの開発を進めており、早期に全国へと提供できるように行動をしています。まだ、抗ワクチンとして有能なものは存在していませんので、ゼロからの開発となり、かなり時間がかかるかもしれません。それでも、被害拡大を防げるよう対応したいと考えています」


『ありがとうございます』


 本番が始まった途端。言葉がスラスラ出てくる。それも、僕が言った内容は、蓮がバックで作成したものを言ってるだけ。


 つまり、これは僕が考えたものではなく蓮が考えたもの。なのにこの説得力はどこから。次から次へと質問を投げ込まれ、蓮は最適な回答を考えていく。


 かなり楽しい。記者もどんどん前のめりになって、約2時間。僕の喉はガラガラに乾いていた。


 近くに立つアナウンサー。僕は魔力水の球体を口に含んで潤しながら続ける。質問数は20件にも及んだ。


 すると、一枚の紙がアナウンサーの方へと渡る。途端、アナウンサーの顔が急激に暗くなった。


『速報です。先程第二部隊指揮官の池口さんより緊急の会見を行うとの情報が来ました。なにやら、次期隊長に関しての新事実が判明したための会見とのことです。第二部隊本部にカメラを移します』


 僕の会見は池口先生に邪魔された。記者たちは散らばっていく。そして、全員がスマホを取り出し、配信アプリを見始めた。


 これはかなり危ないかもしれない。僕は蓮に伝えたが、彼は首を横に振る。最悪な状況になってしまった。


 本当のことを知られれば、僕は脱退させられる。討伐協会から永久追放され、住める場所もなくなる。


 最近知った言葉だが、これをホームレスというらしい。加えてお金があっても店で食べられる可能性も低いだろう。


『再び速報です。先程会見をしました見世瀬優人次期隊長候補は――』


「――は?」


『この世界の救世主になる可能性が限りなく高い、重要人物であることが判明しました』


 どういうことなのか、さっぱりわからない。予想から大幅に外れ、妙な汗が流れ始める。そして、アナウンサーがスタッフに原稿を返すと……。


『と、ここで時間が来てしまいましたので、スタジオに戻します。見世瀬優人さん。本日はお時間をいただきありがとうございました』


「あ、はい……。こちらこそありがとうございました」


 ようやく緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちる。梨央に支えられながら立ち上がると、ゆっくり大学に入っていった。

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