──翌日──
優星さんとお付き合いすることになってから、初めての出社。私はすっかり元気になっていた。
優星さんとは、夜も朝も、ずっとメッセージでやり取りをしていた。
薬のおかげで治まったのだ。
〈良かった!〉
ずっと心配してくれていたようだ。
優星さんの真の優しさが沁みた。
益々、私は優星さんのことが好きになっていると思った。
「おはようございます」
「おはよう」「おはようございます」
──あっ、山岸さんだ! いつも早いな
「おはようございます」と挨拶すると、
「おはよう、花怜ちゃん」と言われた。
その顔は、ニヤニヤしている。
「金曜日は、ありがとうございました」と言うと、小声で、
「良かったね」と言ってくださった。
そう! 金曜日の夜に帰ってから、山岸さんに報告したのだ。
大学の時の友達たちにも報告せよ! と言われていたので、交際のことを、報告したら又盛り上がっていた。
「はい! ありがとうございます」と言った。
その間、山岸さんは、ずっとニヤニヤされていた。
その時、
「おはようございます」と、優星さんが出社して来た。
──あっ、今は……と思いながら、
「おはようございます」と言うと、
すかさず山岸さんは、優星さんの方を見て、
「桐生〜! おはよう〜」と近づいた。
「オ─ッス!」と言う優星さん。
山岸さんは、
「桐生! オッスじゃないでしょ! おはようございますでしょう!」と言いながら、肩を組んでボディーをドスドスと殴っている。
「ハハッ辞めてくださいよ! 暴力反対〜」と言いながら笑っている。
「ふふ」と思わず私も笑ってしまった。
そして、ようやく席に着くと、
「おや? 花怜ちゃん、それは?」と、早くも私のピンキーリングが見つかった。
「あ、これは……」と言うと、
「ん? もしかして買ってもらったの?」と、山岸さんは、鋭い! 全てお見通しだと思った。
私は、何も言わずにニコニコしていた。
すると、優星さんが向いの席から、
「山岸さん、シーッ」と人差し指を口に当てながら言った。
「だね〜うん、分かった分かった!」と……
「よろしくお願いします」と言うと、
「うんうん」とニコニコされている。
優星さんは、チラッと私の目を見て、ニコッと笑った。思わず私もニコッとした。
「ハア〜〜〜〜」と山岸さんは、ニヤニヤしながら、
「言いたい言いたい言いたい……」とブツブツおっしゃっている。
すると、優星さんが、
「え? 山岸さん、胃が痛いんですか? 大丈夫ですか?」と笑いながら言っていた。
「違うわ!」
「ふふ」
──良いコンビだな
そして、優星さんは、営業の為、外回りに出た。
「行って来ます」
「行ってらっしゃい」
やっぱり、目配せをする。
山岸さんに、
「凄いなあ〜視線が絡み合うってこういうことを言うのかしらね〜もうハートが飛び交って、こうなってこうなってるのよね〜ホント気をつけないと、すぐにバレるからね」と身振り手振りで言われた。
「あっはい! 気をつけます」
とは言え、自然と目が合う。いや、目で追ってしまっているからなのかなと思った。
そして、いつも通り午前の仕事をこなして、お昼休み。同期の杏奈ちゃんと一緒に食堂でお弁当を食べる。
杏奈ちゃんには、山岸さんに話した後、優星さんのことが気になる! とまでは話していた。
なので、まさかお付き合いすることになるなんて……
「え──っ!」
案の定、大きな声で驚いている杏奈ちゃん。
「だよね〜」
「あ、ごめんね、大きな声出して」と謝っている。
「ううん、私が1番驚いてるもん」
「そうなの?」
「うん」
でも、杏奈ちゃんは、山岸さんと同じく、私がドS優星! と言いながら凄く気になっているのが、ひしひしと伝わっていたからと喜んでくれた。
「応援する! 3ヶ月と言わず1年でも何年でも、ずっと続きますように」と言ってくれた。
「ありがとう」
すると、今度は杏奈ちゃんから話があった。
気になる人が居る! と先日相談された。
それが私と同じ営業部の吉田なのだ。
初めて聞いた時は、本当に驚いて、私も大きな声を出してしまった。
吉田は、良い奴だとは思うが、見た目は、俗に言うイケメンではない。
どちらかと言うと小野田の方がイケメンだから、私は杏奈ちゃんとお似合いだと勝手に思っていたのだ。
「そうよね〜私なんてね」と言う杏奈ちゃん。
「違う違う!」と私が勝手に小野田だと思っていたことを話すと、
「えっ? そうなの?」と、いつものおっとりしている杏奈ちゃんに戻った。
「そっか、私も応援する! 何でも言って同じ部署だし協力するよ」と言うと、
「ありがとう〜嬉しい」と言う杏奈ちゃんは、ホントに恋する乙女という感じで同性から見ても可愛いのだ。
そして、この前早速メッセージのやり取りをしたいので、IDを聞いて欲しいと頼まれたのだ。
そう言えば、研修中は毎日会っていたから、メッセージのやり取りをしなくても毎日話せた。
なので、この前吉田に言おうとしたが、杏奈ちゃんに確認してからだと思って……
そして、夕方、小野田が帰って来たのが分かったが、吉田はまだ帰って来ていないようだ。
「小野田! お疲れ様〜」
「おお、高橋お疲れ〜」
「吉田は? もう帰って来る?」と聞くと、
「いつもならもう帰ってるから、もうすぐ帰って来るんじゃないか?」と。
「ありがとう」
そして、しばらくすると、上司と共に帰って来た吉田。
「お疲れ〜」と近づくと、
「おお、お疲れ」
「この前言ってた吉田のメッセのIDを知りたがってる人なんだけど……」と言うと、
「え? 誰、誰?」と聞くので、
「杏奈ちゃん」と小声で言うと、
「マジか? 喜んで!」とニコニコしながら、すぐに教えてくれた。
そして、それを見ていた小野田、
「誰だよ、そんなモノ好きは?」と笑っている。
「あ、誰にも言うなよ」と吉田が自ら「杏奈ちゃん」と言ってしまった。
「マジか、吉田! 良かったなあ」と笑っている小野田。
そして、私は早速杏奈ちゃんに、それを送った。
「楽しみだね〜吉田!」と、3人でワチャワチャしている時に、優星さんが外回りから帰って来た。
「あっ、お疲れ様です」と言うと、
「おお、お疲れ」とだけ言って、吉田と小野田を見て、スッと自分の席に座った。
「他の人には秘密ね!」と念を押すと、
「「分かった」」と2人も言った。
そして、席に戻って帰り支度をしていると、妙に視線を感じる。
すると、優星さんとバチッと目が合った。
「ん?」と聞くと、手に持っているスマホを見せたので、メッセージかなと自分のスマホを開いた。
〈何、他の男と浮気してんの〜?〉と届いていた。
「え?」
思わずニヤニヤしながら、優星さんの方を見て、
〈してないよ! ヤキモチ?〉と返信すると、
すぐに既読が付いた。
〈今日、俺んち集合!〉と返って来た。
「え? ふふ」
〈仕方ないなあ〜ちょっとだけ行く〉と送ると、チラッとこちらを見たので、目が合った。
2人だけの世界だと思っていた。
すると……隣りの席から山岸さんが、
「ホント、あなたたちを見てると楽しいわ」と腕組をしてニコニコしながらおっしゃった。
誰も見てないと思っていたので、驚いて、
「あっ、すみません」と言うと、
「良いのよ〜でも、私の方がヘナヘナになりそう」と笑っておられる。
「ふふふふ」
「まあ、仲良きことは良いことよ! じゃあ明日も頑張りましょう! お先に〜」と、
「お疲れ様でした」
そして、わざわざ
「桐生!」と言って、
「はい」と言う優星さんに、
「お先に〜」と意味深な言い方をしながら、優星さんをジッと見て帰って行かれた。
「何? お疲れっす」と言っている優星さん。
「ふふふふ」
おかしかった。
そして、さすがに会社から一緒に出るのは、マズイと思ったので、先に出て買い物でもしてから行くことにした。
優星さんにメッセージを送った。
〈最寄り駅の近くのスーパーで買い物してから行くね〉
〈分かった〉
──そうだ! お母さんにも連絡しなきゃ
と、〈ごめん。今日も晩ご飯要らないです〉と送っておいた。
そして、優星さんの最寄り駅までは来た。
そこで、私は思った。
──あれ? 優星さんのマンションは、最寄り駅からどっちだっけ?
そうだった! 前回はタクシーで来たのだから、駅は教えてもらったが、道順は分からない。
とりあえず、駅前のスーパーは見えたので、優星さんに、
〈マンションの住所教えて〉と送信しておいた。
偉そうに言っておいて、超絶方向音痴に、初めての道順など分かるわけがない。
すると、
「だと思った!」と言う声がした。
「え?」
「同じ電車に乗ってた!」と言われた。
「良かった〜」
「ハハッ、買い物してから行くって、大丈夫か? って思ってたんだよ」
「だよね〜ごめんね」
「ううん、よくココまで来られたな。行こう」と言って、手を引いてくれた。