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第20話 尋問

 手を振っているところを母に見られたようだ。

どうせゆっくり話そうと思っていたのだから良いのだが……


「お父さんは?」と聞くと、

「いつも通り9時には寝てるわよ」

──良かった

役所勤めの父は、いつも決まった時間に起きて決まった時間に寝る。


そして、私は、優星さんのことを話した。

この前、3人で呑みに行った時、また山岸さんが先に帰って……告白された時のことを詳しく話した。


私ったら、高校生の頃から母には何でも話していたようだ。母は、よく覚えているなと思った。


そして、

「彼、あの頃から私のことが好きだったようで……」と言うと、

「あら、まあ〜そうなの? だからわざと意地悪してたのね?」と、惚気に聞こえたようでニコニコしている。


「で、あの日告白されてお付き合いすることになりました」と報告した。


「うん、良かったじゃない! 久しぶりの彼氏だものね」

「うん」

「この人! って思える相手?」

「あ〜なんとなく、そうかも〜とは思ってる」

「そう! 良かったわね。優星さんも将来のこととか考えてるのかなあ?」と言われ、

「まだ始まったばかりだし……でも、それに近いことは言われたかな」と言うと、

「何? 同棲でもするの?」

「!!」

──鋭いな母……


「まだ私は早いと思ってるんだけどね」と言うと、

母は、「同棲、良いじゃない!」と言った。

「え?」と私は驚いた!


「だって、もしも万一ダメになっても戸籍に傷が付かないじゃない! お母さんは、お試しも有りだと思うわよ」と言った。


──同棲を勧める母ってどうよ!

と思ったが……


「まあ、問題はお父さんよね〜」と言った。

「でしょう? だから無理かなって」

「そうね〜彼が本気なら結婚前提! って挨拶に来れば良いんじゃない?」と言った。


「え? だから、まだそこまでは……」と言うと、「そうね、もう少しお付き合いして、やっぱり一緒に住みたいって思ったら、何度かウチに連れて来なさい! そのうちお父さんも慣れてくるでしょうから」と言った。


今までの彼氏は、短期間だったことも有り、そう言えば家の前までは来たが、母と挨拶した程度で、中に入ったことはない。


私自身どこかで本気ではなかったのかもと思った。

やはり、ずっと一緒に居たい! と思ったら堂々と父にも紹介出来るのだと思う。


──そうだ! 結婚するとなると、家族との関係も出て来るのだな

と思った。


私がもし優星さんと結婚したら、優輝さんは義理のお兄さんになり、佐伯さんは、義理のお姉さんになるのだと思うと少し複雑だった。


でも、結婚するということは、そういうことなのだ。



優星さんに、母に話したことをメッセージで伝えた。見られていたことも……


〈え? そうなの!〉

そして、

〈母は応援してくれそう〉と送った。

〈良かった、嬉しい! なら挨拶すれば良かったな〉と返って来た。


「えっ」

驚いたが、優星さんは本気なんだ! と嬉しかった。


〈じゃあまた、明日会社でね、おやすみなさい〉

〈うん、また明日な! おやすみ〉


いつしか当たり前のように、チュッとか、ぎゅっとハグしているスタンプを送り合うようになっている。

それに、ずっとニコニコしている自分が居る。

──あ〜私、今恋してるんだなあ〜


それから、お風呂に入って眠った。





──翌日──


「おはようございます」

「おはよう」「おはようございます」


いつもと変わらない朝だ。


山岸さんにも「おはようございます」と挨拶する。

「おはよう〜」

なぜか山岸さんが、隣りの席から私をジッと見ている。


「ん? どうかしましたか?」と聞くと、

「恋する乙女って、ホントに、キラキラ輝いてるわね〜」と腕組みをしながらおっしゃった。

「ふふ」

思わず昨日のことがバレているのかと思ってドキドキしてしまった。


そして、「おはようございます」と優星さんが来た。

「おはようございます」と挨拶すると、ニコッとしている。

「桐生! おはよう〜」と言う山岸さん。

「オ〜ッス!」と、はにかみながら挨拶している。


山岸さんが、「ハア〜男も恋をすると、こんな風にニヤニヤするものなのね」と私に言いながら、優星さんを凝視している。

「ふふ」

何とも言えない……


そして、私は、鞄から荷物を取り出そうとして、クラゲのキーホルダーを鍵ごと床に落としてしまった。


拾おうと手を伸ばすと、

「ん?」と言いながら、そこに居た小野田が拾ってくれた。

「あ、小野田おはよう!」と言うと、

「おはよう! コレ……」と言うので、

「ありがとう」と手を出すと、

「ん? コレどこかで……」と言う小野田、すると、山岸さんが

「コレって、水族館のよね?」とおっしゃった。


「あ〜はい」と言うと、

山岸さんは、ニヤッと笑った。


「可愛いわね〜このクラゲ。大抵人気なのは、イルカとかペンギンとかラッコなのに、どうしてクラゲなの?」と聞かれたので、

「クラゲ、可愛いじゃないですか! 癒されるし私好きなんです」と言うと、

「なるほど〜」とニヤニヤされている。


「俺もう1人、コレと同じのを持ってる人を知ってるんだけど……」と小野田に言われた。


──!! え? 優星さん! もう持ってることがバレてたの?

まあ、山岸さんは全部ご存知だから、バレても良いんだけど、小野田には付き合ってることを言ってないのに……


私は、慌てて優星さんの部屋の鍵がついたキーホルダーを手に取り隠した。


「そうなの? へ〜じゃあ、その人も水族館に行ったのかなあ?」と惚けると、小野田が私を凝視している。そして、優星さんの方を見た。


「!!」

──バレてるよ!

そして、小野田は、優星さんに、

「もしかして……桐生さんも水族館に行ったんですか?」と聞いた。


「おお……」

「あ、だからか、ハハッ」と笑っている。

──ん? それだけ?


この人は、天然なのか? それとも、本当に偶然だと思っているのか?


「あは……」

「あはは」

「ふふふふっ、ハハハハッ」と1番笑っているのは、山岸さんだ。


「で、小野田、何か用があったんじゃないの?」と聞くと、

「あっ、吉田のことだけど……」と、

杏奈ちゃんと盛り上がっているということを私にこっそり言おうとしたようだが、明らかにその声量は、山岸さんにも優星さんにも聞こえている。


やはり、小野田は、

イケメン! に認定する!


「うん、分かったから、今ココでその話は……」と言うと、

「あ、そうだよな。なら、高橋もメッセージでやり取りしようよ!」と言うので、私は、チラッと優星さんの方を見た。

下を向いて何やら営業に出る準備をしているようだ。


なので、

「あ、じゃあ4人でグループを作ろうよ」と提案した。

「うん、じゃあそうしよう」と、これからはグループで会話をすることにした。


そして、小野田が席に戻ると、

〈また、浮気したな 笑〉と、優星さんがわざと送って来た。


「フッ」と思わず笑うと、

「今度は、何? 夫婦喧嘩?」と言う山岸さん。

「夫婦って……」と笑ってしまった。

「こういう人が、案外、ヤキモチ妬きだからね〜」と、笑う山岸さん。

「ふふ」

その通りだと思った。


「行って来ま〜す」と営業に出る優星さん。

「行ってらっしゃ〜い」と笑顔で見送った。


今日は、また優輝さんの会社へ行くと言っていた。

──佐伯さんに会うんだな〜


「山岸さん、三山電機の佐伯さんって、おいくつかご存知ですか?」と聞くと、

「あ、確か私より1歳年下だから、26のはずよ」と言われた。

「そうなんですか?」

と、言うことは、優輝先輩より2歳年上か……

いつ結婚するのだろう? 

私は、また気になってしまった。


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