──翌日の土曜日──
私は、意を決して、優輝先輩にメッセージを送る為に、スマホを開いた。
〈優輝先輩、先日はありがとうございました。お会いしてお話したいことがあります。少しで良いので、お時間いただけないでしょうか?〉
「あ〜どうしよう」
「お会いして? 会っていただけますか? いや、お時間ください! う〜ん」
何度も打っては打ち直して……ようやく出来上がったのに、なかなか送信する勇気が出ない。
「あ〜もう〜〜よし行け!」
ポチっと送信ボタンを押してしまった。
「うわ〜送っちゃったよ、どうしよう」
しばらく画面から目が離せない。
すると……既読が付いた。
「うわっうわっ! 見た! 怖いっ!」
思わず画面を閉じて、通知が来るのを待った。
そして、しばらくすると、
画面に返信が来たことを知らせる通知が来た。
「来た!」
送るのに、あれだけ躊躇していたくせに、返信はドキドキしながらも早く知りたいので、すぐさま開く。
〈花怜ちゃん! 俺も会えて嬉しかったよ。どうしたの? 何かあった? 優星に何かされた?
ちょっと今仕事が忙しくて、明日も出勤しなくちゃだから、しばらく予定が立てられないんだよね。メッセージで送っておいてくれたら後で返すね。ごめんね〉
と、とても優しい優輝先輩らしい答えが返って来た。
「そっか……忙しいよね〜そんな時に私ったら……」
自分の気持ちばかり優先して、知りたい!
だなんて、申し訳なかったなと反省した。
〈お忙しい時にすみませんでした。いえ、急がないので、またの機会に……あっ、優星先輩に何かされたわけじゃないので、ご心配なく。お仕事頑張ってくださいね。ありがとうございました〉
と返した。
「あ〜あ……結局、彼女が居るのかさえ聞けなかったな」
でも、やり取りが出来ただけで幸せだ!
もし、会って話す機会が出来たら、その時は、今までの思いを告げよう! たとえ、木っ端微塵になって撃沈したとしても、私は優輝先輩のことを好きになって良かったと思えるはずだから……
「花怜〜!」と1階から母が呼んでいる。
「は〜い!」2階から降りて行くと、
「ちょっと、ショッピングモールまで買い物付き合ってくれない?」と言う母。
「お父さんは?」と聞くと、
「朝早くからゴルフに出かけたわよ」と言う。
「そうなんだ、分かった! ちょっと着替える」
そして、母と2人で出かけることに……
ショッピングモールと言っても駅の向こう側に出来たので、徒歩10分もかからない。
でも、母が『買い物に付き合って!』と言う時は、一度にたくさん買い込みたいから車を出して欲しいと言うことなのだ。
私は、車の運転免許証を持っているので、運転は出来る。でも、超絶方向音痴の為、ナビだけが頼りだ。その為、あまり遠出はしない。
母は、運転免許を持っておらず、いつも父と買い物に行くのだ。その父がゴルフで留守なら、頼られても仕方がない。
そして、支度をして車に乗って出かけた。
近過ぎて、あまり来ないので、私が来るのも久しぶりだった。
「ちょっと、洋服でも見ようかな」
と嬉しそうに洋服を見て回る母。
どうも、父と一緒だとゆっくり見ていられないようだ。
「どう?」
と母は、黒いトップスを胸の前で顔に合わせている。
「う〜ん、良いけど、今からの季節だと白の方が良くない?」と言うと、
「そうね〜」
隣りにあったシースルーのトップスを持って、
「これなら、透けても良いやつだから……」と母の顔に合わせる。
「え〜こんなオバさんが見せても良いの?」と言っている。
「見せるって……あ、出来ればタンクトップ止まりにしてね、キャミソールは辞めてよね」と言うと、
「やっぱりオバさんは、細い紐はダメなのね?」と言う母。
「うん、ちょっと私は嫌かな」
母ぐらいの年代になると、細い紐のキャミソールだけのインナーが透けて見えるのは、少しいやらしく見えてしまうような気がする。
「そうよね〜花怜ぐらい若ければ似合うよね」と、黒いキャミソールとシースルーのトップスを私の胸の前に合わせている。
「花怜これにすれば? ちょっと羽織ってみて!」となぜか私に勧める母。
「どうぞよろしければ……」とフィッティングルームへと案内されたので、2人で鏡の前で、上だけ羽織ってみる。
今日、私はジーンズに黒のブラトップに長袖シャツを着ているので、シャツを脱いで羽織るとピッタリだ。
「良いじゃない!」
「う〜ん、そうね〜黒っぽいシースルーは、持ってないから買おうかな」と言うと、
「うんうん、どう?」と自分のも見て! と言う母。
「うん、やっぱり白の方が良いよ」と言うと、
「そうですね、白の方がお若く見えますね」とお上手なスタッフさんに言われて、
「そうかしら? なら私、白を買うから色違いで買ってあげる」と言う母。
「え、良いの?」
「うん、まだお給料入ってないでしょう?」と言って買ってくれるようだ。
──それは、有り難い! ん? これは、もしかして初任給を期待してる?
今日のところは、お言葉に甘えて一緒に買ってもらうことにした。
「もうそのまま着たら?」と母に言われたので、値札を外してもらって、そのまま着た。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。母さんも良いのが買えたわ。やっぱり娘よね、お父さんと来ても、どっちでも〜とか言うからつまらないのよ」
「ハハ、なるほどね」
そのまま色んなお店を見て回り、ようやく1階の食料品売り場へ行った。
カートを押しながら、野菜、お肉、魚、あっという間に買い物カゴをいっぱいにする母。
3人家族なのに、いつもこんなに? と思うが、父がよく食べるからと言う。
私もついでに、おやつをカゴに入れる。が、いつもの事なので母は何も言わない。
そして、
「あっ、パンを買わなきゃ」とパン屋さんへ急ぐ母。
そして、カートを押す男性にぶつかりかけて、
「あら、ごめんなさいね」と謝っている母。
その男性を見ると……
「えっ!」「あっ!」
まさかのドS優星先輩!
「ん? お知り合い?」と母。
「あ、うん、職場でお世話になっている先輩」と言うと、
「まあ、娘がいつもお世話になっております。花怜の母です」と挨拶すると、
「あ、お母様ですか? こちらこそお世話になっております。桐生と申します」とご挨拶する優星先輩。
「え? もしかして、早明高校の先輩の?」と、言うので、
「うん」「あ、はい」と言っている。
「まあ、昨日は自宅まで、送っていただいたようでありがとうございました」と言っている。
「あ、いえ……」と2人でペコペコお辞儀をしている。
「あ、すみません。私、パン屋さんに行って来るので……花怜ココで待ってて! 失礼します」と、母は私を置き去りにして行ってしまった。
──嘘でしょう! なんで置いて行くかなあ〜
と思いながら、
「あ、昨日はありがとうございました」とお礼を言うと、
「おお! なんか、今日は、いつもと雰囲気が違うな」と全身を見ながら言われた。
「あ〜お休みだし……」と言ったものの、私は、先ほど母に、買ってもらったシースルーの黒のシャツにブラトップ姿だった。
──うわっ! なんかちょっとヤダな……
てか優星先輩も前髪を下ろして、スーツと違ってラフな服装、ちょっと良いじゃん!
と思っていると、
「そっか、近くだから?」と言われたので、
「あ〜近過ぎて私は、あまり来ないんですけどね、久しぶりに母の付き添いで」と言うと、
「そっか……」と。
カゴの中に食材が見えたので、
「食事の買い物ですか?」と聞くと、
「うん、休みの日ぐらい料理しようと思って」と言うので、
「え、お料理出来るんですか?」と驚きながら聞くと、
「まあな、1人暮らしだし、簡単な物なら作れるよ」と。
「へ〜〜」と言うと、
「ん? カレーは? 料理するのか?」と、聞かれたので、
「花怜! カレーとかややこしい! まあ、ある程度は……」と言うと、
「へ〜〜」と少し微笑んでいるように見えた。
「あ、じゃあ、私パン屋さんへ」と言うと、
「お前、パン屋さんがどこか分かってるのか?」と聞かれて、
久しぶりに来たけど、恐らくココを真っ直ぐ行った先だったような……と、悩んでいると、
「お母さん、ココで待ってて! って言ってたぞ」と。
──え、そうだけど……もうあなたと話すことなんて……
と思っていると、
「優輝に連絡したのか?」と聞かれた。
「あ〜」と、メッセージを送ったが、仕事で忙しいようで、と答えると、
「そっか、今忙しい時期なんだな」と。
「そのようです」としょんぼりすると、
「まあ、そのうちだな」と言った。
「はい……」
──ん? 応援はしてくれてるの?
なんだか不思議な感覚になった。