「チヒロ、期待の大型新入部員に、我が『占い魔術研究部』の部活動紹介は済ませたのか?」
うわっ、すごい顧問の先生っぽい!
期待の大型新入部員?……さっそく明日から幽霊部員になるつもりですが?
「おい、竹井カケル。お前、今何か良からぬことを考えなかったか?」
ギクリ……。
まさか心を読まれて……? いや、
「いいえ、今日の晩御飯はどうしようかなーと考えていただけですが何か問題がありましたか?」
「カケルンはサキちゃんがまともなことを言ったので、『コイツ、教師みたいなこと言うやんけ。マジウケる~。俺、明日から部室になんて来ないけどな。ケケケ』って思っていました」
「ちょっ、レオンさん⁉」
「発信機でキャッチしました」
俺の頭を指さして、めっちゃ微笑んでるぅ!
脳に発信機ってマジだったの⁉ まさか俺の考えていることって≪監察官≫様には筒抜け⁉
「竹井カケル……。次に先生を侮辱したら厳しい指導をするからな。覚悟しておけよ」
「めちゃくちゃ痛い……。これ以上に厳しい指導が……?」
たった今、ボクシングスタイルから、わき腹と
「あの、レオンさん……」
「どうしました、カケルン?」
「こういうのって≪監察官≫的にも先生的にも問題行動……じゃないんですか?」
今ここで、お手本のような体罰が行われましたよね?
完全にノーガードで叩き込まれたんで、内臓に損傷があるかも……。
「私はちょうど瞬きをしていたので見ていませんでした。何かありましたか?」
「えっ……いえ……なんでもないです」
この顔、この微笑み……部下の不祥事をもみ消す気満々だ……。
この人は俺の味方なんかじゃないぞ!
「カケル、平気? 痛む?」
アヤが近寄ってきて俺の脇腹にそっと触れる。
「あ、いや、たぶん……ちょっとすれば収まるかと……」
いきなりフェザータッチはやめて?
そういうのに免疫ないの。
って、アヤの顔が真っ赤に!
「カケルッ……」
まさか俺の感情、伝わっちゃった⁉
「なんかごめん……」
「こっちこそごめんね。こういうのでも……そう、なのね……」
「お、おう……」
恥ずかしっ!
ちょっとでもエッチなことを考えたらそれが伝わるとか、精神的に拷問が過ぎない⁉ こっちはアヤの考えていることなんて1ミリもわからないのに、この関係性って不公平すぎるでしょ!
「おい、お前ら……ラブコメなら家でやれ! ここは神聖な部活動を行う場所だぞ」
「ラブコメって……」
なんて言ったら、もう2、3発殴られそうだからグッとこらえます。俺、大人だな?
「チヒロ、部活動紹介を……お前はなぜ声を殺して泣いているんだ?」
チヒ姉が俺のほうを睨みつけながらなぜか目を潤ませて……俺何かやっちゃいました?
「べ、別に……うらやましくなんて……ギリィィィィ」
歯ぎしりがすごい!
ちょっと離れたこっちまで聞こえてくるって相当だぞ。歯、欠けてない?
「部長? 私たち買い物をして家に帰りたいので、早めにカケルに部活動の説明をしてくださらない?」
「アヤ⁉」
なんで腕を絡めてきたの⁉
このタイミングで……って、お前その顔、チヒ姉にマウント取ろうと……。
「我が『占い魔術研究部』は~~~! 学園に集う生徒たちの声に耳を傾け~~~! 時には困りごとや悩みごとの相談に乗り~~~! 時には学園運営のサポートをし~~~! 社会に出てから有用な人材になれるための手助けをする部活です~~~~~!」
チヒ姉……。
怒りに任せて机を叩き過ぎていて、何言っているのかぜんぜん頭に入ってこないよ。
「というわけだ。学園の各所に設置してある目安箱を通じて生徒からの悩み相談が入ってくる。直接この部室に相談に来る生徒もいるから、しっかりと対応するように」
と、
「この部活って、ボランティア活動が主な目的なんですかね? 部の名前って『占い魔術研究部』でしたっけ? 占いや魔術ってやつを使って生徒の悩みを解決するってことですか?」
今のところ、その説明がぜんぜんされていないんだけどな。
占いはともかく、魔術は人族でも使えるものなんですかね? 研究するだけだから別に問題なし?
「それは……だな……」
なぜか
ん、急になんだ?
「それはだな……どう説明したら良いか……」
「どうしたんですか?」
もしかして、人族には説明しづらい何かってことですか?
魔術的なあれだから?
「かっこいいからだ」
「……は?」
かっこいい、とは?……何かの隠語か?
「占いや魔術研究といえば、悪魔っぽいだろう?」
「えっ、ええ……まあ? アニメやラノベには怪しげな魔女がやっているイメージで描かれることが多いですね?」
「私は……人族の娯楽が好きでな……その……あの……」
さっきまでの勇ましい感じの
「娯楽。それで……?」
「悪魔が黒魔術を研究していると、なんかかっこいいだろ? だからそう名付けたんだよ。なんか悪いか⁉」
「い、いえ……良いんじゃないでしょうか……」
逆ギレかよー。
悪魔族がガッツリオタクって……。別に良いですけどねー。
悪魔が黒魔術の研究ねー。悪魔は黒魔術で呼び出される側で描かれていることが多いと思うんだが、どっちでも良いか!
と、ホクホクしたところで、ふとした疑問が浮かんできた。
「そういえば、アヤもこの部活に所属しているのか?」
「ええ、そうよ。転校初日に咲坂先生に勧められて入部したわ」
「そうなのか。なんか意外だな」
「そう? どの辺りが?」
そう尋ねられて、若干言葉に詰まる。
悪魔族の
「えーと……アヤはお嬢様だし、人の世話をするよりされるほうだろうなって思っていたから、かな?」
「おかしな人ね。天使族はもともとフットワークが軽いし世話好きな性質なのよ。どこかの悪魔族とは違ってね?」
おいー!
せっかく人が回避したのに、お前のほうから教師相手にケンカ売るなって! 殴られるぞ?
「フットワークが軽いか。それは笑えるな。悪魔族は天使族と違って契約を重んじるだけだ。どこぞの種族とは違い、適当な口約束をして、あとからそれを反故にしたりはしない。必ず
ほら空気が悪くなったー!
もうこういうギスギスしたのは嫌なんだけど⁉
「お、おおー……悪魔族、なんかかっこいいですね! あんまりそういう種族間での性質の違いについて考えたことなかったな。そうだ! 人族にはどんな性質があるかな⁉ 人族は従順な性質があるかな? 長い物には巻かれろの精神? なー、チヒ姉。俺たちってどうなんだろうなー?」
この場にいる人族は俺とチヒ姉だけだしなあ。
客観的な視点で人族の良さを頼むよ。
「えっ、人⁉ えっと……元気いっぱい、かしら?」
「元気? おー、そうか? んー、まあたしかに……元気なのかな?」
チヒ姉の視点はよくわからんな。
何かめっちゃ挙動不審だし、さっきからどうしただろう。
ポンッ。
レオンさんが両手を打ち鳴らしてみんなの注目を集める。
「サキちゃん、私から1つ提案がありま~す」
なんだかえらくニコニコしていらっしゃいますなあ。
レオンさんがこういう顔をしている時って、あんまり良いことがあったためしがないんだが……。
「カケルンの入部祝いに、次に生徒からやってきた依頼は、カケルンとお嬢様のコンビに解決してもらうのはどうでしょうか?」
俺とアヤで、生徒からの依頼を?
「良い提案だな。じゃない……素晴らしい提案であります! 天使上級監察官殿!」
レオンさんに話しかける時って、いちいち敬礼しないとダメなの? 普通にしゃべったらダメなの?
「なるほど。ここがそういう部活なら、俺的にはがんばろうとは思うんだけど……初めてだし、どんな依頼が来るかわからないし、それを見てからでも良いのかな、と?」
厄介そうな依頼なら、俺たちだけでは解決できないかもしれないし?
「カケルン……はぁぁ」
なぜため息を?
「……なんで……しょうか?」
「お嬢様に恥をかかせないでください」
「えー……」
恥って……。そんな大げさな。
「良いですか、カケルン。生徒の悩み相談の1つや2つや10個や100個くらい簡単に解決できなくては困ります。お嬢様は将来、天使族を背負っていかれるお方。カケルンはその第1歩目となる依頼で、いきなり躓かせるつもりですか?」
「えー……」
第1歩目となる依頼って……。この部活にやってくる相談って、そんな大それたものなの?
「悪魔族の前で、天使族のメンツを潰したりしたら、どうなるかおわかりですね?」
「カケル……手伝ってほしいのだけれど……ダメ……かしら……?」
2人ともそんな目で見るなよー。
たかが部活動のはずなのに、問題が深刻過ぎませんかね……?
なんで天使族と悪魔族の代理戦争みたいになっているんですか?
「おもしろいじゃないか……。いえ、大変興味深い提案でありますね!」
チヒ姉までちょっと楽しそうなのは何で?
「次の依頼がどんなものか、楽しみになってきたな、竹井カケル」
悪魔側からもすごいプレッシャーが……。
めっちゃ板挟みな俺! すっげぇかわいそうじゃね⁉