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第22話 呼び捨て

 部署に戻り、優星さんに目配せをして、山岸さんにだけは、

「ありがとうございました」とお礼を言った。

山岸さんは、ニコニコして、

「うん」とだけおっしゃった。

そして、何事もなかったかのように席に戻り、仕事を始めた。 


*****


定時後、優星さんの部屋へ行こうと、私が先に会社を出た。

電車に乗って、いつものように、最寄り駅のスーパーでカートを押していると、

「今日は、何にする?」と優星さんの声がした。

「あ、また、同じ電車に乗ってたの?」と聞くと、

「うん、花怜が誰かにナンパされないか、ヒヤヒヤしながら追って来た」と笑っている。

「ふふ」


一応、会社からは一緒に帰らない方が良いかと、このスーパーまでは我慢している。

ここまで来れば、とカートを押してくれる優星さん。


「何食べたい?」と聞くと、

「う〜ん、今日は唐揚げ食べたいな」と言うので、

「分かった」と、鶏肉を買う。


時々一緒に食べるならと、量が多い方がお買得なので、

「コレ買って冷凍しておくね。また違うお料理にも使えるから」と言うと、

「うん」と嬉しそうに笑っているので、

「ん?」と聞くと、

「新婚みたいで嬉しい!」と言う。

「ふふ」

そして、片手でカートを押し、片手は私と手を繋いでいる。


確かに、私も憧れていたシチュエーションだ。

今、自分がそれをしているなんて、とても嬉しいと思った。

そして、全部優星さんが支払ってくれた。

2人で優星さんの部屋へ帰り、唐揚げと具沢山のお味噌汁を作って食べた。


「ホントに花怜は、料理上手だよな」と褒めてくれる。

「嬉しい! 味の好みが同じなんだね」と言うと、

「あ〜それが1番大事だよな」と言った。


私は、過去の彼氏のことを思い出してしまった。部屋に行ってお料理を作った時、まだ一口も食べていないのに最初から調味料を掛ける人が居た。


「薄ければ掛けてね」と言ったのに、

「あ、コレは癖みたいなものだから、掛けないと無理なんだわ」と言って、お醤油をドバドバ掛けていた味覚音痴な人だった。

そんなだから、価値観が合わないと思ってすぐに別れてしまったのだ。

やはり、食の好みは大事だと思う。


優星さんとは、合うと思うと凄く嬉しい。

「私も大事だと思う!」と言うと、

「うん」とニコニコしている。


ココにドS優星は居ない。

好きの裏返しだったんだと、思うと幼稚過ぎて笑えるけど、24歳になった優星さんは、とても素敵な男性になっていると思う。


一緒に洗い物をしながら、ニコニコしていると、

「ん?」と微笑みながら聞いてくれる。

手を拭いて、優星さんを後ろからぎゅっと抱きしめた。


「え? 何? ちょっと待ってよ」と、食器を水で洗い流しながら言う。

そして、洗い終えると、

「花怜」と、前からぎゅっと抱きしめてくれる。


そして、熱い熱いキスを落とす……


──優星さんのキス、大好き、うっとりして

溺れる……


止まらない……

そして……またベッドへ


顔を合わせると、こうなってしまう。


ぎゅっと抱きしめて欲しいから……

そうされていると、私が安心するから。

それに、優星さんの彼女なんだ! と、思うと気持ちが安定するからかもしれない。

本能的に、お互いを求めてしまう。



そして、

ベッドの上でピロートークをする。

「ヤキモチって、いつになったら妬かなくなるのかなあ?」と聞くと、

「妬く人は、ずっと妬くんじゃないか?」と、

「そうなのかなあ?」

「別に妬くことが悪いことだとは思わないよ。その人のことがそれだけ大事で大好きな証拠だから」

「そっか……」

「もちろん、相手に危害を加えたりするのはいけないことだけど、ちょっと心がザワッとするような嫉妬なら、妬かれた方は嬉しいでしょ」

と言われ、優星さんに妬かれて嬉しかったし、私が妬いて確かにザワッとした時、優星さんは喜んでいた。


「そう言えば、吉田の話、誰だか分かったか?」と聞かれた。

ちょうど、会社から出ようとした時、吉田に呼び止められた。

同期の矢田やたと言う人だったようだ。でも、私は挨拶程度で話したこともないし興味がない。


「そっか」と微笑んでいる。

「心配してたの?」と聞くと、

「いや……」と言いながら笑っている。

「心配してたくせに〜!」と言うと、

「別に!」と言いながらぎゅっと抱きしめられる。

「私の方が心配してるよ」と言うと、

「なんでだよ! でも、もし何かあったら言って! 黙ったまま機嫌が悪いのは嫌だから」と笑う。

「確かに! お互いにね」と言った。

「うん。こうして又仲直りしような」と又チュッとする。


そして、私は、優星さんの胸板をサワサワする。

「フッ」と少し擽ったいようだ。


「どうして鍛えようと思ったの?」と聞くと、

「俺結構、細かったから、少し筋肉を付けたかった」と言った。

「ふ〜ん、そうなんだ。モテたでしょう?」と言うと、

「そうでもないよ、別にモテようと思って鍛えてないし」と言った。

「本当かなあ〜?」と疑いの眼差しで見る。


このビジュアルに、筋肉、ドSから優しい人に変われば、モテないはずがない!


「あ〜でももし次、花怜に会えたら少しは逞しくなった! って思われたかったな」と言った。

「え?」と驚いた。


ニヤッと笑って、

「思ったよ! 逞しくなった!」と言うと、

「だろ?」と嬉しそうに笑う。

そして、また、私は優星さんの胸をサワサワする。


「ウッ」と言っている。

「ふふ」

「俺も花怜の胸好き」と言った。

「胸だけ?」と聞く、

「全部に決まってるだろうが」と、照れた時は、またドSな言い方になる。


「ドS優星発動!」と言うと、

「花怜、ドSを付けたら、って言えてるぞ」と言われて、

「あ、ホントだ!」


『ドS』と口パクで言って、「優星」と言ってみた。

「ふふ」と喜んでいる。

『ドS』「優星」

「花怜〜!」と、何がそんなに嬉しいのか分からないが、呼び捨てにされたことに喜んでいるようだ。


「可愛い」と言うと、

「誰が可愛いんだよ!」と、またドS優星が発動する。

「ふふ」黙ってキスをしてあげる。

喜んでいるようだ。


そして、

「今日、泊まる?」と、聞く。

「え? う〜ん、どうしようかな〜」と言うと

「泊まって」と可愛いく言う。

「可愛い、優星」と揶揄うと、

「誰がだよ!」と又ドS優星に戻る。


「ふふ、よく、そんなにコロコロ変われるわね?」と言うと、恥ずかしそうにしている。

でも、根は優しいから、照れ臭くなると、ドS優星が発動するのだと理解した。

私たちは、もう大丈夫だ! と思った。


以前は、分からなかったから、怖かったんだ。今は、揶揄いたくなるくらいに愛おしい。


「優星〜!」と言いながら、キスをする。

やっぱり、嬉しそうだ。

時には甘えさせてあげたいし、甘えたいと思える相手。


「大好き」と思わず言っていた。

「俺も大好き」と言う時は、とても素直だ。


結局、母に連絡して、初めて泊まることにした。

下のコンビニで下着やスキンケアを買ってもらった。やっぱり便利だ。

そして、優星の服を借りた。


──優星の匂いに包まれて眠るなんて最高〜!

「え? 匂う?」

「ううん、良い匂い〜」と言うと、不思議な顔をしている。




朝、目覚めるとコーヒーを淹れてくれて、昨日買ったサンドウィッチと食べた。

「夜明けのコーヒーって、男女が一夜を共にして飲むコーヒーのこと?」と聞くと、

「そうだな」

「憧れてた夜明けのコーヒー!」と言うと

「ハハッって言いたいだけじゃん」と笑っている。

「そうだよ〜」

意味など知らなかった私が、こうして、優星と一夜を共にするようになった。


そして、このままずっと続けば良いなと思っている自分が居る。


「ココで後何杯一緒に、夜明けのコーヒーが飲めるかな〜」と、ポロッと口に出して言ってしまった。


すると、優星は、

「そんなに飲まないんじゃないか?」と言った。


「え?」


それは、もう一緒に居ないと言うこと? と悲しくなっていると、


「だって、一緒に住むなら、もっと広い部屋に住むから」と、あっけらかんと言われた。


「……」


「ん? だろ?」と言うので、

「もう!」と泣きそうになりながら、怒ると、

「え? なんで怒ってんの?」と言う。

「そんな言い方したら、もう別れるのかと思ったじゃない!」と言うと、

「なんで? 別れ話なんて1ミリもしてないのに」と笑われた。


「バカ! バカ優星!」と言うと、

「あ〜あ、勘違い花怜!」と言いながら、私を抱きしめる。


「もう!」

抱きしめて、

「離すわけないじゃん!」と言った。

チュッ


彼の全部を知るには、まだもう少し時間がかかりそうだ。


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