部署に戻り、優星さんに目配せをして、山岸さんにだけは、
「ありがとうございました」とお礼を言った。
山岸さんは、ニコニコして、
「うん」とだけおっしゃった。
そして、何事もなかったかのように席に戻り、仕事を始めた。
*****
定時後、優星さんの部屋へ行こうと、私が先に会社を出た。
電車に乗って、いつものように、最寄り駅のスーパーでカートを押していると、
「今日は、何にする?」と優星さんの声がした。
「あ、また、同じ電車に乗ってたの?」と聞くと、
「うん、花怜が誰かにナンパされないか、ヒヤヒヤしながら追って来た」と笑っている。
「ふふ」
一応、会社からは一緒に帰らない方が良いかと、このスーパーまでは我慢している。
ここまで来れば、とカートを押してくれる優星さん。
「何食べたい?」と聞くと、
「う〜ん、今日は唐揚げ食べたいな」と言うので、
「分かった」と、鶏肉を買う。
時々一緒に食べるならと、量が多い方がお買得なので、
「コレ買って冷凍しておくね。また違うお料理にも使えるから」と言うと、
「うん」と嬉しそうに笑っているので、
「ん?」と聞くと、
「新婚みたいで嬉しい!」と言う。
「ふふ」
そして、片手でカートを押し、片手は私と手を繋いでいる。
確かに、私も憧れていたシチュエーションだ。
今、自分がそれをしているなんて、とても嬉しいと思った。
そして、全部優星さんが支払ってくれた。
2人で優星さんの部屋へ帰り、唐揚げと具沢山のお味噌汁を作って食べた。
「ホントに花怜は、料理上手だよな」と褒めてくれる。
「嬉しい! 味の好みが同じなんだね」と言うと、
「あ〜それが1番大事だよな」と言った。
私は、過去の彼氏のことを思い出してしまった。部屋に行ってお料理を作った時、まだ一口も食べていないのに最初から調味料を掛ける人が居た。
「薄ければ掛けてね」と言ったのに、
「あ、コレは癖みたいなものだから、掛けないと無理なんだわ」と言って、お醤油をドバドバ掛けていた味覚音痴な人だった。
そんなだから、価値観が合わないと思ってすぐに別れてしまったのだ。
やはり、食の好みは大事だと思う。
優星さんとは、合うと思うと凄く嬉しい。
「私も大事だと思う!」と言うと、
「うん」とニコニコしている。
ココに
好きの裏返しだったんだと、思うと幼稚過ぎて笑えるけど、24歳になった優星さんは、とても素敵な男性になっていると思う。
一緒に洗い物をしながら、ニコニコしていると、
「ん?」と微笑みながら聞いてくれる。
手を拭いて、優星さんを後ろからぎゅっと抱きしめた。
「え? 何? ちょっと待ってよ」と、食器を水で洗い流しながら言う。
そして、洗い終えると、
「花怜」と、前からぎゅっと抱きしめてくれる。
そして、熱い熱いキスを落とす……
──優星さんのキス、大好き、うっとりして
溺れる……
止まらない……
そして……またベッドへ
顔を合わせると、こうなってしまう。
ぎゅっと抱きしめて欲しいから……
そうされていると、私が安心するから。
それに、優星さんの彼女なんだ! と、思うと気持ちが安定するからかもしれない。
本能的に、お互いを求めてしまう。
そして、
ベッドの上でピロートークをする。
「ヤキモチって、いつになったら妬かなくなるのかなあ?」と聞くと、
「妬く人は、ずっと妬くんじゃないか?」と、
「そうなのかなあ?」
「別に妬くことが悪いことだとは思わないよ。その人のことがそれだけ大事で大好きな証拠だから」
「そっか……」
「もちろん、相手に危害を加えたりするのはいけないことだけど、ちょっと心がザワッとするような嫉妬なら、妬かれた方は嬉しいでしょ」
と言われ、優星さんに妬かれて嬉しかったし、私が妬いて確かにザワッとした時、優星さんは喜んでいた。
「そう言えば、吉田の話、誰だか分かったか?」と聞かれた。
ちょうど、会社から出ようとした時、吉田に呼び止められた。
同期の
「そっか」と微笑んでいる。
「心配してたの?」と聞くと、
「いや……」と言いながら笑っている。
「心配してたくせに〜!」と言うと、
「別に!」と言いながらぎゅっと抱きしめられる。
「私の方が心配してるよ」と言うと、
「なんでだよ! でも、もし何かあったら言って! 黙ったまま機嫌が悪いのは嫌だから」と笑う。
「確かに! お互いにね」と言った。
「うん。こうして又仲直りしような」と又チュッとする。
そして、私は、優星さんの胸板をサワサワする。
「フッ」と少し擽ったいようだ。
「どうして鍛えようと思ったの?」と聞くと、
「俺結構、細かったから、少し筋肉を付けたかった」と言った。
「ふ〜ん、そうなんだ。モテたでしょう?」と言うと、
「そうでもないよ、別にモテようと思って鍛えてないし」と言った。
「本当かなあ〜?」と疑いの眼差しで見る。
このビジュアルに、筋肉、ドSから優しい人に変われば、モテないはずがない!
「あ〜でももし次、花怜に会えたら少しは逞しくなった! って思われたかったな」と言った。
「え?」と驚いた。
ニヤッと笑って、
「思ったよ! 逞しくなった!」と言うと、
「だろ?」と嬉しそうに笑う。
そして、また、私は優星さんの胸をサワサワする。
「ウッ」と言っている。
「ふふ」
「俺も花怜の胸好き」と言った。
「胸だけ?」と聞く、
「全部に決まってるだろうが」と、照れた時は、またドSな言い方になる。
「ドS優星発動!」と言うと、
「花怜、ドSを付けたら、
「あ、ホントだ!」
『ドS』と口パクで言って、「優星」と言ってみた。
「ふふ」と喜んでいる。
『ドS』「優星」
「花怜〜!」と、何がそんなに嬉しいのか分からないが、呼び捨てにされたことに喜んでいるようだ。
「可愛い」と言うと、
「誰が可愛いんだよ!」と、またドS優星が発動する。
「ふふ」黙ってキスをしてあげる。
喜んでいるようだ。
そして、
「今日、泊まる?」と、聞く。
「え? う〜ん、どうしようかな〜」と言うと
「泊まって」と可愛いく言う。
「可愛い、優星
「誰がだよ!」と又ドS優星に戻る。
「ふふ、よく、そんなにコロコロ変われるわね?」と言うと、恥ずかしそうにしている。
でも、根は優しいから、照れ臭くなると、ドS優星が発動するのだと理解した。
私たちは、もう大丈夫だ! と思った。
以前は、分からなかったから、怖かったんだ。今は、揶揄いたくなるくらいに愛おしい。
「優星〜!」と言いながら、キスをする。
やっぱり、嬉しそうだ。
時には甘えさせてあげたいし、甘えたいと思える相手。
「大好き」と思わず言っていた。
「俺も大好き」と言う時は、とても素直だ。
結局、母に連絡して、初めて泊まることにした。
下のコンビニで下着やスキンケアを買ってもらった。やっぱり便利だ。
そして、優星の服を借りた。
──優星の匂いに包まれて眠るなんて最高〜!
「え? 匂う?」
「ううん、良い匂い〜」と言うと、不思議な顔をしている。
朝、目覚めるとコーヒーを淹れてくれて、昨日買ったサンドウィッチと食べた。
「夜明けのコーヒーって、男女が一夜を共にして飲むコーヒーのこと?」と聞くと、
「そうだな」
「憧れてた夜明けのコーヒー!」と言うと
「ハハッ
「そうだよ〜」
意味など知らなかった私が、こうして、優星と一夜を共にするようになった。
そして、このままずっと続けば良いなと思っている自分が居る。
「ココで後何杯一緒に、夜明けのコーヒーが飲めるかな〜」と、ポロッと口に出して言ってしまった。
すると、優星は、
「そんなに飲まないんじゃないか?」と言った。
「え?」
それは、もう一緒に居ないと言うこと? と悲しくなっていると、
「だって、一緒に住むなら、もっと広い部屋に住むから」と、あっけらかんと言われた。
「……」
「ん? だろ?」と言うので、
「もう!」と泣きそうになりながら、怒ると、
「え? なんで怒ってんの?」と言う。
「そんな言い方したら、もう別れるのかと思ったじゃない!」と言うと、
「なんで? 別れ話なんて1ミリもしてないのに」と笑われた。
「バカ! バカ優星!」と言うと、
「あ〜あ、勘違い花怜!」と言いながら、私を抱きしめる。
「もう!」
抱きしめて、
「離すわけないじゃん!」と言った。
チュッ
彼の全部を知るには、まだもう少し時間がかかりそうだ。