『てめぇ……ちょこまかと……!もう許さねぇ!!』
黒崎が吐き捨てると同時に、視界から姿を消した。
「……っ、はぁ、はぁ……今度は何を……?」
荒れた呼吸のまま、僕は辺りを警戒する。
そのとき——
奥のシャッターの向こうから、
ドドドドド……ッと重い機械音が響いてきた。
(まさか……!)
嫌な予感が脳裏をかすめた、まさにその刹那。
バギャアアアッ!!!!
シャッターが破壊音を立てて吹き飛び、
突き破ってきたのは……工場の重機だった。
記憶に出てきた…人を轢き殺したあの重機…!
操縦席には黒崎。
目を見開き、歯を剥き出しに笑いながら、
その鉄の巨体を操って、まっすぐこちらへ突っ込んでくる。
(やばいっ……!)
僕はとっさに物陰へ飛び込み、地を這うように身を伏せる。
ズシャアアッ……!!
タイヤが擦れる音が、耳を裂いた。
風圧で鉄の破片が飛び、服が切れる。
『ハハハ……お前もう限界だろ? さっさと死んでくれよ』
黒崎の声が、騒音に混じって響いてくる。
……たしかに、もう限界だった。
脚が震え、膝が笑う。
視界が滲み、頭がぼんやりする。
呼吸が浅く、傷の痛みは鈍く、でも確実に体を蝕んでいた。
どうにか機械の残骸を盾にしながら、距離を取る。
——ガシャン!!
重機が残骸にぶつかり、鉄がメキメキ軋む。
黒崎の笑い声が響いた。
『ハハハッ!! 逃げても無駄だ!!』
息が切れる。
体力の限界が近い。
クレーンの影が迫る。
——ギシッ!!
残骸の隙間を抜け、壁際に逃げる。
重機がすぐ後ろに。
『潰すぞォ!!』
——ドンッ!!
横に飛び、床に転がる。
衝撃で埃が舞い、耳がキンとする。
視界が揺れ、もう一歩も動けない——。
「先輩っ!! こっちです!!」
美琴の声が聞こえた。
廃工場の奥、暗闇の中から。
「……美琴!?」
僕は驚いた。
動かない足を、どうにか立たせる。
そして、最後の力を振り絞って駆け出した。
──美琴の声の方向へ。
重機の軋む音が背後に迫る。
——メキメキッ!!
彼女の姿が見えた。
壁際で、手を振ってる。
「こっち!!」
全力で駆ける。
美琴の立ってる場所へ僕は飛び込んだ。
——ドンッ!!
背後で重機が突進。
黒崎が僕を追って、そのまま——。
「——!?」
突然、紅い光が炸裂。
御札が貼られた壁が輝き、結界が展開される。
『ぐあああっ!!』
黒崎の叫び声。
運搬車ごと結界に突っ込み、彼が激しい痛みに襲われる。
体が痙攣し、運転席で悶えた。
「な、何だこれ!?動けねぇ!!」
結界の中で苦しむ。
重機が止まり、機械音が静まる。
「…はぁ、はぁ…はぁ…美琴、やったね…!」
僕は膝をつき、柔らかく笑う。
美琴が駆け寄る。
「先輩、無茶しすぎです!!!!!」
彼女の声が怒りに震えていた。
これは…怒られるな…。
でも…美琴が無事ならそれで良かった。