目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第13話 ミウ、早まるな! 危ないから……その包丁はキッチンに置いてこよう! 話せばわかる! な!

 朝。

 2階の自室を出て、リビングに降りる。


「おはようございます、カケルン。本日も良い朝ですね」


 すでにレオンさんがいた。

 ダイニングテーブルに、朝食用の食器を並べてくれている最中のようだ。


「お、おはようございます……」


 レオンさんの服装が、昨日のメイド服とは違うデザインのメイド服になっている……。

 ノースリーブで、スカートがさらに短い気が……夏用のメイド服なのか?


 しかしなあ、レオンさんとアヤ……ホントにうちに泊っていったんだなあ。

 家族以外の女性がうちに……。また人生の幸福リストの実績解除が進んでしまった。昨日今日で俺は大人への階段を100段飛ばしくらいで駆け上がっている気がする。やはりこれは死亡フラグなのか……。


「お兄ちゃん、おはよう」


 キッチンのほうからミウが顔を覗かせる。


「おう、おはよう」


 ミウはいつもの格好だ。

 制服を着て、その上に調理用のエプロンをつけている。

 うん、我が妹ながら、今日もかわいいな。


「お兄ちゃん、洗濯機回してきちゃってくれない?」


「おう。任せておけ」


 うちの家事はミウが仕切っていて、仕事別に担当が決められている。ミウが料理と家計を担当。俺が洗濯と掃除、食材の買い出し担当というのが現在の役割だ。

 1日おきくらいに、朝学校に行く前に洗濯機を回して、帰ってきたら畳んでタンスにしまうだけの簡単なお仕事さ。乾燥機が有能なので干す手間もない! ちなみにミウは自分の下着は自分で手洗いしているので、お兄ちゃんはノータッチだぞ。家族の間柄でも礼儀は守ろうなってことで。


「カケルン、洗濯ならすでに私のほうで済ませておきました」


 浴室の脱衣所に向かおうとした俺を、レオンさんが呼び留めてきた。


「マジすか……。ありがとうございます。あ、でも、学校から帰ったら俺が畳むので、洗濯機の中はそのままで良いですからね!」


「もうすでに畳んで、皆様のタンスの中に収納済みですわ」


「えっ、乾燥器の乾燥が終わるまでには4~5時間はかかるはずなんですが……まさか夜中に洗濯を⁉」


 ぜんぜん洗濯機が回っている音に気づかなかったわ。


「いいえ、洗濯機も乾燥機も使用しておりません。私の異能力アビリティでクリーニングしておきました」


「マジすか……。異能力アビリティってそんなこともできるんですね!」


「汚れや臭いの原因をもとから分解・消去し、生地の痛みを補修するだけですので、一瞬で終わります」


 異能力アビリティ便利すぎる!

 いやいや、便利だけどお客さんにそんなことをさせてしまうなんて!

 俺ってば、洗濯担当失格⁉


「すごいですね……。ホントありがとうございます! でもそんな気を遣わなくて大丈夫ですよ。洗濯もお皿並べるのだって俺がやりますし。レオンさんはお客さんなんだから座っていてくださいよ」


 無理に仕事を探さなくても、いきなり追い出したりはしませんって。


「いいえ、そういうわけにはまいりません。私たちは1つ屋根の下で共に暮らすわけですから、お客さんではなく家族です。家の仕事の分担はきちんとさせていただきます。お家賃や食費などもきちんと!」


「ええ……」


 そんなにきっちりされるとちょっと恐縮しちゃうな。

 でもこういうのって、逆にきっちりしておいたほうがお互い気を使わなくて済むのか?


「……認めない」


 ドゴォォォォォン!


 キッチンから鈍い音が⁉

 何なら昨日よりも激しい……。このままだとキッチンの壁がなくなっちゃうかもしれない……。


 と、ミウがリビングのほうに顔を出してくる。

 その手には、キラリと光るモノが!


 ミウ、早まるな! 危ないから……その包丁はキッチンに置いてこよう! 話せばわかる! な!


「家族はわたしとお兄ちゃん……とお父さんだけだから! あなたたちは同居人! 法律がなんて言おうと、それ以上は認めないから!」


「お、おう……。わかった。わかったから、な?」


 ミウは昔から『家族』という言葉には異常に強い反応を示す。

 うちには母親がいないせいなのか、唯一の女性である自分が母親の役割を、という意識が非常に強くて、必要以上に俺や父さんの世話を焼きたがるのだ。俺も父さんも、それなりに自立しているから、自分のことは自分でやれるんだけどな。だけど、ミウがやりたいっていう気持ちを尊重することにしているので、家事の仕切りは任せているのが現状だ。


 そういえばなー、昔はたまに父さんの妹――俺たちの叔母さんが様子を見に来てくれていたんだけど、ミウは叔母さんがうちに泊まって行ったりするのを極端に嫌がっていたもんな。


 ミウは家族の中に家族以外の人間が入り込むことに異常な嫌悪感を示してくる。

 たぶん今回、アヤとレオンさんがうちに住むというのも、ホントは死ぬほど嫌なんだろうな……。でも≪パートナー契約≫を結んだら、一緒に住まなければいけないという法律になっているらしいし……お兄ちゃんが勝手なことをしてホントごめんな。


 あ、もしかして、逆に俺がアヤの家のお屋敷(?)に住めばミウが嫌な思いをすることはなくなるのでは?


 かわいい妹のために、ここはお兄ちゃんが一肌脱ぎますかね……。


「あー、俺から1個提案があるんだが、良いかな?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?