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第5話 今のはずるいって……。誰でも絶対見ちゃうでしょ……

 ≪特別自治区≫で生活する人族は、必ず1つ以上の異能力アビリティを有している。

 それは≪世界≫と≪セカイ≫と混じった際に、俺たち人族の魂にも何かが混じったせいだと言われているが、20年経った今でも、実際のところは何も分かっていないのが現状だ。


 しかし、何事にも例外は存在する。

 それが無能力者アンチだ。


 ≪特別自治区≫にいながら、異能力アビリティを持たない人族のことを指した言葉だ。


 異能力アビリティを持たない者。


 ≪特別自治区≫が誕生して20年。無能力者アンチの存在は3人しか確認されていない。その1人が俺というわけだ。


 ほかの2人はすでに成人済みで、役所の職員として働きつつ、その管理下にあると聞いている。男か女か、パートナーがいるかいないかなどは何も知らされていない。

 俺はまだ未成年なので、かなり緩く保護という名の監視をつけられた状態で、自由な生活が許されているが……水面下ではこういうアプローチがないわけではない。


無能力者アンチの血をこっそり分けてください」「私と≪パートナー契約≫を結びませんか」などなど。


 そう言ったアプローチや、それこそ力尽くで俺の血を奪いに来るようなトラブルを避けるためにも、なるべく1人で行動しないように気をつけているんだがな。校内ということもあって、今はちょっと油断したか。

 レオンさんを正面から見据える。

 うーむ、大変エロい……。ミニスカとニーソの絶対領域……ナチュラルに誘惑してくるじゃないか……。なるほど、そうやって色仕掛けで俺の思考能力を奪う作戦か……。


「俺はまんまとお前たちの仕掛けた罠にはまったってところか?」


 コイツらの目的が無能力者アンチの血だとわかりさえすれば何のことはない。すべてが1本の線でつながって見えてくる。


「罠? なんのことでしょうか?」


 わかりやすくとぼけてきたな……。

 ちょっとスカートをめくって足を見せてくるんじゃない!


 しかしなあ、アヤさんのこれが演技とはね……。

 わざと『異能力行使制限法アビリティリミット』に違反して、ペナルティを受ける鳩になるって……体張り過ぎだろう。


「お嬢様は、天使族の中でも指折りの魔力量を有しており、将来は天使族をおまとめになる立場に就かれることを期待されております」


「そうよ! 私は高貴な存在なの! 頭が高いわ! さっさと敬いなさい!」


 天使族をおまとめする立場ね……鳩の姿で言われてもなあ。


「しかし現在は、とある理由から魔力の循環がうまくできない状態にあり、時折、魔力溢れの儀式おもらしをしなければ体に変調をきたしてしまう状態なのです。お労しや……」


 そう言うところが演技臭いんだよね。

 まあ、実際に魔力溢れの儀式おもらしをしている現場は目撃してしまったし、それ自体は疑ってはいないんだけどな。


「それで俺の無能力者アンチの血がほしかった、と?」


 とある理由ってやつが、無能力者アンチの血を手に入れることで解決するってことなんだろうな。それならそうと最初から言ってくれれば、クラスメイトのよしみで助けてやらないこともないんだが、こういうやり方はなー。


「いいえ。お嬢様の呪いは、無能力者アンチの血で解決できるものではございません」


 あれ、違ったのか……?


「じゃあ、呪いって?」


「詳細については、まだ申し上げることはできません」


「≪パートナー契約≫を結ばないと、ってことか?」


「最後まで協力いただける方にのみ、お話するつもりでございます」


 最後まで、ときたか。

『呪い』って言葉も強いし、相当深刻な問題を抱えていると見た。


「繰り返すようだが、俺が無能力者アンチだから近づいてきたわけではない、と?」


「違います。天使族の名誉に懸けて」


 うーん、じゃあなんだ?

 俺の存在価値なんて、この無能力者アンチの血くらいしかないんだが……。


「しいて言えば、私の勘です」


「勘?」


「はい。竹井カケル様なら、お嬢様を救ってくださるのではないかと」


「何の根拠があってそんな……」


 俺は異能力アビリティを持たない。俺の唯一の存在価値である無能力者アンチの血を必要としていないと言われてしまったら……ホント、何が残るのって感じなんだが? 自分で言っていて悲しくなるけどさ。


「竹井カケル様はお嬢様が鳩になったのを見て、まず最初に心配してくださいましたね」


「あー、まあ、そりゃそうだな……」


「放り出して逃げ出したりせず、真っ先に身を案じてくださいました」


 急に人が鳩になったら心配するのが普通だと思うが……。


「何も詳しくお話していないのに、『お嬢様を助ける』と自らお申し出になってくださいました」


「それは『助けてくれるか?』と訊かれたから、そりゃ助けるだろって思っただけで……」


「以上が、竹井カケル様を選んだ理由です」


「え、何? なんにも理由言ってなくね⁉」


 つまりどういうことだってばよ⁉


「困っている人が目の前にいたら、躊躇なく手を差し伸べてくださる方だからです」


「そうまとめられると、俺ってめっちゃ良い人みたいじゃん。恥ずっ!」


 顔熱くなるわ!


「どうせ偽善よ! 私がかわいいからでしょ!」


お嬢様はお静かに。握りつぶしますよ?」


 怖っ。


「それに竹井カケル様のそれは、偽善ではありません。もしその行動が、自己満足によるものや偽善によるものでしたら、私はお嬢様を連れて立ち去っていたでしょう。しかし、竹井カケル様はそうではないのです」


 まあ、たしかにどっちでもないというか、あまり考えての発言ではなかったというか……ぶっちゃけ反射的に勢いで答えただけだし、そんな深読みされるとちょっと……。


「ただの下心です」


「ちょっと、レオンさん⁉」


 俺のことを持ち上げたいの? それとも地の底まで落としたいの? どっち⁉


「思春期真っただ中の男性が、下心で行動する。これ以上信用できる行動原理はありませんから」


「いや……その信用のされ方はちょっと心外というか……」


 ぜんぜんそういうつもりがなかったかと言われると、完全に否定はできないんだが……でも助けようって気持ちのほうが大きかったのは事実なので、そこのところは勘違いしないでいただきたいのだが⁉


「どうか、どうかお嬢様をお助けください。この通りでございます」


 いや、急に手を握られて……うわっ、寄せて前かがみになったら胸の谷間がすごいっ!


「以上です。お嬢様、お分かりになられましたか?」


 レオンさんはパッと手を放し、俺から若干の距離を取った。


「ええ、よ~くわかりました。目の前でしっかりと見させてもらいました。男ってホント最低ね!」


 ええ……。

 今のはずるいって……。そんなの誰でも見ちゃうでしょ……。

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