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十七話 挑発

ミシ……ミシ……ッ!!


美琴の結界が揺れる。

黒崎のナイフが、狂ったように叩きつけられていた。


「……っ!」


美琴の肩がわずかに震える。

紅い結界に、無数のヒビが走る音が石津製鉄所のホールに響いた。


——長くはもたない。


黒崎の動きに目を凝らす。

肩を引いて突進、乱暴な連撃。

そして——短気で、自分を大きく見せようとする性格。


これなら……!


「おい!!」


声を張った。


「黒崎!!」


ナイフを振り下ろしかけていた黒崎の手が止まる。

ギリッと歯ぎしりの音が聞こえた。

効果あり。


『あぁ!?』


「お前、か弱い女の子しか狙えないのか!」


ピキッ……と、確かに何かが弾けた音がした気がした。


「だっさいなぁ!!!女の子ばかり狙うなんて!」


『……何!?』


黒崎の目が吊り上がる。

ナイフを握る手が震え、顔が見る間に赤くなった。


『てめぇ……黙れよ!!』


予想通り。

黒崎は挑発に相当弱い。


「お前、強がってるけどさ!

隠れて工具落として、ビクビクしながら美琴を襲う事しか出来ないヘタレだろ!!」

慣れない口調で、僕は黒崎を挑発する。


「——キレたぞ、ガキ!!!」


黒崎が吠えた。


鉄骨をすり抜け、僕へ向かって一気に突進してくる!!


——来た!!


右肩を引き、全力の振り下ろし。


——ヒュンッ!!


空気が裂かれる音が耳元を掠める。


「っ……!!」


僕は左に跳び、床に膝をついて回避。

刃が床を削り、**バチバチッ!**と火花が散った。


「先輩!!」


鉄パイプの向こうから、美琴の声が震える。

顔は見えないが、焦りが声だけで伝わってきた。


「やめてください!!」


美琴が叫ぶ。


今は黒崎を引きつけるのが目的だ。


「お前、当てるの下手だなぁ!!」


『ぶっ殺す!!!』


黒崎の顔が歪み、さらに突進。

肩を引き、上段から振り下ろす。


——ヒュンッ!


タイミングを計り、後ろに飛び退く。

刃が空を切り、黒崎がバランスを崩した。


『チッ!だりぃガキだな!!』


黒崎が左から斬りかかる。


荒い息、振り回す腕。


僕は体を低くして右へ滑る。

刃が髪をかすめ、ゾクリと冷たい汗が背中を伝った。

首の傷が疼き、足が重い。


鉄パイプの向こうで、美琴の声。


「先輩、無理しないで!!」


反応は…しない。


黒崎の狙いが美琴から完全に外れたなら、それでいい。


黒崎が再び突進。

左足を踏み込んで横薙ぎ。


——シュッ!!


右に跳び、鉄パイプの陰に隠れる。

刃がパイプに当たり、**キィィンッ!!**と甲高い音が響いた。


『逃げてばっかじゃねぇか! 正面から来いよ!!』


「お前と違って、僕には武器がないからね……

でも、“こんな状態の僕”にすら当てられないなんて、どうかしてるよ」


挑発の言葉に、黒崎の眉が跳ね上がった。

こめかみがピクリと引きつり、怒りの色が剥き出しになる。


『——てめぇェッ!!!』


もはや、美琴を見る余裕すらない。

視界に映るのは、ただ僕ひとり。


殺意だけを燃料にして、黒崎が地を蹴る。


ナイフを両手で握りしめ、肩を引き、渾身の突き。


「——っ!!」


ヒュンッ!!!


床に膝を落とし、上体を思いきり反らす。


刃が鼻先を掠めていった——その瞬間。


顔を撫でる風圧。

皮膚が切られたようにヒリつく。

そして……肩の傷が、ズキン、と脈打った。


痛みで視界が歪む。

それでも、倒れるわけには行かない…!

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