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第7話 俺……ファーストキス、経験しちゃいました!

「それではお2人の血液を混ぜ合わせたものを、お互いの唇へ塗ってください」


 レオンさんが俺の前に、さっき血液を受けた小皿を差し出してくる。

 ちょっとだけ赤黒い血が、薄く皿の上に広がっていた。


 これを唇にね……。

 血を塗るのはちょっと抵抗があるが、まあ儀式なら仕方ないか。


 ん、唇……? 鳩の唇ってどこだ……? ああ、くちばしで良いのね。


「痛ってぇ! 足の爪で蹴ってくるなって! お前、自分で塗れないんだろ? 代わりに塗ってやってるんだから、おとなしくしろよな……」


「急に触らないでって言ったでしょ!」


「今のは急ではないと思うんだが……」


 レオンさんにお互いの唇に塗ってくださいって……。

 だからー、俺が悪かったって。


「それでは誓いのキスを」


「キス⁉」


 思わず大声を上げてしまった。

 え、ガチで言ってます?


 レオンさん、無言で頷かないでもらって良いですかね……。


 マジのマジなんですね?


 うわっ、さっきまで白かった鳩の羽が真っ赤になっている!

 どういう現象⁉ 赤い鳩じゃん! 赤い羽根募金用⁉


 って、さてはおまえ、この儀式の詳細、知っていたな? それでずっと抵抗を……。でも承諾したってことは、俺とキスするのにも……。


「誓いのキスを」


 レオンさんの圧が。


 マジでするの……。

 キスとか初めてで心の準備が……。

 でもキスをしないと≪パートナー契約≫が結べないからやらないといけない……。


「こ、これは人……鳩助けだから! 深い意味はないからな! 行くぞ!」


 真っ赤な鳩アヤさんの立つテーブルへと近づく。


 行くぞ!

 ちょっと唇が触れるだけだから……そっちは鳩のくちばしだし、セーフだろ!


「やっぱり嫌よ~!」


 真っ赤な鳩アヤさんが羽をばたつかせて飛び上がる。


「あ、ちょっと!」


 と、声をかけた瞬間――。


「お嬢様、覚悟をお決めください」


 レオンさんが真っ赤な鳩アヤさんを空中で鷲掴みキャッチ

 そのまま俺の唇へと押し当てた。


 俺の下唇に、深々と鳩のくちばしが突き刺さる。


「痛てぇ……」


 キス感がまったくない……。

 初めてのキスの味は、血の味(自分の)でした。

 いや、これってホントにファーストキスのカウントで大丈夫ですかね? 相手は鳩だし……。


 と、俺の唇――の先に刺さったアヤさんを中心に耳をつんざくような爆発音。俺も含めて白い靄に巻き込まれる。


 グラウンドゼロの爆発で耳がキーンって……。

 あ、でもこれ、さっきのアヤさんが鳩になった時のと同じやつ……?


 ん、唇に刺さったくちばしの感触がだんだんと柔らかく……温かな? 

 途端、俺の体にのしかかってくる重し。

 不意を突かれて、そのままもんどり打って床に倒れこんでしまった。


 受け身も取れず、後頭部を床にしたたかにぶつけ……痛って……星が見えたわ……。


 後頭部は床にぶつけた痛みで麻痺。

 唇……というか顔全体に温かくて柔らかい感触……。


 だんだんと靄が晴れて状況が――。


 マジで。


「正式な≪パートナー契約≫おめでとうございます。おや? さっそくエッチな行為をお始めになりますか? それではあとは若い者同士で。オホホホホ」


 俺の顔の前にあるのは、目をつぶった状態の天使アヤさん鳩ではない人の顔だった。


 唇と唇が重なり合い……キス……しています! 俺……ファーストキス、経験しちゃいました! 初めてのキスの味は……やっぱり血の味(いまだ出血中)でした! って、唇だけじゃない⁉ この全身に感じる吸いつくような柔らかな感触は……まさか肌……裸? そういえば、アヤさんって鳩になった時、制服が脱げてなかったっけか⁉


「んっんん……」


 艶めかしい吐息とともに、ゆっくりとアヤさんの瞼が開く。

 鼻に吐息がぁぁぁ!


「……んっ!? ん⁉ は、離れなさいよっ!」


 唇が離れ、ノータイムでアヤさんの拳が俺の頬に突き刺さる。


「変態! 痴漢! 私が気を失っているのを良いことに、唇を舐め回すように……!」


「いやいやそんなことしてないって! あ、いや……その……」


 それより、起き上がって俺に馬乗りになっていらっしゃるので……その……全部見えちゃってまして……。上半身だけですけど、あの……じっくり見たい! でも、ここで見たら何が終わる気がする!


 目を……つぶろう……。


 そう、俺は紳士。


 色即是空、空即是色。

 心頭滅却すれば火もまた涼し――。


「カケルンはヘタレですか?」


 耳元でレオンさんの声。


「いや、それとこれとは……さすがにこれは見たら終わるっていうか……」


 人としてね?

 って、カケルンって何ですか……。


「カケルン、そこは大胆にいかないといけない場面ですよ。裸の女と熱いキスを交わしたら、次はガバッと男を見せるしかないでしょう」


 このお付きの人レオンさんって無茶苦茶な人だな……。

 ホントに従者なのかよ……。


「裸の……女……? キャ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 世界中にとどろくような、これまでに聞いたことないほどの大きな悲鳴が響き渡る。


「お嬢様は動揺なされておいでです! 今がチャンス! 行け、カケルン! ファーストキスを奪ったんですから、その先も一気に奪ってしまいなさい!」


 ホント何言ってるんだ、この人は……。


「絶対に許さない……!」


 殺気⁉


「お、俺は何も……」


 無実だ!

 俺はお前をかばって後頭部から床に!


「お嬢様……カケルンはただのヘタレでした……。残念なことに、お嬢様の胸を揉んだり、脇をくすぐったり、おへそに舌を入れたり……はされませんでした。もしかしたら、あれな障害E Dなのかもしれません……」


「誰がEDだ! 毎日めっちゃ元気だわ! って言わせんな!」


 男子高校生の体力を舐めるなよ!


「カケル、殺す……!」


「いや、だから俺は何も……って、立ち上がると全部見え――」


「私の裸を見た……カケル、殺す……!」


「それは理不尽! 鳩になって服が脱げてたのを忘れていたのはそっち! 俺は無実だ!」


「ファーストキス……私の裸……胸揉んだ……カケル、殺す……!」


「胸は揉んでない! それはホントにホント! 倒れた時に押し付けられただけで!」


 大変柔らかくて、一生の思い出に――。


「ちょっ! 目が金色に光って……ヤバい⁉ レオンさん、これヤバくない⁉ ってレオンさんどこ⁉」


 いない!

 どこにもいないぞ⁉


「カケル、殺す……!」


「えっ、ちょっと⁉ ウソでしょ⁉ 巨大な炎の球がっ!」


 無断での異能力アビリティ使用は『異能力行使制限法アビリティリミット』に違反して……まさか、俺と≪パートナー契約≫したから、もう異能力アビリティ使い放題⁉


 いやいや、パートナーが許可しないと使えないんじゃ⁉

 ちょっとレオンさん⁉


 誰か! 助けてー!


 ヘルプミーーーーーーー!



 これが学内で……≪特別自治区≫内で、後世まで長く語り継がれることになる『部室棟・謎の大爆発全壊事件』である。

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