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第2話 営業同行



──翌日──


「桐生! 今日行ける?」と山岸さんが優星先輩に確認している。


──あ〜やっぱり夢じゃなかったのか……


「おお! 行ける!」と又、山岸さんに対してタメぐちで答えている。

「じゃあ、花怜ちゃん今日は、桐生と外回り1日体験して来てくれる?」と山岸さんに言われた。


「はい……」

私に選択権などなかった。


──あ〜今日は、地獄の1日だ〜


「準備したら出るぞ! トイレ済ませとけ!」と言われた。

「はい!」


急いでトイレに行った。

仕事だから、ここは割り切って頑張るしかない。


「行って来ま〜す!」

「行って来ます……」


「行ってらっしゃ〜い」と山岸さんに、にこやかに手を振られて送り出された。


私は、何も聞かされないまま、ただ優星先輩に付いて行くだけだ。


エレベーターホールでエレベーターが来るのを待つ。


「今日は3軒行くから。今からYSカンパニーさんな!」と書類を渡された。

「あ、はい。ありがとうございます」

──私の分もコピーしてくれてたんだ


そして、

「あのカレーがねぇ〜」と又言った。

「カレーじゃなくて花怜です!」と不機嫌に言うと、「はい! 行きますよ〜さん!」と言われた。

──ったく、なんなのよ! やっぱ貴方とは合わないわ



優星先輩が運転する社用車の助手席に座り、YSカンパニーさんに到着すると、担当者さんに、

「新人の高橋です。本日は勉強の為、同行させていただきました。よろしくお願いします」と優星先輩が紹介してくれた。


30代ぐらいのイケメン担当者さんと名刺を交換してご挨拶すると、快く受け入れてくださった。


篠崎しのざき 海斗かいとさん


私は、事務職なので、今後営業として来ることはないのだが、「電話応対することもあるし、こういう流れで仕事が回って行くのをよく見ておけ!」と優星先輩に言われた。


──なるほど〜

こうすることで、一連の流れが見えてとても勉強になると思った。


「貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」とお礼を言った。

「いえいえ、ぜひ又桐生さんとご一緒にいらしてください。あっ、花怜ちゃんのような可愛い方なら1人で来てくれても良いよ! 又ね」と微笑みながら手を振ってくださる。


──オジ様が言うと、ただのセクハラだと捉えがちだが、なかなかの爽やかイケメンに言われると、ちょっと嬉しい


なので、ニコニコ愛想笑いをしながらお辞儀をした。

「では、失礼致します」と、優星先輩もご挨拶して切り上げた。


そして、

「お前、なに間に受けてんの?」と笑いながら言われた。

「!!……間に受けてません!」と言うと、

「ニヤニヤしてたくせに……」と言う。

──相変わらず、ドS優星健在だな


「そりゃあそうですよ〜可愛いなんて言われたら、嬉しいですからね〜しかもあんなイケメンに!」と言い返した。

「お前、ああいうのがタイプなのか? 優輝じゃなかったのか?」と言われた。

「優輝先輩は、憧れです! 私、褒められて伸びるタイプなので、嬉しかったっていう話ですよ」と言うと、

「ふ〜ん」と言って黙り込んでしまった。


──この人は、いったい何を考えているのだろう? 

本当に良く分からない時がある。


「じゃあ、次行くぞ!」

「はい」


また、社用車に乗り込む。

「お前、昼飯は弁当か?」と聞かれた。

「いえ、今日は外回りだと聞いたので、持って来てません」と言うと、

「おお〜正解だ! 美味いオムライス屋、教えてやる!」と言われた。


──えっ、意外! オムライスなんて可愛い食べ物食べるんだ〜

と思ってしまった。


「はい! オムライス大好きです」

「おお、そうか」とニコニコしている。


──こんなに可愛いく笑えるんじゃない!


なんだか素直に喜んでいるように見えた。

でも、やっぱり思わず優輝先輩を思い出してしまった。


──似てる……


もう一軒、山根やまね工業という会社に行った。恰幅の良いオジ様社長と握手をしている優星先輩。先程と同じように、私を紹介してくれた。


「桐生さんには、いつもお世話になっています」と言われたので、

「こちらこそお世話になっております」

「いえいえ、お世話になっております」

と優星先輩と被ってしまった。


「「!!」」


「ハハッ、息ピッタリですね」と言われた。

──え、だって当社の社員が褒められたら、こちらもお礼を言うよね? 私合ってるよね?


と言う顔で優星先輩を見た。

「フッ」と微妙な笑顔でこちらを見ている。


──えっ? えっ? 何?


その後は、いつも通りの流れなのか、社長さんと話している優星先輩。

隣りで、番犬のように黙って待つ。

しばらくすると、話終えたようで、

「ありがとうございました」と言う優星先輩と同じく「ありがとうございました」とお礼を言った。


「また来てくださいね、高橋さん!」と言われた。

「はい! ありがとうございます」とお辞儀をした。


車に乗り込むと、

「なんだよ! さっきの」と優星先輩が言った。

「えっ、さっきの私、合ってますよね? 当社の社員が褒められたら、へりくだってお礼を言うんですよね?」と確認した。

「うん、まあ、そうなんだけど……」とゴニョゴニョ言っている。


「え?」と思わず聞き返すと、

「まさか、カレーと一緒にお礼を言う日が来るとは……フッ」と笑いながら言った。


──???

私の頭の中には、クエスチョンマークがいっぱい並んだ。


「どういう意味ですか?」

「あ、いや何でもない。飯行くぞ!」

「はい!」

──オムライス〜オムライス〜

さっきの事など、どうでもよくなった。



しばらく車で走るとオムライス屋さんに到着。

やはり人気店なのか少し並んで待つことに。

「コレならいつもよりマシだ」と言う優星先輩。

「そうなんですね」


待っている間にメニューを渡された。先に注文しておいて席に着くと、さほど待たずに料理が出て来るシステムのようだ。


「うわ〜いっぱいある〜どれにしようかな〜」

と目をキラキラ輝かせながら選ぶ。

「俺は、デミグラスのクリームコロッケ乗せ」

「うわ〜何ですか! コレも美味しそう〜! どうしよう迷うな〜明太子ソースも食べたいし、デミグラスも食べたいし、クリームソースも唐揚げも……どうしよう」と迷っていると、

「デミソースなら少しやるぞ」と言ってくれた。

「ホントですか!」

「おお」


──え? 優しい! 

あのドS優星が今だけドSではなくなっていると思った。


「じゃあ、今日は明太子ソースにします!」と言うと、

「フッ、今日は?」

「あ〜又別日に来なきゃですよ。で、ココ何処ですか?」と聞くと、

「えっ? 渋谷だけど」

「渋谷か……」

「え? お前東京出身だよな?」

「はい」

「地理大丈夫か?」と聞かれたので、

「いえ……」と言うと、

「えっ? もしかして、お前……」とニヤッと笑っている。

「そうですよ、超絶方向音痴の地理欠落女ですけど何か?」と返した。

「ブッ、そうだったんだ」と肩を震わせて笑っている。


──だから、私に営業なんて無理なのよ。家と会社の往復だけなら大丈夫だから電車1本で通えるこの会社を選んだわけだし……


5番目ほどで名前を呼ばれた。

「2名でお待ちの桐生様〜」

「はい!」

楽しみ過ぎて、思わず張り切って返事をしてしまった。

「フッ」と優星先輩に笑われた。


待ちに待ったオムライスが来た!

「うわ〜美味しそう〜」

約束通り、優星先輩がデミソースを私のオムライスに少し掛けてくれた。しかも、2個しかないクリームコロッケを1つくれたのだ。

「え、いいですよ! 2個しかないのに」

と言ったが、「味見したいだろ?」と言ってくれた。

「ありがとうございます」と言って私も明太子ソースを優星先輩のオムライスに掛けた。

「おお、サンキュー!」と言った。


「「いただきます!」」

「はあ〜美味しい〜」デミソースも明太子ソースも美味しくて感激した。

「フッ、美味そうに食うな」

「ホントに美味しいです。良かった今日付いて来て」と思わず仕事だと言うことを忘れて言ってしまった。

「フッ、仕事だ!」と言われたので、

「あ、すみません」とニコニコしておいた。


そして、優星先輩が支払ってくれた。

支払うと言ったが、「新入社員だから遠慮するな!」と言われたので、お言葉に甘えることにした。

「ご馳走様でした」

と、お店を出ると、思い切り優星先輩の胸元にぶつかった。


「危ない!」

「痛っ〜い!」と自分の額を撫でる。

「お前なあ! 車はあっち」と指を差された。

「あ、すみません」

「フッ、早速、超絶方向音痴炸裂だな」と笑っている。


──待って! 今ぶつかった拍子にぎゅっと抱きしめられたよね……きゅん

「ブッ、大丈夫か? 額」とゲラゲラ笑っている。

「あ、はい」

──  一瞬でもきゅんした気持ち返してよ!



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