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第14話 注意するところはそこじゃない! もっと恥ずかしいところがあるでしょ!

「あー、俺から1個提案があるんだが、良いかな?」


 俺の言葉に、ミウもレオンさんも無言で頷いてくれた。


「この家って3LDKだし、5人で暮らすには狭いだろ。それにミウはいきなりお兄ちゃんが≪パートナー契約≫を結んだクラスメイトと、そのお付きのレオンさんがやってきて驚いているだろうし。もしかして、俺がアヤそっちの家に住んだら全部解決したりしない、かな?」


 お嬢様の家なら、使用人の部屋くらい余っていそうだし、俺が転がり込んだところで誰かの生活スペースが狭くなることもなさそうな気がする。もちろん家賃は……払えるだけは努力しますし!


「カケルンがそれで良いなら、私はかまいません。おそらくお嬢様も反対はなされないでしょう。ただ、空間拡張をして自室は確保できておりますから、こちらのお宅が狭いとは思っていませんよ」


 そうか。

 空間拡張の異能力アビリティね。

 それがあれば何でも解決できちゃいそうな、夢のような異能力アビリティですね!


 ん、ミウが黙ったままだな。

 下を向いて……悩み中か?

 仕方ないな。お兄ちゃんがメリデメをまとめてあげましょう。


「ミウはどうだ? このまま2人も一緒に住む……同居人が増えたら、毎晩おかずも増やさないといけないし、お料理も大変になるよな。俺があちらの家にお世話になるなら、逆に1人分料理の手間も減るし良いんじゃないか? もちろん俺は担当分の家事をしにちゃんと毎日こっちにも戻ってくるよ。ミウの負担増はなしだ」


 ミウの負担は減るだけだし、知らない人は家に入ってこない。

 うん、やっぱりそっちのほうが良さそうだ。


「……嫌」


 ミウがうつむいたまま答えた。


「嫌か? ミウにとってみたら、メリットしかない話に思えるんだが」


 気になっていることがあるなら言ってみてくれよな。


「お兄ちゃんがいなくなるのは……絶対嫌なの。そんなの耐えられない……」


 ミウの体が小刻みに震えていた。


「そうか……。んー、そうなるとやっぱり……アヤとレオンさんがこっちに住むことになるんだが……それでも大丈夫か?」


「呼び捨て……」


「え?」


「お兄ちゃん……天使アヤのことを呼び捨てにした!」


 細かいところに気づくんだな……。サラッと言ったつもりだったのに。


「あー、うん。昨日、そう呼べって言われて……な」


 レオンさんもめちゃくちゃニヤニヤしているし……。やっぱり呼び捨ては恥ずかしいぞ!


「それは聞いてた! なんで普通に受け入れたのって訊いているの!」


「なんで……かな。……自然な気がした、からかな?」


 俺にもわからない。

 なぜだか、そう呼ぶのが当たり前のように感じてしまったんだよ。不思議だよな。


「カケルンがそう感じるのもおかしなことではないのですよ。≪パートナー契約≫とは血を媒介にした魂の契約ですから、お互いのことを自分のように受け入れる、自然とそのような関係になるものなのです」


「魂の契約ですか……」


 そう言われると、今朝になってみたら、アヤと一緒に暮らすのにも抵抗はなくなっていたんだよな。昨日の夜寝る前まではいろいろ考えがグルグルしたが、今朝起きてみたらなんだかすっきりしているというか……昨日まで話をしたこともなかったクラスメイトなのにおかしいかな。


「お兄ちゃんはわたしのものなの! 天使アヤになんか絶対に渡さない!」


 ミウが勢いよく抱き着いてきた。


「渡すとか渡さないとか、お兄ちゃんは物じゃないからな? それに、ミウは俺の家族だろ? その縁は切れたりしないさ」


 いつまでもお兄ちゃん子で困るなあ。

 ミウはかわいいしモテるんだから……もし恋人なんてできたら、いつか俺から離れていくんだと思うと……泣けてくる。これが兄の宿命か。


「お取込み中のところ失礼します。勝手に状況を整理させていただきますと、私とお嬢様はこのままこちらに住む、ということでよろしいでしょうか?」


 だからレオンさん、その目はやめてくださいって……。

 俺は『ロリ専』じゃありませんからね!


「ミウ、お前はどうしたいんだ?」


 お兄ちゃんはどっちでもいいぞ。ミウの気持ちを尊重するよ。


「お兄ちゃんがどこかに行くのは絶対嫌!」


「じゃあ、引き続きこのままということで、それでいいな?」


 ミウは俺の胸に顔をうずめたまま、無言で頷いてきた。


「レオンさん、話が二転三転してすみません。このままこの家で暮らしてもらう、ということでお願いします」


「こちらこそよろしくお願いいたしますわ。お家賃のほうはこれくらいでよろしいですか?」


 ダイニングテーブルに置かれた札束……。

 なんですか、この大金は?

 もしかして……一緒に住むなら、この家の権利書を寄越せってことですか……?


「足りませんか。申し訳ございませんが、ただいま現金の持ち合わせが5000万円ほどしかなくて、あとは振り込みでもよろしいでしょうか?」


 いや、どこにそんな現金持ち歩いていたんですか?

 この家に来た時、レオンさん手ぶらでしたよね?


「口座番号はこれだから」


 ミウは俺の胸に顔をうずめたまま、スマホの画面をレオンさんに見せる。


「承知いたしました。今月分の振り込みは完了しました。まもなく反映されると思います。お家賃は毎月1日に同じ口座にお振込み、ということでよろしいでしょうか?」


「それで良い」


「ありがとうございます。それでは改めましてよろしくお願いいたします」


「……よろしく」


 ちょっと待って?

 ツッコミどころしかなかったんだけど、2人とも漫才でもしていらっしゃるんですか……?


「家賃に5000万で足りないって感覚がおかしいし、今振込額の桁、何桁だった? ちょっと0の数が多すぎて数えられなかったんだが……。ミウも当たり前のように大金を受け取らないように……」


「……足りない」


「え?」


「わたしに無断でお兄ちゃんとの≪パートナー契約≫を結んだ慰謝料にはぜんぜん足りない!」


 慰謝料って……。

 それはお家賃とは違いますよ?


「わたしの心は深く傷ついたの! そんなのお金で解決できないんだからね!」


 お金で解決できないなら、なんでお金を受け取ってよろしくしたんだよ……。


「カケルン。お金ならいくらでもありますから、お気になさらずに」


「その表現もどうかと思いますよ⁉」


 まいった……。どうやらうちは、急に大金持ちになってしまったらしい。

 もしかして俺、玉の輿に乗ったというやつなのか……? ヤレヤレだぜ。



「おはよう……。良い匂いね。今日の朝食は何かしら……」


 アヤが目をこすりながら階段を下りてくる。


「アヤ、おはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」


 下! 下! パジャマの下穿いてない!


 それはダメそれはダメそれはダメ!

 魂の契約云々関係ないからっ! クラスメイトの下着姿を見る限定解除はしちゃダメなやつだから!


「お嬢様、寝癖がついたままで朝食の席に着くなんて恥ずかしいですよ」


 注意するところはそこじゃない! もっと恥ずかしいところがあるでしょ!


「お兄ちゃん……下着が見たいなら、言ってくれれば良いのに」


 こら、ミウ!

 俺に抱き着いたまま自分のスカートをめくるんじゃない! そんなハレンチな子に育てた覚えはないぞ!


「カケルン、大人の刺激がほしかったら、いつでも言ってくださいね♡」


 えー、もう嫌!

 この家で暮らすの、俺のほうが無理なんですけど⁉

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