──翌日──
「桐生! 今日行ける?」と山岸さんが優星先輩に確認している。
──あ〜やっぱり夢じゃなかったのか……
「おお! 行ける!」と又、山岸さんに対してタメ
「じゃあ、花怜ちゃん今日は、桐生と外回り1日体験して来てくれる?」と山岸さんに言われた。
「はい……」
私に選択権などなかった。
──あ〜今日は、地獄の1日だ〜
「準備したら出るぞ! トイレ済ませとけ!」と言われた。
「はい!」
急いでトイレに行った。
仕事だから、ここは割り切って頑張るしかない。
「行って来ま〜す!」
「行って来ます……」
「行ってらっしゃ〜い」と山岸さんに、にこやかに手を振られて送り出された。
私は、何も聞かされないまま、ただ優星先輩に付いて行くだけだ。
エレベーターホールでエレベーターが来るのを待つ。
「今日は3軒行くから。今からYSカンパニーさんな!」と書類を渡された。
「あ、はい。ありがとうございます」
──私の分もコピーしてくれてたんだ
そして、
「あのカレーがねぇ〜」と又言った。
「カレーじゃなくて花怜です!」と不機嫌に言うと、「はい! 行きますよ〜
──ったく、なんなのよ! やっぱ貴方とは合わないわ
優星先輩が運転する社用車の助手席に座り、YSカンパニーさんに到着すると、担当者さんに、
「新人の高橋です。本日は勉強の為、同行させていただきました。よろしくお願いします」と優星先輩が紹介してくれた。
30代ぐらいのイケメン担当者さんと名刺を交換してご挨拶すると、快く受け入れてくださった。
私は、事務職なので、今後営業として来ることはないのだが、「電話応対することもあるし、こういう流れで仕事が回って行くのをよく見ておけ!」と優星先輩に言われた。
──なるほど〜
こうすることで、一連の流れが見えてとても勉強になると思った。
「貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」とお礼を言った。
「いえいえ、ぜひ又桐生さんとご一緒にいらしてください。あっ、花怜ちゃんのような可愛い方なら1人で来てくれても良いよ! 又ね」と微笑みながら手を振ってくださる。
──オジ様が言うと、ただのセクハラだと捉えがちだが、なかなかの爽やかイケメンに言われると、ちょっと嬉しい
なので、ニコニコ愛想笑いをしながらお辞儀をした。
「では、失礼致します」と、優星先輩もご挨拶して切り上げた。
そして、
「お前、なに間に受けてんの?」と笑いながら言われた。
「!!……間に受けてません!」と言うと、
「ニヤニヤしてたくせに……」と言う。
──相変わらず、ドS優星健在だな
「そりゃあそうですよ〜可愛いなんて言われたら、嬉しいですからね〜しかもあんなイケメンに!」と言い返した。
「お前、ああいうのがタイプなのか? 優輝じゃなかったのか?」と言われた。
「優輝先輩は、憧れです! 私、褒められて伸びるタイプなので、嬉しかったっていう話ですよ」と言うと、
「ふ〜ん」と言って黙り込んでしまった。
──この人は、いったい何を考えているのだろう?
本当に良く分からない時がある。
「じゃあ、次行くぞ!」
「はい」
また、社用車に乗り込む。
「お前、昼飯は弁当か?」と聞かれた。
「いえ、今日は外回りだと聞いたので、持って来てません」と言うと、
「おお〜正解だ! 美味いオムライス屋、教えてやる!」と言われた。
──えっ、意外! オムライスなんて可愛い食べ物食べるんだ〜
と思ってしまった。
「はい! オムライス大好きです」
「おお、そうか」とニコニコしている。
──こんなに可愛いく笑えるんじゃない!
なんだか素直に喜んでいるように見えた。
でも、やっぱり思わず優輝先輩を思い出してしまった。
──似てる……
もう一軒、
「桐生さんには、いつもお世話になっています」と言われたので、
「こちらこそお世話になっております」
「いえいえ、お世話になっております」
と優星先輩と被ってしまった。
「「!!」」
「ハハッ、息ピッタリですね」と言われた。
──え、だって当社の社員が褒められたら、こちらもお礼を言うよね? 私合ってるよね?
と言う顔で優星先輩を見た。
「フッ」と微妙な笑顔でこちらを見ている。
──えっ? えっ? 何?
その後は、いつも通りの流れなのか、社長さんと話している優星先輩。
隣りで、番犬のように黙って待つ。
しばらくすると、話終えたようで、
「ありがとうございました」と言う優星先輩と同じく「ありがとうございました」とお礼を言った。
「また来てくださいね、高橋さん!」と言われた。
「はい! ありがとうございます」とお辞儀をした。
車に乗り込むと、
「なんだよ! さっきの」と優星先輩が言った。
「えっ、さっきの私、合ってますよね? 当社の社員が褒められたら、
「うん、まあ、そうなんだけど……」とゴニョゴニョ言っている。
「え?」と思わず聞き返すと、
「まさか、カレーと一緒にお礼を言う日が来るとは……フッ」と笑いながら言った。
──???
私の頭の中には、クエスチョンマークがいっぱい並んだ。
「どういう意味ですか?」
「あ、いや何でもない。飯行くぞ!」
「はい!」
──オムライス〜オムライス〜
さっきの事など、どうでもよくなった。
しばらく車で走るとオムライス屋さんに到着。
やはり人気店なのか少し並んで待つことに。
「コレならいつもよりマシだ」と言う優星先輩。
「そうなんですね」
待っている間にメニューを渡された。先に注文しておいて席に着くと、さほど待たずに料理が出て来るシステムのようだ。
「うわ〜いっぱいある〜どれにしようかな〜」
と目をキラキラ輝かせながら選ぶ。
「俺は、デミグラスのクリームコロッケ乗せ」
「うわ〜何ですか! コレも美味しそう〜! どうしよう迷うな〜明太子ソースも食べたいし、デミグラスも食べたいし、クリームソースも唐揚げも……どうしよう」と迷っていると、
「デミソースなら少しやるぞ」と言ってくれた。
「ホントですか!」
「おお」
──え? 優しい!
あのドS優星が今だけドSではなくなっていると思った。
「じゃあ、今日は明太子ソースにします!」と言うと、
「フッ、今日は?」
「あ〜又別日に来なきゃですよ。で、ココ何処ですか?」と聞くと、
「えっ? 渋谷だけど」
「渋谷か……」
「え? お前東京出身だよな?」
「はい」
「地理大丈夫か?」と聞かれたので、
「いえ……」と言うと、
「えっ? もしかして、お前……」とニヤッと笑っている。
「そうですよ、超絶方向音痴の地理欠落女ですけど何か?」と返した。
「ブッ、そうだったんだ」と肩を震わせて笑っている。
──だから、私に営業なんて無理なのよ。家と会社の往復だけなら大丈夫だから電車1本で通えるこの会社を選んだわけだし……
5番目ほどで名前を呼ばれた。
「2名でお待ちの桐生様〜」
「はい!」
楽しみ過ぎて、思わず張り切って返事をしてしまった。
「フッ」と優星先輩に笑われた。
待ちに待ったオムライスが来た!
「うわ〜美味しそう〜」
約束通り、優星先輩がデミソースを私のオムライスに少し掛けてくれた。しかも、2個しかないクリームコロッケを1つくれたのだ。
「え、いいですよ! 2個しかないのに」
と言ったが、「味見したいだろ?」と言ってくれた。
「ありがとうございます」と言って私も明太子ソースを優星先輩のオムライスに掛けた。
「おお、サンキュー!」と言った。
「「いただきます!」」
「はあ〜美味しい〜」デミソースも明太子ソースも美味しくて感激した。
「フッ、美味そうに食うな」
「ホントに美味しいです。良かった今日付いて来て」と思わず仕事だと言うことを忘れて言ってしまった。
「フッ、仕事だ!」と言われたので、
「あ、すみません」とニコニコしておいた。
そして、優星先輩が支払ってくれた。
支払うと言ったが、「新入社員だから遠慮するな!」と言われたので、お言葉に甘えることにした。
「ご馳走様でした」
と、お店を出ると、思い切り優星先輩の胸元にぶつかった。
「危ない!」
「痛っ〜い!」と自分の額を撫でる。
「お前なあ! 車はあっち」と指を差された。
「あ、すみません」
「フッ、早速、超絶方向音痴炸裂だな」と笑っている。
──待って! 今ぶつかった拍子にぎゅっと抱きしめられたよね……きゅん
「ブッ、大丈夫か? 額」とゲラゲラ笑っている。
「あ、はい」
── 一瞬でもきゅんした気持ち返してよ!