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十六話 分断

ナイフを振り下ろしてくるのを避けた僕達。


石津製鉄所の狭い通路を抜け、広いホールへ飛び出した。


「先輩、こっちです!」


美琴の声が響いた瞬間——


——シュバッ!!


背後から空気を裂く音が迫る。

黒崎のナイフが、真っ直ぐ僕の首元を狙って飛んできた。


「っ!!」


反射的に左へ屈む。


——キィンッ!!


鋭い音が耳を掠めた。

刃が壁に突き刺さり、火花を散らす。


『チッ、また避けやがった!!』


黒崎が舌打ちし、ナイフを引き抜いた。

その手つきが荒々しく、苛立ちが露わになっている。


僕は汗を拭いながら黒崎の動きを観察する。


首の傷がズキズキして視界が揺れるけど、まだ…大丈夫。


美琴の両手が紅く輝く。

霊力が収束し、空気が熱を帯びた。


「星燦ノ礫!!」


——バシュンッ!!


紅い光弾が放たれる。


黒崎がそれを回避した。


『しつこいくそガキだな!!』


黒崎が吼え、ナイフを握り直す。

右足を軸に体を捻り——


——スパァンッ!!


刃が鋭い弧を描きながら、下から斬り上げてきた。


「っ!!」


ギリギリで跳び退く。

服の裾が裂け、太ももに細い切り傷が走る。

血が滲み、足が一瞬重くなった。


「先輩!?」


美琴の声が焦りに染まる。

そして——


「もう——やめて!!!!」


美琴が叫ぶと同時に、霊力が膨張するのを僕の霊眼が捉えた。


——ゴウッ!!


圧倒的な紅い光が放たれる。

巨大な「星燦ノ礫」が、猛然と黒崎へ向かって突進した。


「——!?」


黒崎の目が見開かれる。


『あ……?』


一瞬、声が詰まった。


『ちょっ……!!』


焦りが全身に滲み出る。


『待っ……お、おい、マジかよ!? 嘘だろ!!?』


全身が跳ねるように動き、今までの余裕が微塵もない。


『おいおい、待てって!!! 』


必死の形相で横に飛び込む。

転がるように逃げ——


——ドガァァンッ!!


光弾が壁に当たって爆発し、コンクリートが砕け散った。


バラバラッ!!


鉄骨が崩れ、工具や破片が床に倒れ落ちる。

ホール全体に轟音が響き、埃が舞い上がった。


『……うわっ!?』


黒崎が尻餅をつき、ナイフが手から滑り落ちる。

口元が小刻みに震え、体が硬直していた。


『お、おい!?』


目をギョロつかせ、呼吸が乱れている。


『な、なんだよそれ!!? ふざけんな!!!』


今までの威圧感はどこへやら。

顔色が青ざめ、動揺が露骨に表れていた。


「美琴、いまのは……!」


後ろにいる怨霊達に当たったら…ただでは済まなかっただろう。


「……っ、ごめんなさい!

焦ってしまって……!」


黒崎は震える手でナイフを拾い、立ち上がる。


『くそっ、お前ら……!!』


目は泳ぎ、汗が滴る。

今度は慎重に、機械の影へと身を隠した。


「……逃げた?」


僕が呟く。


美琴が息を吐いた。


「みたいですね。

それより…先輩、大丈夫ですか!?」


僕の首と肩から血が滲む。

足の傷も疼き、立ってるだけで息が荒くなる。


「……うん…なんとか。」


黒崎の気配が遠ざかる。

隠れたまま、しばらく静かだ。


──


少し身体を休ませていると…


——ガシャン!!


突然、天井から工具が落ちてきた。

吊るされた鉄パイプが崩れ、床に激突する。


「っ!?」


僕が右に跳び、美琴が左に避けた。

鉄の壁が2人を分断する。


「先輩!」


美琴の声が遠くなる。


——ヒュンッ!!


暗闇から黒崎が飛び出し、美琴に突進。

ナイフを右肩から振り下ろす。


『死ねよ!!』


殺意が剥き出し。

刃が唸りを上げて迫った。


「——幽護ノ帳!!」


美琴の声が響いた。


そして、その直後…


——バチィィ!!と結界に何かが当たる音が聞こえてきた。


恐らくナイフだ。


「っ……!!?」


僕には、美琴の状況が見えなかった。

鉄骨が崩れた直後、彼女の姿は視界から消えている。


(美琴…!)


胸の奥がざわつく。

どこか、見える場所へ。そう思って、僕は駆け出した。


そして──

ようやく、鉄パイプの隙間から“彼女”が見えた。


(……美琴!!!)


その瞬間、喉がひゅっと締まる。

首の傷がズキリと疼き、思考の隙間を痛みが突く。

胸の奥が強く、ぎゅうっと締めつけられるようだった。


“間に合わなかったら”という不安が、脳裏をよぎった。

美琴の方を除くと、幽護ノ帳を全方位に展開して、どうにか黒崎の攻撃を防いでいた。


黒崎はナイフを何度も振っているが連続で弾かれる。

黒崎が歯を剥き、さらに連撃。

右、左、上と、乱暴に振り回す。


美琴は結界を維持するが——


「……っ!」


彼女の膝が震え、息が荒い。

結界に細かなヒビが入り始めた。


『ハハッ、時間の問題だな!!』


黒崎がナイフを振り上げ、次の突きを狙う。


「美琴!大丈夫!?」


「……なんとか!

でも、長くは——!」


ミシミシ……!


結界が軋む音が響く。

時間がない。


——どうする!?


黒崎のパターンは分かってる。

肩を引いて突進、乱暴な連撃。

でも、この状況じゃ——。


頭をフル回転させる。

何か策を。

何か——。



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