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第22話 だったら全部焼き払ってしまえば良くないかしら

 校庭の隅っこにある砂場に向かって、走り幅跳びの練習をしている1人の女子生徒を発見。

 あれが依頼主かな?


 全速力で助走をつけてから砂場に向かってジャンプ。また助走位置に戻り、砂場に向かって走ってジャンプ。それの繰り返し。

 練習の邪魔をしてはいけないだろうということで、アヤと俺は少し離れたところから女子生徒の練習風景を眺めることにした。


 しかし生で見ると迫力があるな。

 空中で走っているような……はさみ飛びって言うんだっけか。

 体は小柄なのに、手足が長く見える。


 と、女子生徒が砂場から離れて、荷物が置いてある木陰に向かって歩き出した。


 お、休憩か?

 声をかけるなら今か! 


「あのー、部活動中すみませーん。安藤レイナさん、でよろしいでしょうか?」


 女子生徒の背中側から声をかける。


「ん? はい、そうっすよ~。え~と……レナに何か用事っすか?」


 お尻についた砂を払いながら、こちらを振り返る。

 眉間にしわが寄っていて表情が険しい。いきなり声をかけたから、不審者と間違われたかな?


 足取りが重いアヤを促しつつ、手を振りながら安藤さんに近づいていく。

 ほら、女子も一緒ですから、決して怪しい者じゃありませんよ、というアピールも兼ねて。


「どうもー。俺たち『占い魔術研究部』の者です。相談のお手紙のことでお話を聴きに来ました」


「占い研の人! 早いっすね! 困っていたので助かるっす!」


 安藤さんの表情が一気に明るくなった。


 部の名前を出したら、信用してもらえたようだ。

 良かった良かった。


「俺は2年1組の竹井カケル。こっちは同じく2年1組の天使アヤ。2人とも『占い魔術研究部』の部員です」


「ごていねいにどうもっす。レナは1年3組の安藤レイナっす。みんなからはレナって呼ばれているっす。先輩方もそう呼んでほしいっす」


 ノリが軽いな。そして距離感の詰め方も早い……。陽キャか。苦手なタイプだわ……。ん、なんだか急に表情が曇った?


「もしかして……天使アヤ先輩って、天使族の方っすか?」


 その問いかけに、アヤが無言のまま頷く。


「もしかして、お2人って≪パートナー契約≫を結ばれた……? あの連絡網が回ってきたお2人っすか?」


 連絡網?

 ああ、あれのことか。


「たぶんそうだわ……。アヤの実家のほうからってやつだな……」


 俺たちの仲を深めるために、一般生徒は俺たちに話しかけてくれるなっていう、ありがた迷惑な連絡網プレッシャーが……。それってまだ訂正できていなかったのか。


「あー、そのことは気にしないでくれ。俺たちは『占い魔術研究部』の部員としてやってきたわけだから、思う存分相談してくれて良いぞ」


 変なプレッシャーに負けずにガンガン悩みをぶつけてくれ!

 俺たちも、レナさんの悩みを解決しないと困ったことになるしな! 天使族のメンツ的に?


「それなら安心したっす! 改めてよろしくお願いするっす!」


 うむ、元通りの軽さに戻ったな。

 まあ、今はこのノリに助けられておこう。


「ではレナさん! 依頼の手紙には『どこからか見られているような気がする』と書いてあったが、具体的にどんな感じか教えてもらっても良いか?」


 って、これ……結局俺がずっとしゃべるの?

「女子と話をするな」とか言っていたわりには、こういう時アヤは前に出てくれないのな。

 良いんだな? このまま女子とお話し続けるよ? なんだよ、睨むなよ……。お前、もしかして人見知りなの?


「相談の紙に書いた通りっすよ~。視線がこっちに向かってきているな~って感じる時があるっす。主に練習中っすね。でも帰宅中や学校がない日も、1人でいると視線を感じることがあるっすよ」


 言葉は軽めだが、表情からはかなり怯えている様子がうかがえる。

 なんとかしてやりたいな、という気持ちが強くなってきた。


「ちなみに、視線は今もあったりするのか? もし今も感じているようなら、そっちには視線を向けずに、口頭でどっち方向か教えてもらえると助かるんだが」


 1人でいる時って言っていたし、俺たちがいたらストーカー野郎も現れないかな?


「ビンビンに感じるっすね……」


「マジで⁉……どっち方向?」


 一瞬大声を出してしまった。

 犯人に聞かれていなければ良いんだが……。


「あっち。校舎側からっすね」


 ということは、今レナさんが向いているほう。つまり俺たちの背中側ってことか。


「わかったわ。いよいよ私の出番ね」


 アヤが小声でつぶやく。


「出番? もしかして、背後の様子を探ったりする隠密系の異能力アビリティでも持っていたりするのか? それならすごく助かるが」


 てっきり炎をぶっ放すだけの脳筋キャラだと思っていたわ。

 早とちりしていてすまんな。


「そんなのないわよ?」


 訂正。

 俺の謝罪を返せ!


「じゃあ……どうする気なんだよ……」


「今、安藤さんのストーカーが私たちの後ろにいるんでしょ?」


「たぶんな」


 自分のいる位置を偽装していたり、超遠隔で覗いていたりする可能性も? まあ、そういう異能力アビリティがないとも限らないが、普通に考えれば、俺たちの後方に誰かいるんだろうな。


「だったら全部焼き払ってしまえば良くないかしら」


 おい、脳筋!


「なあ、まさかと思うが……後ろに俺たちの学び舎、南棟があるのを忘れているんじゃないだろうな?」


「なぜか部室棟も壊れたみたいし、この際だから一緒に建て替えたら良いんじゃないかしら?」


 すまし顔のアヤ。

 お前、さては大物だな?


「なぜかって……。まあ良い。はっきり言っておく。この件で、お前の異能力アビリティは使用禁止だ。良いな?」


「困ったわ……。私、定期的に異能力アビリティを使わないと、体調が悪くなるのだけれど……」


 ため息を吐くな。


「校内ではなくて別の……何もない原っぱにでも行って堂々と使え。この件で、容疑者や校舎を焼き払ったらさすがに俺も本気で怒るからな?」


「え~、カケルも怒ったりするの?」


「いや、さすがに意味もなく怒ったりはしないが……」


「私のことは怒らないでちょうだい」


「そういうわけにはいかないな。悪いことをしたら怒る」


「嫌よ。私にだけは優しくして」


「そう言われたってなあ」


 って、何ですか、レナさん? その微妙な表情は……?


「聞いているこっちが恥ずかしいっす……。いちゃつくならレナのいないところでお願いするっすよ……。独り身には目の毒っすよ……」


 大きなため息を吐く。


「いちゃつくって……。俺はただアヤに無茶をしないように釘を刺していただけで……」


 おかしいな?

 校舎崩壊の危機を救っていたら、バカップル認定されたでござる。

 どうしてこうなった?

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