3日間に及ぶ地獄の中間テストが終わりを告げる。
「やっと終わった……。
今日は遊ぶぞー! 何もかも忘れて遊び倒すぞー!
遠藤! 今日はゲーセン行くだろ? え、行かない?
桜井は暇だよな⁉ 実家の用事?
おい、加藤はお前は絶対いけるだろ! 田植えの手伝い? お前んち、農家だったの⁉ 違う? じゃあ田植えなんて関係ないじゃん。なんだよ、言いにくそうにして……。俺と遊ぶなって言われてる? 誰に? 言えないって……おーい、加藤、待て! 行くな! 加藤カムバーク!
ちょっと誰かー? えー、みんなして目を背けるじゃん……。俺って……クラスでハブられてたの……? ちょっマジで……?
「俺がテスト勉強に勤しんでいる間にいったい何が……」
何か至らない点があったなら直すから誰か教えてほしい……。
だからハブらないで……。俺の高校生活……。
「『いったい何が~』じゃないのよ。全部お兄ちゃんのせいでしょう? はぁぁぁぁぁ~」
背後から聞こえてくる巨大なため息。
この声は、我が愛しの妹君ではないか!
「おおー、ミウ! 我が魂の分身よ! この学校で俺に話しかけてくれるのはお前だけか? もしや我ら双子を残して世界は滅んだのか?」
お兄ちゃんはわりとポストアポカリプス物が好きだから、別にそれはそれで構わないぞ? だがしかし、妹と2人だと……新世界のアダムとイヴにはなれんな。それは困った。
「とりあえず、チェンジで頼む。痛ってぇ……なぜ殴った? しかもその拳の握り方は空手の有段者しか許されないという伝説の――痛い」
なぜ2回殴ったんだ……。
お兄ちゃんの頭蓋骨がへこんだらどうする。
「何もかもお兄ちゃんが悪い!」
両手で机ダーーーン!
すごい音がしたが、手の平は痛くなかったか? 痛いか。痛いよな。ふぅふぅしてやろうか。
「なあ、ミウ。お兄ちゃんはクラスでいじめに遭っているらしい……。さっき知ったんだ。つまりな、今日の放課後の遊び相手がいない。非常に困っている。甚だ遺憾ではあるが、妹よ、お兄ちゃんとゲーセンに行こう」
この世界に妹しかいないのなら、ゲーセンに誘えるのも妹しかいないということだ。俺天才的発想。
「行くわけないでしょ……。正気なの?」
「なぜだ! お前まで俺を見捨てるのか⁉ このタイミングで反抗期なの? お兄ちゃん子卒業なの?」
父さん、こういう時は兄としてどうすれば良いですか?
妹兄離れを祝い、血の涙を流しながらお赤飯を炊きますか?
俺のことも救ってもらっていいですか?
「違うでしょ。あれだけ朝の
「なんだったっけ……。テストのことで頭がいっぱいで何も覚えていないな」
「1ミリも勉強していないくせによく言うね……。咲坂先生に呼び出されていたでしょ。今日こそ部室に顔を出して、部長に挨拶するようにって」
「そんなことあったかな? そもそも部室は謎の爆発で棟ごと吹き飛んだし、すべての部活は廃部だろ」
謎の、ね?
俺はあの爆発には無関係なのでそこのところ、よろしく。
「廃部って……そんなわけないでしょ……。部室棟の跡地に、すでにプレハブ小屋の仮部室ができてるから」
「マジか。仕事は早いな。プレハブ小屋を作る
「知りませんけど~。工事の人ががんばったんじゃない? とにかく、さっさと部長に挨拶とやらを終わらせて、早めに帰ってきてよね。夕方スーパーの特売日だから、卵4パックよろしく。お1人様2パックまでだから気をつけて」
「えっ、お兄ちゃん1人しかいないんだが? 卵4パック……影分身で行けるかな?」
反復横跳びで影分身をがんばれば、スーパーの店員さんくらいはごまかせるか?
「さあね~~~~? 後ろの蝋人形でも連れていけば~? どうせ一緒に部室に行くんでしょ? 知らんけど~~~! イ~~~~~ッだ!」
言い方に棘があるなあ。
まあ仕方ない、反復横跳びよりはマシだな。
「じゃあ蝋人形さん、帰りにスーパーに……痛いんだが? なぜアヤまで殴ってくるんだ……」
しかもさっきミウが2発殴ってきたのとまったく同じ場所にトルネードで拳をねじりこんで……お前、さては武道経験者だな?
「誰が……蝋人形よ」
声小っさ。
痛いって。さらに追加で肩パンしてくんな。
「あ~そうそう、お兄ちゃんがクラスでハブられいる理由ね~、その女が原因だから~~~~~!」
めっちゃ声でっか!
クラスメイトたちがものすごく気まずそうに視線をはずしてくるじゃないか。どうやらミウが言っていることは真実のようだな。
「アヤ……どういうことか訊いても良いかな?」
「別に」
何が別になの……。
もしかして不機嫌なアヤ様なの?
あー、そうかそうか。テスト勉強で疲れちゃったのかな? そのわりには毎晩レオンさんと一緒に、俺の部屋に遊びに来ていらっしゃいましたよね。あなたたちがミウに怒鳴られるまで俺の部屋に居座るせいで、俺はテスト勉強がぜんぜんできなかったんですよ? 赤点だったら責任とってね?
「まあいいか。ハブられているのは俺が何かしたせいじゃないなら、そのうち治まる……よな。よし、早めに部室に行っとくか。えーとなんだっけ?」
「『占い魔術研究部』よ」
「そう、それ。女子が好きそうな名前!」
俺はね、もちろん占いなんてまったく興味ありません!
でも
「アヤ、何その顔……」
ちょっと引き気味なのはなぜ?
「あ~もう!」
ミウが頭を掻きむしりながら天井に向かって大声を上げた。
「わたしの目の黒いうちに、わたしの目の前でいちゃつくのやめてくれない? うっかり殺しそうになるから!」
「それは困るな。コバルトブルーのカラコンを買ってあげるから、どうか殺さないでください」
「わたしの前でいちゃつくなって言ってんの! さっさと部室に行け~~~!」
いちゃついてなんていないんだが……。
うちの妹様は視力が落ちたのかな? 眼科に行って視力検査をしてもらおう。なんだ、カラコン作るのにちょうど良いじゃん。
だから痛いって。尻にミドルキック入れてくるな。ムエタイの選手なの?「カケル、アウトー」のアナウンス流れたっけ?
「カケル、行きましょ。暴力妹がうるさいわ」
「誰が暴力妹か! あんたがお姉ちゃんになるのなんて死んでも嫌! むしろ殺してわたしがお姉ちゃんになる!」
「もう何言っているのかわからんな……。じゃあ、お兄ちゃんちょっと行ってくるわ! 卵4パックとカラコン以外ほしいものはあるかー? 思い出したらメッセ入れておいてくれー」
「うっさい死ね! わたしの前でナチュラルに手を繋ぐな!」
手?
お、おう……気づいたらアヤに手を引かれて……。アヤさんたら大胆ね!
って、耳まで真っ赤やんけ!
手ぐらいで意識しすぎでは? いや、よく考えたら女子と手を繋いだのは初めてだったわ。ただし、ミウとチヒ姉は除く。