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第22話

 発電施設へと向かってる道中。天井の照明は自室にいた時よりも点滅を繰り返していた。


 電力不足が加速化している。このままでは、供給が間に合わない。麗華さんも『こんな時こそ総司令がいれば』と、何度もため息をついている。


 僕は自分から発言できなかった。慰められる立場ではない。僕はあくまでも〝慰めてもらう〟側だ。


「見世瀬さん」


「なんですか?」


「私が少し前に言った言葉。覚えてますか?」


「麗華さんが少し前に……。発電機内での活動ができれば、ほとんどの環境に適応できる……」


「はい。多少引っかかりますが良しとしましょう。貴方の意志を聞かせてください。貴方の魔力を通して、世界を救いたいですか?」


 麗華さんは意味深な言葉を発する。世界を救いたいか。それは救いたいさ。紛い物の僕でもみんなの役に立てるなら、なんでもしたい。


 それを、天国にいる両親を許したわけではないが、頑張る僕の姿を見せて自分の〝存在意義〟として刻みたい。


「役に立てるなら……。役に立ちたいです……!」


「貴方らしいですね……。総司令から聞きましたよ。ドラゴン戦の時の見世瀬さんと蓮さんの会話を。貴方、自分自身を犠牲にしてまで蓮に指示を出し、自らを魔力変換するよう求めたようですね」


「ッ!?」


 なんでそんなことを知っているのか。景斗さんは、僕と蓮による意識間での会話も盗み聞きできるなんて。


 僕は何も言い返せなかった。麗華さんはさらに続ける。『自らを犠牲にすることと、人の役に立つことは根本的に違う』と。


「第一部隊にいる限り、死を覚悟して挑まなければなりません。ただ、世界を救うためと思って犠牲になるのは、間違っています。もし貴方が隊長になり、仲間を守る盾として消えたら、誰が引き継ぐんですか? そこまで全て考えて犠牲になるなら問題ないです。ただ、無計画で犠牲になれば第一部隊のタメにもなりません」


「そう――」


「貴方は無計画過ぎます。貴方には相応しいくらいの実力と能力がある。そこは私も総司令も星咲さんも認めています。そんな貴方こそ、犠牲者になってはいけないのです」


 犠牲になってるつもりはない。だけど、周りからはそう見えてしまっている。僕が無理をしているから――なんだと思う。


 無理をしているつもりはない。それでも、無理をしようとしてしまう。そうしているうちに、発電施設の大扉へやってきた。


「見世瀬さんに言わないといけないことがあります。発電機内にいる時は、日常生活でできることのほとんどができません。規定蓄電量に到達するまでは、を除いて睡眠も不可能です」


?」


「星咲さんと総司令のことです。彼らは蓄電量に到達するまでの間、何事もないかのようにすやすやと……。総司令ならわかるのですが……。星咲さんは命を削ってますね……」


「それは……。やめて貰いたい……」


「見世瀬さん。その気持ちです」


「……?」


 麗華さんは僕の目を見る。僕はさっきなんて言ったっけ。それが一瞬わからなくなった。


 発電施設の扉が開く。再び歩き出す僕たち。景斗さんが発電機にいた時にはいなかった整備士はもう揃っていて、『いつでもいけます』という顔をしていた。


 ここの光は点滅していない。むしろ眩しいくらいだ。来たのは2回目なのに、まるで別世界。


 天井は高く奥には大きなタンクが置かれている。麗華さんは、蓄電タンクと説明してくれた。


 ここから電気を流し、関東地区全体の灯りを照らす。どれだけの電力と溜められるかは分からない。


 ただそれだけで凄い施設なんだと実感した。


「見世瀬さん。総司令から言われたことですが……」


「なんですか?」


「発電機内で流す電流の強さは、見世瀬さんの意思に従ってください――と。通常この発電機の使用が許可された者は、順々に慣らしていきます。けれでも、今回総司令は好きに決めさせていいと」


 景斗さんが僕に自由選択を。それならもう決まっていた。一度深く深呼吸をする。気持ちを整理して、頭を空っぽにして――。


「僕は――。景斗さんと同じがいいです……!」


「ッ!? 貴方正気ですか!?」


「正気ではないです。だけどです!」


「わかりました。一度総司令と相談させてください」



 ◇◇◇政府会議室◇◇◇



「景斗総司令! なぜそのような者を次期隊長に選出したのだ!」


 そう言い放ったのは、政府側の一人だった。今の議題は、関東地区第一部隊隊長に関してのもの。


 僕が魔生物の一部を持っている優人さんを選んだことに、政府の人間はみな恐怖していた。


「ですが、彼はドラゴン戦で活躍をし。周辺住民を救いました……! 中身と能力、実績は比例しないと……!」


「では、その見世瀬殿が魔生物として覚醒し。市民や国の敵になったら、責任は取れるのか?」


「取れます。僕なら彼を制御できます」


「それは誠か?」


「はい」


 キッパリと言い切ることができたことに、少し緊張がほぐれる。この話題が始まったのは、今から20分前だ。


 初めに優人さんを選出した理由を改めて伝えた。しかし、最悪なことにこの場には池口指揮官の姿があった。


 彼が優人さんの真実を述べたことで、状況は一転。僕が責められる羽目になってしまい、今がある。


 会議室はそこまで広くない。数人入れる程度のもので、大きなテーブルに椅子が数十。だけど人はまばらだ。


「しかし――」


 政府側の人間が一言発する。まだ納得が行ってないらしい。僕も無理強いはしないが、不安がる気持ちはわからなくもない。


「反論あるならどうぞ」


「そうだな……。その見世瀬優人というのは、第一部隊に入ってどれくらいだ?」


「たしか1ヶ月くらいだと思います。現在16歳。来月の12月1日に17歳になります」


「魔生物の臓器を持っていて、今16歳……。思った以上に若いな……」


 僕はその言葉に頷いた。池口指揮官は黙っている。まるで、何処吹く風とでも言うように、空笛を吹きながら。


 そんな時。僕のスマホが鳴った。会議室にいるメンバーに退席を伝えると、部屋の外へ出る。


 通話をしてきたのは、朝比奈麗華さんだった。出ると、かなり焦ったような吐息が聞こえる。


「麗華さん? 何かあったのかな?」


『それが……。これから見世瀬さんに魔力発電機へと入ってもらうのですが、そこで選んだプランを総司令と一緒にしたいと』


「やっぱりそうなるよねー」


『はい?』


「いや、僕の想定内ってこと。そのまま僕と同じのプランでいいから。彼ならきっと耐えられる」


『かしこまりました』


 プチンという音で通話が切れる。僕が部屋に戻ると、さっきまでいなかった人物がいた。


 吾妻あずまりょう。現役小学生にして中部地区第一部隊隊長と総司令を兼任しているという経歴を持っている。


 たしか今小学校6年だったか。それで、第一部隊の頂点に立っているのだから、僕でも尊敬してしまう。


「あのさ。その優人くんって子。ぼくよりも強い? どうなの? 関東地区総司令」


「多分彼単体だと、君には勝てないかもね」


?」


「そう。優人さんには、君より強い人が眠っている。もしそっちと戦えるのなら、吾妻さんは戦ってみたい?」


「は、はい。ぜひぜひ。ぜひぜひぜひ! 最近ぼくより強い人が現れなくて、困ってたのですよ!」


 これが小6が言う言葉……。感覚そのものが、戦闘民族化している。強者を求めるのはいい。だけど、彼は求めすぎだ。


 バトル好きの中では斬さんよりも強い。まずまず、斬さんは好きでバトル好きではないので、また彼は別の部類だ。


 次に浮かぶのは、優人さんの別人格である蓮だろうか。彼も怒り強い面があるが、彼の場合は魔力が時折不安定になり、手加減が効かなくなる。


 つまり、冷静さとバトル好きを両立している涼さんは蓮と戦った時に、様子見から入るはずだ。


「ねぇねぇ。関東地区総司令官♪ そのつよーい人ってどこにいるのー?」


「今、魔力発電機の中で電力に置き換える魔力炉に魔力提供しています」


「ふーん。まりょく。まりょく、まりょく。それ本当に大丈夫なの? 彼は魔力発電機に入るの何回目?」


「今回が初めてです。ですが、彼の好きなようにさせています。今彼は、僕と同じ最大出力での誘発電流を受けています」


「え? え? え? それ、ヤバくない? 初めてで、関東地区総司令と同じ出力って。いくら全日本魔生物討伐協会総司令最強ランキング2位のぼくでも、無理だよ」


「そうですね」


 僕の興味はいつの間にか彼に向かなくなった。まだまだ涼さんは子供だ。思考も身体も精神面も子供だ。


 けれども、こんな彼が蓮と戦ったとしたら――。とても面白いことが起こるだろうと、僕の脳にビリリと刺激がくる。


「分かりました。優人さんには無理なお願いになってしまいますが……。彼の中の強者と勝負してください。政府側の皆さんも全員関東地区第一部隊訓練場に集まるということで、異論はありますでしょうか?」


「『なし』」


「では、これで行きましょう。僕の後ろについてきてください」

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