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十八話 結界術

『てめぇ……ちょこまかと……!もう許さねぇ!!』


黒崎が吐き捨てると同時に、視界から姿を消した。


「……っ、はぁ、はぁ……今度は何を……?」


荒れた呼吸のまま、僕は辺りを警戒する。


そのとき——


奥のシャッターの向こうから、

ドドドドド……ッと重い機械音が響いてきた。


(まさか……!)


嫌な予感が脳裏をかすめた、まさにその刹那。


バギャアアアッ!!!!


シャッターが破壊音を立てて吹き飛び、

突き破ってきたのは……工場の重機だった。


記憶に出てきた…人を轢き殺したあの重機…!


操縦席には黒崎。


目を見開き、歯を剥き出しに笑いながら、

その鉄の巨体を操って、まっすぐこちらへ突っ込んでくる。


(やばいっ……!)


僕はとっさに物陰へ飛び込み、地を這うように身を伏せる。


ズシャアアッ……!!


タイヤが擦れる音が、耳を裂いた。


風圧で鉄の破片が飛び、服が切れる。


『ハハハ……お前もう限界だろ? さっさと死んでくれよ』


黒崎の声が、騒音に混じって響いてくる。


……たしかに、もう限界だった。


脚が震え、膝が笑う。


視界が滲み、頭がぼんやりする。


呼吸が浅く、傷の痛みは鈍く、でも確実に体を蝕んでいた。


どうにか機械の残骸を盾にしながら、距離を取る。


——ガシャン!!


重機が残骸にぶつかり、鉄がメキメキ軋む。

黒崎の笑い声が響いた。


『ハハハッ!! 逃げても無駄だ!!』


息が切れる。

体力の限界が近い。

クレーンの影が迫る。


——ギシッ!!


残骸の隙間を抜け、壁際に逃げる。

重機がすぐ後ろに。


『潰すぞォ!!』


——ドンッ!!


横に飛び、床に転がる。

衝撃で埃が舞い、耳がキンとする。

視界が揺れ、もう一歩も動けない——。


「先輩っ!! こっちです!!」


美琴の声が聞こえた。

廃工場の奥、暗闇の中から。


「……美琴!?」


僕は驚いた。


動かない足を、どうにか立たせる。


そして、最後の力を振り絞って駆け出した。


──美琴の声の方向へ。


重機の軋む音が背後に迫る。


——メキメキッ!!


彼女の姿が見えた。

壁際で、手を振ってる。


「こっち!!」


全力で駆ける。

美琴の立ってる場所へ僕は飛び込んだ。


——ドンッ!!


背後で重機が突進。

黒崎が僕を追って、そのまま——。


「——!?」


突然、紅い光が炸裂。

御札が貼られた壁が輝き、結界が展開される。


『ぐあああっ!!』


黒崎の叫び声。

運搬車ごと結界に突っ込み、彼が激しい痛みに襲われる。


体が痙攣し、運転席で悶えた。


「な、何だこれ!?動けねぇ!!」


結界の中で苦しむ。

重機が止まり、機械音が静まる。


「…はぁ、はぁ…はぁ…美琴、やったね…!」


僕は膝をつき、柔らかく笑う。


美琴が駆け寄る。


「先輩、無茶しすぎです!!!!!」


彼女の声が怒りに震えていた。


これは…怒られるな…。


でも…美琴が無事ならそれで良かった。




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