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第16話 アヤは美人だし、性格も良い。がんばりやさんでツンデレでちょろインだしな

 アヤに手を引かれたまま、南棟の階段を降りて1階へ。


 その間中ずっと、別のクラスの知らないやつらに、死ぬほど二度見(ホントは十度見くらい)されながらなわけだが。……さすがにこの状況はリア充みたいで恥ずかしいな。まあ実際はビジネスパートナー的な関係だし、リア充感は一切ないんだけどな……。


 しかしアヤと一緒だとジロジロみられるのもある意味仕方ないとは思う。アヤはその容姿ゆえにとにかく目立つ。まあ、俺も無能力者別の意味で有名人だから、2人一緒にいたら余計に目を引くんだろうよ。


「ここまでくれば良いかしらね……」


 1階の元・渡り廊下(今は『謎』の部室棟大爆発の影響でただの地面)まできたところで、アヤが立ち止まる。ちらほら生徒の往来はあるものの、南棟の廊下の混み具合よりは100倍マシな状況だ。


「どうした? プレハブ小屋の部室はすぐそこなんだろ?」


 あ、わかったぞ。トイレをガマンしているなら待っていてやるから早く行ってこい。


「さっきの話……」


咲坂先生サッキーの話? ああ、そうか。あれはたしかに気になるよなあ。だけどアヤだってけっこう大きいほうだと思うし、ぜんぜん大丈夫だと思うぞ? そうそう、咲坂先生サッキーのあれってさ、硬そうに見えるだろ? 実は見た目よりもかなり柔らかくて……たぶんそろそろ垂れ始まっているから無理やり寄せてあげているんだと思うんだよな」


「……何の話よ?」


「だから咲坂先生サッキーの話の話だが?」


「わたしが言ったのは『さっきの教室での話』だけど!」


「おお、すまんすまん。勘違いしたわ」


 咲坂先生サッキーの軟乳について語り合いたいのかと思っちまったぜ。シッパイイッパイオッパイ!


「それで、さっきの教室での話だけど……」


「おう、どうした? まだクラスメイトたちと馴染めないのか? 俺の家うちで話すみたいに自然に話せば受け入れてもらえるだろ。アヤは美人だし、性格も良い。巨乳でがんばりやさんでツンデレでちょろインだしな」


「そんなの無理よ……。人族は私たちのことを恐れているもの……」


 うーん、俺のボケが完璧にスルーされてしまった。

 ボケ殺しはとても悲しいんだが……。


「まあ、でもうちの学校はちょっと特殊だからな。天使族も悪魔族もたくさんいるし、みんな普通に接していると思うけどな? 気にしすぎると禿げるぞ」


「うん……」


 うち禿げてへんわー! へんわーへんわーへんわー。

 淋しいので1人ノリツッコミ(エコーありver)にしてみました。……むなしい。


「この間、私とカケルが≪パートナー契約≫を結んだじゃない? それが大々的に公表されて、私の実家から学校へ圧力がかかったらしいのよ……」


「圧力? アヤの実家って、天使族の中でも有名な一族なんだっけ?」


「ええ、まあ……それなりに……」


 とても言いにくそう。

 これはかなりの名家と見た! まあ、従者のメイドさんがつくくらいのお嬢様だもんな。


「それで学校側に『パートナーとしての仲を深められるように、一般生徒たちには私とカケルに対して不要な接触を避けてほしい』って通達がなされたらしいのよ。それを先生たちが重く受け取って、わたしたちを除いた全生徒に連絡を回したんだって」


「マジかよー。地獄みたいな仕打ちだな……」


 晒上げとはこのことか。

 そっとしておいてくれれば、そのうち自然と……んーでもなんかもうすでに自然な会話はできるんだよな。これが魂の契約と言われる≪パートナー契約≫のおかげなのか、それとも、もともとそんなに相性が悪くなかったのかはわからないがな。


「レオンに頼んで、実家のほうには抗議してもらっているから、そのうち治まるとは思うんだけど……。それまでは……迷惑をかけてごめんなさい」


 アヤが頭を下げてくる。

 金糸のように光り輝く長い髪が、頬伝ってさらりと顔の前に流れた。


「いいよいいよ。別に気にしてないし。どうせもともと俺はクラスで浮いているし、若干距離を置かれている立場だしな」


「カケル、いじめられているの……?」


 と、アヤが上目遣いに俺の顔を覗き込んでくる。


「いや……いじめられているわけではない……と思う。だがさっきのやり取りでちょっと自信なくなってきたけど……。でもまあ、あれだ。俺は無能力者アンチだから、もともとうっすら距離を置かれていたんだよ。人族からも、天使族や悪魔族からも遠巻きに見られる存在。それが俺やで!」


 親指を立てて、自分の顔を指さしてみる。


 マジキチスマイル。

 精一杯の強がり。

 ホントはつらい。ホントは悲しい。

 ミウと父さん以外に、俺を俺として見てくれる人はいない。普段は常に『無能力者アンチの竹井カケル』として見られていて、それが当たり前で、少しずつ慣れ始めてきていたわけだが……。


「でも、アヤとレオンさんは、俺のことを無能力者アンチとして見ないから、すごくありがたいんだ。俺はアヤと≪パートナー契約≫を結べて良かったなって思っているよ。アヤは嫌だっただろうけどな」


「カケル……」


 ちょっと? なんで目を潤ませているの⁉ 泣くの⁉ 今の話に泣き所あった⁉ もしかして、俺との≪パートナー契約≫って泣くほど嫌だったの⁉


「な、長話ごめんな! 部室に急ごう! さっさと部長に挨拶して、すぐに帰らなきゃ! 空気のように存在感をなくして、目指せ幽霊部員だ!」


 今度は俺がアヤの手を引き、プレハブ小屋の部室へと急ぐ。


 あー、そういえば俺のことを無能力者アンチ扱いしない人がもう1人いたな。

 幼馴染みのチヒ姉こと黒羽チヒロくろはちひろだ。


 学年は1個上で、同じ学校に通っているはずなんだけど、学年が違うとぜんぜん会う機会がないな。小学生の時にはたくさん遊んでくれたのに、中学あたりからは若干疎遠になっちまったし。まあ、男女の幼馴染みだからそれも仕方ないのか。でもたまには会いたいな。



 プレハブ小屋をいくつか見て回り、ようやく『占い魔術研究部』の部室を発見した。

 前の時のような立派な看板はなく、ほかの部活と同じように小さなネームプレートにマジックで手書きされているだけ。

 少し淋しい。燃やしてしまってすみませんという気持ちが……燃やしたのは俺じゃないけどな!



「失礼します! 新入部員の竹井カケルと申します。2年ですがよろしくお願いします!」


 勢いよくドアを開け、元気よく挨拶先制パンチを浴びせかける。これで部長をノックアウトして、さっさと帰るぞ!


「もしかして……カッちゃん?」


 ん? 俺のことを『カッちゃん』と呼ぶのはこの世も1人だけのはずだが……。


 まさか、制服の胸元が大胆に開けている、この超絶セクシーなお姉さんは――。


「チヒ姉……?」


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