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第11話 パソコンの閲覧履歴は定期的に消したほうが良いですよ♡

「ごめんなさい。レオンさん、今なんて言いました? ちょっと聞き取れなくて」


 いや、難聴系主人公じゃないんで、ホントははっきりと聞き取れたんだけど、ちょっと脳のほうが処理できなくて……。


「今夜からこちらでお世話になることになりました。天使アヤ、そして従者の天使レオンにございます。改めてよろしくお願いいたします」


「ですよね。はい、聞こえていました……なんだって?」


「今夜からこちらでお世話になることになりました。天使アヤ、そして従者の天使レオンにございます。改めてよろしくお願いいたします」


 笑顔を絶やさずに3度目。

 今の「なんだって?」は「今なんて言いましたか?」の意味ではなくて、「何言っているんですか?」のほうの意味の「なんだって?」です。日本語ってムズカシイネ。


「お世話になるというのは……その……」


 ここに住む……と?


「シモのお世話をしていただくという意味ですね」


「そっちかあ。って、なんでやねん」


 この状況で、よくその冗談下ネタが言えましたね。

 両サイド見てみてくださいよ。空気がヒエヒエに冷えていて、マンモスも一瞬で氷漬けになりますよ?


「カケルンにツッコまれちゃいました♡」


 なんでそんなにうれしそうなんですか……。


「お嬢様、良かったですね。カケルンが私たちのシモのお世話もしてくださるそうですよ。明るく楽しく、しあわせ家族計画ができそうです♡」


「カ~ケ~ル~ン~~~~~~⁉」


 ミウ、一旦落ち着こ? な? 呼び方については、俺も困惑していてまだ呑み込めていないから、あとで整理しよう? しあわせ家族計画のことも一旦スルーしとくからな?


「あの……お2人がここに住むってどういうことですか?」


 ちゃんと大事なところを先に整理しておかないとね。

 ほかはほら、些末なことだからさ?


「言葉の通りですわ。お嬢様がカケルンと正式に≪パートナー契約≫を結ばれました。パートナーとなった2人は一緒に住む。これが契約の大前提ですから、従者たる私も含めてこちらにお世話になることにいたしました」


 ≪パートナー契約≫を結んだら一緒に住む?

 それは初耳だったわ……。


「ミウ……そういうものなの?」


 お兄ちゃん、法律に詳しくなくてさ……。


「……そういうものよ。そんなことも知らずに勝手に契約を……はぁぁぁぁぁぁぁ」


 めっちゃ大きなため息!

 ごめんな、ミウ。

 緊急事態だったとはいえ、勝手なことをしちゃって……。


「あの~、お取込み中のところ失礼します……。こちら、設置完了いたしましたので、完了のところにサインをいただけると……」


 マッサージチェアを運んできてくれた業者のお兄さんが、小さな紙とボールペンを差し出してきた。


「あ、はい! ありがとうございました!……なんかごたついていてすみません……」


 空気を読んで会話の切れ目まで待ってくれていたみたい。

 サインサイン、と。


「こちらこそ、ありがとうございました! それでは配送と組み立ての際に発生したゴミを回収して失礼させていただきます!」


 お兄さんたち2人が、深々と頭を下げてくる。

 なんて丁寧な人たちなんだろう。お客様満足度アンケートには最高点をつけて返しておこう!



 業者のお兄さんたちが玄関を出ていった音を確認してから、レオンさんが口を開いた。


「カケルン、早速ですが私たちの部屋に案内してくださらない?」


「私たちの部屋って言われても……」


 1階は共有スペースだから部屋はないし、2階は、父さん、俺、ミウそれぞれの部屋と、書斎という名の小さな物置部屋しかないし。


「うち、小さい一軒家だから、ゲストルームなんて立派なものはないんだよな……」


 急に言われてもなあ。


「仕方ありませんね。私たちはカケルンの部屋でかまいません。お嬢様もそれで良いですね?」


「……絶対に嫌」


 ですよね。


「さすがに俺も困ります」


 6畳の部屋なんで……ってその前に女の人を部屋に入れる準備はできていないので!


「少しくらいアレなニオイがしても気にしませんよ」


「何言ってるんですか⁉ アレって何⁉」


「ふふふ♡ パソコンの閲覧履歴は定期的に消したほうが良いですよ♡」


「なっ」


 なんでこの流れでパソコンの閲覧履歴のことを言ったの⁉

 えー、何この人怖いよー!


「とまあ、カケルンをからかうのはこれくらいにしましょうか」


「おい……」


 からかわれていたのわかっていたが、面と向かって宣言されるとさすがに俺も怒るぞ?


「そうですね。この家では……2階の書斎は使われていませんね?」


「え、ええ、まあ。本棚はありますけど、父さんもほとんど帰ってこないので実質物置部屋に……」


 って、なんで2階に書斎があるってわかったんだ⁉


「ではそこを使用させていただきますね」


「いや、雑多に物が積んであるし、2畳くらいしかないので人が住めるような広さでは……」


 しかも2人はとてもじゃないが無理だ。


「問題ありません。私たちの部屋に通じる専用のドアさえあれば」


「専用のドア?」


「はい。私の異能力アビリティを使って、空間を拡張して繋げますので居住スペースについては気にしていただかなくてけっこうです」


異能力アビリティで……なるほど、そういうものなんですね……」


 天使族の使う異能力アビリティって、なんでもありなんだな。

 俺が知っている異能力アビリティといえば、消しゴムのカスを丸めて飛ばしたり、ちょっと植物の成長を早めたりするくらいかな。ランク高めのでも異能力アビリティでも、3秒間だけ自分自身にかかる重力を1/6にしてハイジャンプするくらいなものなんだが。


 人族が使う異能力アビリティと天使族が使う異能力アビリティにはずいぶん大きな差があるらしい……。そういえば、アヤさんが使った巨大な炎の球も俺の知っている異能力アビリティをはるかに超える威力のものだったな。咲坂先生サッキーも、部室棟の爆発跡を見て、バリアフィールドが爆縮でなんとかって言っていた気がするし。


 ああ、冷静に考えてみればそりゃそうか。

 人族の異能力アビリティの使用は一切制限されていなくて、天使族や悪魔族の異能力アビリティの使用が法律で厳しく規制されているのは、その威力や用途の違いのせいなんだよな。その辺でポンポン使ったら大混乱どころか、死傷者が出かねないからって。


「あれ? レオンさんはどこに……?」

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