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第三章 七話「見えないものを見る力」

「ミレーナ?」


 ルークの視界が捉えたのはミレーナの姿だった。


 しかし、昨日見かけたミレーナとは雰囲気がどこか違っている。


 ルークとすれ違うも見向きもせず、まるでなにかを覚悟したような雰囲気を纏っていた。その姿に違和感を感じつつもルークは学園ギルドを後にした。



 ◆



 ――数日後。


 ルークとガイとララは、パーティを組みダンジョンに来ていた。


「へぇ、そんなことがあったのか。確かにそんな急に態度が変わるのは違和感あるわな」


「だろ? しかも、やけに静かでさ。雰囲気も不穏な感じがしてて気になるんだよ」


 ここ数日、ルークは授業でも度々ミレーナと顔を合わせていたが、学園ギルドで見かけた雰囲気のままだった。むしろその怪しげな雰囲気は濃くなっているようにすら思える。


 以前の気の強そうなお嬢様というような感じは一切ない。


 「そういえばミレーナちゃん、最近よく夜遅くに外に出てるよ。誰かと一緒みたいだけど、なにか関係あるのかな?」


 ふとララがそう言うと、なにかを思い出したかのようにガイが口を開く。


「あ、それ一回みたことあるぞ。闘技ホールの裏の森に消えていくミレーナ嬢と背の高い男。でも、そいつ制服着てなかったんだよなぁ」


「えー、絶対怪しいじゃんそれ。なんで追いかけないの」


「その日は、ロイド先輩に稽古つけてもらう約束してて急いでたんだよ」


 知らない間にガイとロイドが親睦を深めていることに驚きつつも、ララの情報にルークの抱く違和感が強くなる。


 ミレーナの急な変化、謎の男の存在、その男との密会、どうにも一連のことが未関係ではない気がしてならない。


 ルークは、このことを記憶の片隅に残し探索に集中する。


 三人が歩を進めると、下の階層へと繋がる階段を見つけた。その階段を見ながらガイが呟く。


「なぁ、今って何階層だ?」


「んー、確か四階層じゃなかったかな」


「てことは、この先のエリアにボス部屋がある可能性が高いよな」


 ダンジョンにはいくつか種類がある。ひたすら地下に潜っていくタイプや、塔のように登っていくタイプ、広大な森になっているタイプなど様々だが、今ルーク達がいる学園ダンジョンは地下に潜っていくタイプのダンジョン。


 このタイプのダンジョンでは、五階層や十階層など区切りとなるエリアには、フロアボスと呼ばれる特殊個体が独自フィールドを持ち、次階層への道を塞いでいることが多い。


 しかし、一度倒してしまえば、その先には転移用のゲートがあり、次からはそこから探索をすることが出来るメリットもある。


「ビビってるのか?」


 ルークはニヤついた表情で煽るように言う。


「び、ビビってねーよ! ただ、ボスなんて初めて見るから緊張するなぁって」


「なら、いくか」


「れっつごー!」


 意気揚々と足を進めるルークとララ。対照的にガイの足取りは重そうだ。


 階段を降りて五階層に降りると、一気に魔素濃度が濃くなる。


 纏わりつくような魔素の気持ち悪さにララとガイは、眉をしかめる。さっそくルークが《ソナー》で全体を把握すると、洞窟内の道もより複雑になっており、奥に大きな空間があるのがわかった。


 十中八九、ボス部屋で間違いないだろう。


 ルークは、ふと立ち止まる。


「こっからは俺が後衛やるから、二人で進んでくれ」


「「えー……」」


 明らかに嫌そうな表情を浮かべる二人。それもそのはず、ここまでの道中はルークが《ソナー》を使いながら先行していた為、道に迷うこともなく苦戦に強いられることもなく順調に進めていた。


 しかし、そんな調子で進めていては二人の成長には繋がらないと思いルークが後衛に回ることを提案したのだ。


 実戦経験もそれなりに積んできているルークだからこそわかるが、新人の時にどれだけ索敵能力や戦況に合わせれる柔軟性を磨けるかで将来的に生き残れるかが決まる。


 冒険者という職業において、もっとも大切なことは圧倒的な強さで敵をねじ伏せることではなく、危機管理をしっかりと行い生き残ることだ。今の内にルークは、その大切さを二人に知ってもらいたかった。


「そう嫌そうにするな。何事も経験だろ?」


「そうだけどさー、やっぱルークが索敵する方が安全だもん」


 不服を漏らすララにガイも同意するように頷く。


「何言ってんだ、二人が索敵できるようになればいいだけだろ?ほら、行った行った」


 軽くあしらいながらルークは二人の背中を前に押し出す。


 仕方なくガイが前衛、ララが中衛に入り歩を進める。


 五階層に入ってからそう時間が経っていないのにも関わらず、二人の表情には疲れが見える。それもそのはず、今までの階層に比べ道も複雑になっている上に、どの道が正しいかわからないから、違う道に入ったら戻ってまた違う道にいくを繰り返してマッピングする必要がある。


 それも、濃くなった魔素が満ちたフロアでだ。魔素が濃いということは単純に気持ち悪いというだけでなく、魔物も強くなるということ。


 いつ魔物が出てくるかもわからない、罠があるかもしれない、そんな不安と警戒を常に抱きながら探索をするのは想像の何倍も疲弊する。


「よし、ここらで一度休憩を挟もう」


 ルークの提案で開けた場所に腰を下ろす。


「はぁ~、やっぱり思うように進まないよ」


「だな、それにずっと気を張ってるせいで疲れ方が全然違う」


 四階層までと打って変わって二人の額には、まるで戦闘後のように汗が滲んでいた。


「それも大事な経験さ。俺みたいに《ソナー》のような索敵魔法を覚えるのも一つだけど、魔法が使えないところもあるから、基礎はしっかりやっといて損はないさ」


「基礎っていっても、索敵に基礎なんかあんのか? そういうのって、シーカーの役割ってイメージだけど」


 ガイの言うことにも一理ある。


 それぞれ得意不得意があるのは当たり前。だからこそパーティで探索する場合は役割分担をするのがセオリー。


 だが、ルークはガイの言葉に異を唱える。


「ガイの言い分は別に間違ってはいない。けど、想像してみてくれ。その都度変化するダンジョン内で、パーティがバラバラに分断されてしまったら? シーカーが戦闘不能になってしまったら?」


「あ……」


 ガイは気付いた。いつも全員が動ける状態で想定しがちだが、今の自分たちのように疲弊もするし、怪我をすることだってありえる。ルークの想定は常に最悪を想定していたのだ。


「でも、それこそヒーラーがいればいいんじゃないの? そのためのパーティの役割なんだし」


 今度はララが異を唱えると、ルークがララのおでこに軽くデコピンを当てる。


「いたッ!?」


 デコピンされた場所を抑えながら涙目になるララ。


「なにいってんだ、ヒーラーなんか放出する魔力も多いし、相手からしたら厄介なんだから真っ先に狙われる。ヒーラーをいる前提で考える戦略なんてもっとも愚策だぞ」


 ルークはおもむろに立ち上がりながら言葉を続ける。


「いいか? 索敵ってのは――」


 話しながらルークは剣を抜く。その行動に二人が違和感を感じた直後、剣を振り道の先へと斬撃を飛ばした。

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