「……支えられてきました」
美琴のその言葉が、胸の奥深くに染み渡っていた。
ただ一緒に行きたいんじゃない。
――彼女を“支えたい”から、共に行きたいんだ。
その想いが、はっきりと輪郭を持った瞬間。
僕の体は自然と動いていた。
勾玉を握る手がわずかに汗ばみ、構えを取る。
風が、紅葉をさらりと揺らす音が耳に届く。
森の冷たい空気が頬をなぞり、静かに緊張を煽ってきた。
――支えたい。
その願いを心の奥から強く放った瞬間、
勾玉が、まばゆい光を放ち始めた。
「……星燦の礫!!」
放たれたのは、碧と紅の霊気が溶け合った一撃。
これまでとは比べ物にならない、圧倒的な力を宿した光弾だった。
バチィィィン!!!
轟音が森を貫き、空気が震える。
落ち葉が宙に舞い、風が渦を巻く。
そして――
結界が、動いた。
揺れる。
押される。
一瞬だけ、たわんだ。
「……っ、はぁ、はぁ……」
膝が震え、息が乱れる。
勾玉を握る手が熱を帯びていて、全身から力が抜けていくようだった。
その時――
「……合格ですね」
美琴の柔らかな声が、耳に届いた。
穏やかに光る茶色の瞳。
どこか嬉しそうに微笑むその顔が、秋の陽光に優しく照らされている。
後ろで束ねた髪が風に揺れ、
その姿が、少し眩しく見えた。
「……よかった……」
胸の奥に張り詰めていた緊張が、ふっと溶けていく。
美琴が一歩、僕に近づいてきた。
「先輩。体力をしっかり回復させて――
次の休日に、廃工場へ向かいましょう」
静かだけど、まっすぐな言葉。
その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
風に揺れるブレザー。
その中に、確かな覚悟が見えた。
――ようやく、並び立てる。
どうにか、
彼女と一緒に、“あの場所”へ行くことが許されたんだ。
数日が過ぎた。
学校では、いつもと変わらない時間が流れていた。
翔太と他愛のない話をし、美琴が静かに微笑む。
冷たい風が教室の窓から吹き込んで、カーテンがふわりと揺れる。
光に包まれるような、穏やかな午後。
なんでもない日常が、どこか眩しく感じられた。
──夜。
ベッドに横になりながら、天井を見つめていた。
眠れない。
時計の針は、22時30分を指している。
布団の中で何度も寝返りを打つけれど、頭は冴えたままだ。
明日は、いよいよ――廃工場へ向かう日。
あの時、美琴が言った言葉が、ふと脳裏をよぎる。
『危険です』
あの美琴が、真顔でそう言ったのは……初めてだった。
不安がないわけじゃない。
むしろ、今こうして眠れないのが、その証拠だ。
……たぶん、僕は怖いんだと思う。
だけど、行きたくないわけじゃない。
美琴があそこへ行くのなら――
僕も行かなきゃいけないとそう思ってしまうんだ。
…それだけは、揺るがなかった。
外では、風が木々の葉を揺らしていた。
じっとしていると、余計に思考が絡まり合う。
「……ちょっと散歩しよう」
僕は、黒ブレザーを羽織り