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十五話 反撃

「先輩!!」


美琴の叫びが響いた瞬間——


——シュッ!


ナイフが僕の首筋をかすめた。


「っ……!!」


鋭い痛みが走り、皮膚が裂ける感覚が広がった。

熱いものが首に流れ、思わずよろめく。


「ぐっ……!」


首に手を当てると、じわりと温かい液体が指に絡みついた。

視界が一瞬揺れ、息が詰まるような感覚が襲ってくる。


『おいおい、まだ始まったばかりだぜ?』


黒崎がニヤリと笑う。

ナイフを軽く振って、刃に付いた血を払う仕草が不気味に映った。


——ヒュン!


次の瞬間、また刃が飛んできた。


「っ!!」


咄嗟に身を捻る。

肩をかすめ、服が裂ける音が響いた。

浅い切り傷が熱く疼き、腕が重くなる。


「うっ……!」


「先輩、下がってください!!」


僕と黒崎の間に幽護ノ扉が展開される。


『ちっ!!鬱陶しいガキだな!!』


彼女の手が光り、紅い霊力が渦を巻き始める。


「星燦ノ礫!!」


——バシュッ!


小さな光弾が放たれた。

紅く輝く礫が、黒崎に向かって一直線に飛ぶ。


だが——。


「はっ、なんだそりゃ?」


黒崎が軽く身を傾け、あっさりとかわした。

光弾は彼の横をすり抜け、石津製鉄所の壁に当たって弾け散る。


──


「……っ!」


美琴の顔が歪んだ。

彼女の息が、少し乱れているのが分かる。


もう一度、手を構える。


「星燦ノ礫!!」


——バシュッ! バシュッ!


二発の光弾が連続で放たれた。

でも、黒崎は嘲笑うように体を揺らし、軽々と避ける。


「おいおい、狙い定めんのヘタクソだなぁ。」


黒崎が舌打ちしながら笑った。


「……っ!」


美琴の手が微かに震えている。


その時、僕は気づいた。


——黒崎の後ろ。


暗闇に浮かぶ、血まみれの霊たち。

朦朧とした表情で佇む被害者たちの姿。


美琴はそれを見てるんだ。

半年一緒にいるから分かる。

彼女は、あの霊たちを巻き込みたくないから出力を抑えている。


「美琴……!」


僕が叫ぶと同時に、黒崎が動いた。


——ヒュンッ!!


ナイフが再び僕に向かって振り下ろされる。


「っ!!」


全力で跳んだ。

床に転がり、なんとか刃を避ける。

腕に軽い切り傷が増え、血が滴って視界が一瞬揺れた。


「ハハッ、いいねぇ、その慌てっぷり!!」


黒崎が哄笑する。

ナイフを弄びながら近づいてきた。


---


——ヒュン!


また刃が来た。


今度は動きを読んで、横に飛び退く。

床に手をついた瞬間、傷口がズキッと痛み、息が詰まった。

汗が額を伝い、首の傷から血が流れ落ちる。


「ちっ!!避けるんじゃねぇよ!!」


黒崎は当たらなかった事に苛立ちを見せ始めた。


…少しずつ慣れてきてる…。


黒崎の動きにパターンがあるんだ。


ナイフを振る前に、肩が微かに動く特徴がある。


——シュバッ!!


刃が閃く。


左に跳ぶ。

ナイフが空を切り、床に火花が散った。

だが、足がふらつき、膝が一瞬震える。


『チッ、しぶといな!』


——わかってきた。


攻撃は速いが、完全な予測不能じゃない。

黒崎の動きを見切れば、避けられる。


でも——。


「くそっ……! 傷が……」


僕の足がふらつき、視界が揺れた。

血が滴り、床に赤い染みが広がる。

首と肩の傷が熱を持ち、腕が思うように上がらない。


でも、まだ動ける。

歯を食いしばって耐えた。


そして…


黒崎が近づいてきた。


ナイフを突き出せば刺さる位置…!


でもこいつは刺すではなく、振り下ろしてくる。


——今だ!


僕の手が光る。

美琴から教わった術。

僕にできるのは弾き飛ばす程度で、反撃はこれが精一杯だ。


「星燦ノ礫!!」


——バシュンッ!!


光弾が、至近距離で黒崎に直撃した。

いくら黒崎でも近くだと避けられないだろう。


『ぐっ!?』


黒崎が勢いよく後ろに吹き飛ぶ。

床に叩きつけられ、ナイフが転がった。


「先輩!?」


美琴が駆け寄ってくる。


「……なんとか当てられた。」


息が荒い。

腕と肩の傷がズキズキして、首の血が止まらない。

視界がチラつくけど、なんとか立っている。


黒崎がゆっくり立ち上がる。


『お前も変な術みたいの使うのかよ…!』


ナイフを拾い、構え直した。


『先にお前をズタズタにしてやる。』


「……先輩、私が前に行きます」


美琴が僕の前に立とうとするのを、掴んで後ろに下げた。


「バカ言わないで。大丈夫 、慣れてきたから」


美琴の目が驚きで見開かれる。


美琴とアイツの相性はきっと悪い。


なら僕が…。


黒崎が、低く笑う。


『仲良いねぇ。だからどっちも殺してやるよぉ!!』


再び、ナイフが僕たちに向かって振り下ろされた——。


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