「どした? なんかあったのか?」
ガイの問いに、ルークは歩きながら今日起こった一連の出来事を二人に話した。
話を聞き終えたガイとララは、小難しい表情を浮かべる。
「あー……一通り聞いたけど、意味わかんねぇな。ルークは別に悪くないだろ」
「私もそう思う。むしろ、ミレーナさんの方がしつこいよ。なんか、ルークにだけヘイト向けてる感じがするし」
二人の見解を聞き、ルークは少し肩の力を抜いた。だが、そうなるとますます、ミレーナの敵意の理由がわからない。
「てか、そのミレーナって……ミレーナ・コールソンじゃないのか?」
ガイが口にしたフルネームに、ルークは首を傾げる。
そんなルークに、ララが補足を入れる。
「ルーク、知らない? ハボック商会の設立時に大口の資金援助したコールソン子爵。その娘さんだよ、たぶん」
ララの説明を聞き、ルークはセモルがミレーナを「嬢」と呼んでいたことを思い出す。
なるほど、と腑に落ちた。
「で、なんでそんなお嬢様が俺だけ目の敵にしてるんだ?」
再び投げかけた問いに、ガイもララも答えられず、黙り込む。
三人で考えながら歩いていると、やがて寮の分かれ道にたどり着いた。
「一回、私の方でも調べてみるよ! わかったら連絡するね!」
ララが元気よく手を振り、女子寮の方へと別れていく。
ルークとガイもそのまま男子寮へ向かった。
寮のエントランスを開けると、賑やかな
「おー? やっぱ受かってたか、ルーク! こっちこいよ!」
筋肉質な体に派手なアクセサリーをじゃらつかせた生徒――ロイドが大声で呼びかけてくる。
「……何やってんすか、ロイド先輩」
「けっけっけ、てめーらヒヨッコの入学祝いだッ!」
肩を組まれ、強引に引き寄せられる。
ルークは苦笑しながら、ガイに小声で告げた。
「終わった二次試験で、すんなり負けてくれた“先輩”だ」
「ああ……なるほどな」
ガイは苦笑いしながら、納得した様子で頷く。
そんな空気を察することなく、ロイドは嬉しそうに笑った。
「細けぇことはいいんだよ! 今日はお前らが主役だ! 楽しめ、赤髪の坊主もな!」
強引にルークとガイは、パーティの中心に引きずられていった。
エントランスに並ぶ机には、豪華な料理や飲み物が所狭しと並べられ、各学年入り混じって盛り上がっている。
「今日はダンジョン行ってた奴らも多かったのに、結構戻ってきてるな」
飲み物を手に戻ったガイが、ルークにもグラスを渡しながら言う。
「さんきゅ。朝からギルド行ったのか?」
「ああ。新種の魔物が出たらしくて、調査クエストが出てたんだと」
「新種か……それはそりゃ皆戻ってくるわな」
魔素を吸って進化した魔物の素材は貴重だ。
価値も高く、研究対象としても引く手数多。
ただし、それ相応の危険も伴うのも事実。
「なぁ、ルーク。お前も一緒にダンジョン行かねぇか?」
ガイの誘いに、ルークは少し考え込んだ。
「ビギナーランクじゃ、新種が出るダンジョンは無理だろ?」
「それがさ、今日いくつかクエスト回ったら、俺とララ、Eランクに昇格してたんだよ。条件はわからねぇけど、いくつかこなせばランク上がるっぽい」
ガイはにやりと笑う。ルークも内心、興味はあった。
けれど――
(ミレーナのことが、まだ頭に引っかかってる)
ルークの迷いを察したのか、ガイが肩を軽く叩く。
「放っとけよ。考えたってしょうがねぇだろ。お前はお前で、楽しめ」
その言葉に、ルークは小さく笑った。
「……そうだな。明日、クエスト受けてみるよ」
「よっしゃ! 終わったらリンクで連絡してくれ! 俺たちも合流するからさ」
「ああ、わかった」
二人はグラスを合わせ、乾杯の代わりに笑い合った。
この夜――ルークは、先輩たちに絡まれながらも久しぶりに心から笑い、楽しい時間を過ごすのだった。