「もう一度確認するぞ。竹井カケル、貴様は私の指示通り部室に行った。しかし部室には誰もいなかったのでしばらく待ち、それから帰宅をしようとしたんだな?」
まあ、尋問されちゃうよね。
部室棟が吹き飛んじゃっているし。
「貴様、私の話を聴いているのか⁉ 耳がついているなら返事をしろ!」
「イエスマム! 聴いておりますっ! その通りでありますっ!」
「よろしい」
ここは軍隊か何かかよ……。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言っておりません!」
もう完全に日も暮れたし、早く帰らせてくれ……。
「貴様は帰宅しようとし、部室棟を出た。その直後に背後で爆発があり、振り返ったらこのような有様になっていた。そうなんだな⁉」
「そうであります! あと1分帰宅判断が遅れていたら、爆発に巻き込まれていたかもしれないであります! 自分は運が良かったであります!」
もちろんウソであります。
なんなら爆心地は俺であります。
「……そうか。ケガがなくて本当に良かった。今日はほかに部室棟に立ち入っていた人間もおらず、被害はこの建物だけで済んだようだ」
「建物だけ……」
「きれいさっぱり何もなくなっちゃいましたね……」
爆発による部室棟の倒壊であれば、がれきの山が残骸として残るように思われるが、そこにあるべきものは一切残っていなかった。
まるでもともと部室棟などなかったかのように、整地された地面だけが広がっていた。
「部室棟は老朽化が進んでいたのでな。今年度いっぱいで建て替えの予定ではあったんだが……」
そう前置きをしてから
「なるほど。建物自体をバリアフィールドで覆って、その中で爆縮させると、建物を粉々に砕ける。すごいですね。そんなことができるんだ!」
まあ、残念ながらその推測は間違っているんですけどね。
しかしさ、裸を見られてキレたにしたって、あの太陽みたいな大きさの火の玉で攻撃してくるのはヤバいだろ……。殺意を通り越して……って、なんで俺、生きていたんだ?≪パートナー契約≫を結んだ相手には攻撃が無効とか? そんな都合の良いことがあったり――。
(そんな都合の良いことはありませんよ)
「うわっ⁉ レオンさん⁉」
いきなり現れて、耳に吐息を吹きかけないでください! 全身に鳥肌が!
(カケルン、さっきは間一髪でしたね。私の
レオンさんが小声で耳打ちしてくる。
ちょっとエロい感じに耳をくすぐるのやめてもらえます⁉ そういうことされたら……反応しちゃうでしょ!
と、俺が生きていたのは、レオンさんの
そういえば、≪上級監察官≫って名乗っていたし、『
「貴様っ! 天使レオン! なぜここに⁉」
「ヤッホ~、サキちゃん。お嬢様のお世話のついでに、サキちゃんの仕事ぶりを視察しに来ましたよ。ちゃんと先生していますか?」
「誰がサキちゃんか! 貴様に言われずとも毎日働いている! 日報も欠かさず提出しているだろう!」
「おやおや~? 上長に対する態度がなっていませんね。これは査定マイナス評価にしておくしかないですか?」
「くっ……大変申し訳ございませんでした。天使上級監察官殿!」
背筋を正して敬礼のポーズ。
なるほどね。
この2人、上司部下の関係だったのか。
レオンさんが≪上級監察官≫で
「よろしい。それではいつものように、生徒をその大きな胸で誘惑して言うことを聞かせる仕事に戻りなさい」
「だ、誰がそんなことを!」
「してない。そうですか。わかりました。それなら通常業務に戻ってよろしい」
レオンさんがにこやかに微笑む。
「しかし部室棟の……竹井カケルへの事情聴取の続きも……」
「私は、咲坂サキ監察官に通常業務に戻るように命じました。あとはこちらで処理をしておくと言っているのです」
「承知いたしました! 失礼いたします!」
上長の命令は絶対、か。
公務員っていうよりも、軍人のそれだな。
「カケルン、危ないところでしたね。たくさん感謝してくれても良いですよ」
完全に
「え、ええ……どうも……」
釈然としない。
完全にマッチポンプじゃねぇか……。
「これでカケルンには貸しが2つですね」
「そ、そうですね……」
爆発から守ってくれたことと、
いや、どっちも俺のせいじゃないじゃん! 俺、なんも悪くなくね⁉
「お嬢様のことも心配しなくて大丈夫ですよ。一般的な男の子の生態と、それに比べてカケルンがいかに紳士な態度で接していたかをしっかりと説明しておきましたから」
「そ、そうすか……。それはどうも……」
次に会った時には炎の球を投げつけられることはない、と思っていて良いんですよね?
「それでカケルンは、やっぱり
「違うわいっ!」
なんでそのネタ引っ張ってるんですか!
「ということはやっぱりロリ専……」
その虫を見るような目はやめてもらえますか……。
「それも違います……。俺、どっちかって言うと年上好きの部類なので……」
「まさかサキちゃん⁉」
驚き過ぎでしょ。
「いや……体はすごいなと思いますけど……あの性格はちょっと……」
体はすごいなと思います!
「ということはやっぱり私ですか。そうですね……たまになら、良いですよ?」
「何がぁぁぁぁぁ⁉」
頬をピンク色に染めて恥じらいのぉぉぉぉ!
いたいけな高校生男子をからかうのはやめてもらって良いですかぁぁぁぁぁぁぁ⁉
「お嬢様にはナイショですよ♡」
「レオン……誰が誰に何を内緒ですって……」
背後から殺気が……なんならさっきよりも……。
「あら、お嬢様。もうお着替えがお済ですか? それでは帰宅いたしましょうか」
レオンさんはスンと無表情に戻り、アヤさんに向かって頭を下げた。
「それで誰が誰に何を内緒にしようっていうのかしら⁉」
しかし、アヤさんは追及の手を緩めようとしない。
「なんのことでしょうか♡」
再び微笑んで小首を傾げるレオンさん。
ああっ! ケンカなら俺のいないところでお願いしたい! もう、あの爆発には巻き込まれたくないです!