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第3話 憧れの人

 3軒目の会社に行くまで、まだ時間があるようなので、コンビニに車を停めて少し休憩をする。

「待ってろ、コーヒーで良いか?」と聞いてくれている優星先輩。

「あ、はい、ありがとうございます」


──え、おかしい! なんだか優しくなっている

でも、そりゃあ高校生以来会っていなかったのだから、24歳にもなると変わるのかな……

とも思った。


「ん!」とカップに入ったホットコーヒーを買って来てくれた。

「ありがとうございます」

お子ちゃまな私は、砂糖もミルクも入れる。

好みが分からなかったのだろう、両方貰って来てくれた。


「13時まで休憩な」と言った。

「はい」

今は、12時40分、20分ある。


「いただきます」

私は、何を隠そうカップの《蓋恐怖症》なのだ。

熱い飲み物がいつどれだけ出て来るのかが分からず、熱いのが苦手なので、蓋を開けて飲むのだ。


早速蓋を開けて、砂糖とミルクを入れてかき混ぜると、そのまま飲んだ。

「ん? 蓋は?」と聞く優星先輩

「あ、蓋恐怖症なので」と言うと、

「は?」と不思議そうな顔で見ている。

「ん? 恐くないですか? この蓋があるといつどれだけ出て来るか分からないから熱いですよね?」と蓋を指差すと、

「は〜? いつどれだけ出て来るかは、お前の加減次第だろ?」と笑っている。

「そうなんですけど、苦手だから恐怖に思うぐらいなら要らないかなって」

「へえ────」と、呆れた様子で見ている。


そして、優星先輩に聞いてみた。

「あのう〜」

「ん?」

「聞いてもいいですか?」

「なんだ?」


「今、優輝先輩はどうされてるのですか?」と恐る恐る聞くと、

「優輝は、大手電機メーカーに就職した。元気にしてんじゃないか?」と言った。

「そうですか……ん? あまり会ってないんですか?」と聞くと、

「ああ、就職してからお互い一人暮らししてるからな」

「そうなんですね……」


「なあ!」

「はい」

「なんで名前が変わったのか聞かないのか?」と言われた。

「聞いても大丈夫なんですか?」と聞くと、

「別に良いよ! 俺たちが高校を卒業してから両親が離婚して、またその後に母親が再婚した」と言った。

「そうだったんですね」


──先輩たち苦労されたのかなあ?

「今度の旦那は、金持ちみたいだから良かったよ」と言った。

「そうなんですね……」


何と言えば良いのか分からなかった。

それに、お腹がいっぱいになって、お天気が良くポカポカしているせいか、私は眠くなってきてしまっていたのだ。


──ヤバイ、眠い……


ボーっとして何も話さなくなった私の顔を覗き込んで見ているドS先輩。


「お前! まさか人の話聞かないで寝てたのか?」と言われた。

「いえ……」半目でボーっとしたまま眠気と戦っていた。

「……ったく、ちょっと寝とけ」と言われたので、

遠慮なく……ホッとして自然と瞼が落ちて来て眠ってしまった。


「…………スゥ〜スゥ〜」



しばらくすると、

「そろそろ行くぞ」という声で目が覚めた。

「……はい! あっすみません、本気で寝てしまいました!」と言うと、

「うん、知ってる! ガーガーいびきかいてたから」と言った。

「えっ、嘘?」と驚くと、

「嘘!」と笑っている。


──もう〜! まただ……でも、寝起きで頭が回らない

「フッ」と笑われた。


おまけに今度は、自分の口元を人差し指で差して、

「ヨダレ垂れてる」と言うので、慌てて口を拭くと、「嘘!」と又笑っている。


──あ〜やっぱりそういうところは、変わってない、まるで子どもだ!


私は、冷めたコーヒーを手に取り飲みながら、ジト〜ッと優星先輩のことを見ながら飲んだ。


──あれ? そう言えば私、さっきコーヒーのカップを持ったまま眠ってなかったっけ? もしかして、優星先輩が置いてくれたのかなあ?




そして、3軒目の会社に向かった。

大手電機メーカー三山電機の看板が見えて来た。


──え? まさかココって、優輝先輩の会社じゃないよね?

と思っていると……


「会えると良いな」と私の方を見ている優星先輩。

「え?」と驚きながら聞くと、

「優輝の会社だ」と言った。

「マ、マジですか?」と驚いたが嬉しかった。


地下の駐車場に車を停めようとされているので、

私は慌てて鏡を取り出した。

顔をチェックしリップを塗り直して、前髪を直した。


「は──っ? 何それ? さっきはヨダレ垂らして寝てたくせに」と言われた。

「垂らしてません!」

「フッ」と笑っている。


そして、私たちは1階の受付で担当者さんを呼んでいただいた。

しばらくすると、先輩たちと同じ年齢ほどの綺麗な女性が降りて来てくださった。


いつもの流れで、紹介していただいて、名刺交換をした。

佐伯梨沙さえきりささんとおっしゃるようだ。

エントランス横にあるソファー席に3人で座った。優星先輩が佐伯さんと話をしている間、私はキョロキョロと優輝先輩を探す。


──そんな偶然には会えないか……


黙って2人の話を聞いていた。

もう3軒目ともなると、流れは掴んだ。


そして、話は終わったようだ。

「ありがとうございました」とお礼を言った。

すると、「優輝さん、呼びますか?」と佐伯さんがおっしゃった。


──えっ? 呼んでもらえるの?

と私の目はキラキラ輝いていたのかもしれない。


しかし、優星先輩は、チラッと私の方を見て、

「あっ、ありがとうございます。僕から連絡してみますね」と言った。

──そうよ! 弟なんだから呼んでくださいよ!


佐伯さんと別れて、私はニコニコしながら優星先輩を見た。


「なんだよ! フッ、呼べば良いんだろう」と笑っているので、微笑みながら小刻みに何度も頷いた。


そして、優星先輩は、スマホを持ちながら、

「あ〜俺今、1階に居る。降りて来られる? 会わせたい人が居るんだけど……」と言った。


──やだ〜会わせたい人だなんて、なんか違う意味に取られないかしら?

とモジモジしながら……私は、ドキドキ、ワクワクしながら又鏡を取り出して顔をチェックしていた。


そして、待つこと数分……

エレベーターホールから、こちらに向かって歩いて来られるイケメンが! まさに憧れの優輝先輩だ! オーラが違う!


──うわ〜〜更にイケメンになっていらっしゃる。ん? やっぱ似てる優星先輩に……と隣りを見た。双子なんだから当たり前か


そして、近づいて来られて、私に、

「え? もしかして、花怜ちゃん?」とやっぱりすぐに気付いてくれた。

「はい! そうです!」と私が目をキラキラ輝せながら言うと、

「うわ〜益々綺麗になったね」と言ってくださった。

──う〜ん、きゅん!

「ご無沙汰しております。お会い出来て嬉しいです」とニコニコしながら言うと、

「いや〜俺の方こそ」と満面の笑みを向けてくださった。

──最高だ!


「でも、どうして?」と優星先輩に聞いている。

「うちの会社に入社して営業部に来たんだよ」

「え〜! そうなの?」と、驚かれている。


「はい、私は一般事務ですが、今日は営業のお勉強で優星先輩とご一緒させていただいています」

「そうなんだね! 凄い偶然だね」

「はい、驚きました」


「お前、花怜ちゃんのこと虐めるなよ」と優星先輩に言ってくださった。

「虐めね〜わ」

「何か有れば俺に言うんだよ」と。

「はい!」

「あ、コレ」と優輝先輩は、名刺をくださった。

「いつでも連絡して!」と……

「ありがとうございます」と私も真新しい名刺を差し出した。


──やった! やった! 優輝先輩の名刺ゲットした!


「お仕事中に突然すみませんでした。ありがとうございました」と私はお礼を言った。

「ううん、会えて嬉しかったよ」とおっしゃってくださった。

「私もです!」と、見つめてしまった。

──あ〜やっぱ好き! きゅん……


そして、優星先輩に、

「じゃあな!」とおっしゃると、

「おお!」と、

私は思わず手を振ってしまった。

──あ〜もうお別れだなんて切ない……と思いながら背中を見送った。


そして、

「はあ〜カッコイイ〜!」と呟くと、

「そうか?」と隣りから言われた。


チラッと見て、

──確かに見た目はほぼ同じ! でも、やっぱ中身は、全然違うのよね〜

もう少し優しければなあ〜

ん? もう少し優しければ、私、優星先輩を好きになるのかなあ? 


ブルブルと頭を振り、優輝先輩が見えなくなるまで見送った。

すると、女性と親しそうに話しているのが見えた。

──え? 佐伯さん?

優星先輩は、スマホを見ている。


──そりゃあ、同じ会社の人だし、会えば話すよね〜

でも、なんだろう! このザワザワする気持ちは……


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