ミシ……ミシ……ッ!!
美琴の結界が揺れる。
黒崎のナイフが、狂ったように叩きつけられていた。
「……っ!」
美琴の肩がわずかに震える。
紅い結界に、無数のヒビが走る音が石津製鉄所のホールに響いた。
——長くはもたない。
黒崎の動きに目を凝らす。
肩を引いて突進、乱暴な連撃。
そして——短気で、自分を大きく見せようとする性格。
これなら……!
「おい!!」
声を張った。
「黒崎!!」
ナイフを振り下ろしかけていた黒崎の手が止まる。
ギリッと歯ぎしりの音が聞こえた。
効果あり。
『あぁ!?』
「お前、か弱い女の子しか狙えないのか!」
ピキッ……と、確かに何かが弾けた音がした気がした。
「だっさいなぁ!!!女の子ばかり狙うなんて!」
『……何!?』
黒崎の目が吊り上がる。
ナイフを握る手が震え、顔が見る間に赤くなった。
『てめぇ……黙れよ!!』
予想通り。
黒崎は挑発に相当弱い。
「お前、強がってるけどさ!
隠れて工具落として、ビクビクしながら美琴を襲う事しか出来ないヘタレだろ!!」
慣れない口調で、僕は黒崎を挑発する。
「——キレたぞ、ガキ!!!」
黒崎が吠えた。
鉄骨をすり抜け、僕へ向かって一気に突進してくる!!
——来た!!
右肩を引き、全力の振り下ろし。
——ヒュンッ!!
空気が裂かれる音が耳元を掠める。
「っ……!!」
僕は左に跳び、床に膝をついて回避。
刃が床を削り、**バチバチッ!**と火花が散った。
「先輩!!」
鉄パイプの向こうから、美琴の声が震える。
顔は見えないが、焦りが声だけで伝わってきた。
「やめてください!!」
美琴が叫ぶ。
今は黒崎を引きつけるのが目的だ。
「お前、当てるの下手だなぁ!!」
『ぶっ殺す!!!』
黒崎の顔が歪み、さらに突進。
肩を引き、上段から振り下ろす。
——ヒュンッ!
タイミングを計り、後ろに飛び退く。
刃が空を切り、黒崎がバランスを崩した。
『チッ!だりぃガキだな!!』
黒崎が左から斬りかかる。
荒い息、振り回す腕。
僕は体を低くして右へ滑る。
刃が髪をかすめ、ゾクリと冷たい汗が背中を伝った。
首の傷が疼き、足が重い。
鉄パイプの向こうで、美琴の声。
「先輩、無理しないで!!」
反応は…しない。
黒崎の狙いが美琴から完全に外れたなら、それでいい。
黒崎が再び突進。
左足を踏み込んで横薙ぎ。
——シュッ!!
右に跳び、鉄パイプの陰に隠れる。
刃がパイプに当たり、**キィィンッ!!**と甲高い音が響いた。
『逃げてばっかじゃねぇか! 正面から来いよ!!』
「お前と違って、僕には武器がないからね……
でも、“こんな状態の僕”にすら当てられないなんて、どうかしてるよ」
挑発の言葉に、黒崎の眉が跳ね上がった。
こめかみがピクリと引きつり、怒りの色が剥き出しになる。
『——てめぇェッ!!!』
もはや、美琴を見る余裕すらない。
視界に映るのは、ただ僕ひとり。
殺意だけを燃料にして、黒崎が地を蹴る。
ナイフを両手で握りしめ、肩を引き、渾身の突き。
「——っ!!」
ヒュンッ!!!
床に膝を落とし、上体を思いきり反らす。
刃が鼻先を掠めていった——その瞬間。
顔を撫でる風圧。
皮膚が切られたようにヒリつく。
そして……肩の傷が、ズキン、と脈打った。
痛みで視界が歪む。
それでも、倒れるわけには行かない…!