いよいよ、今日は優星が初めて我が家に来る日だ。
朝からだと
しかし、父は朝からソワソワしているのが分かる。
手持ち無沙汰なのか、スマホを持ったり置いたり、テレビのチャンネルを変えたり……
そして、何か考え事をしているようだが、それをごまかす為に、新聞を広げている。
それが、可笑しいことに、逆さまに持って広げているのだ。
──!! そんな人、本当に居るんだ! ドラマの世界だと思ったわ
「フッ」
それを、
「お父さん! 反対!」と冷静につっこんでいる母も可笑しい。
「ふふふふ」
思わずそのやり取りに笑ってしまった。
「花怜、笑ってないで、貴女その格好で良いの?」と言う母
「そろそろ着替えようかな、その前にシャワー浴びるわ!」と言うと、
「ホントにマイペースね」と言われる。
だって、まだ朝の8時なんだもの。
朝食を食べ終えたところだし、休みの日ぐらいはゆっくりさせてよ、と思っていた。
優星との待ち合わせは、10時半。朝は、何やら用事があると言っていた。
「準備にそんなに時間かからないわよ」と言うと、
「ならお掃除手伝ってよ」と言う母。
「え、大丈夫よ、いつも通り綺麗だもの」と言うのに、大掃除? って思うほど、普段掃除しない場所まで掃除している母。
1人娘の彼氏が初めて家に来るとなると、こんなことになるものなのか? と驚いた。
それなら、突然連れて来た方が良かったのでは? とも思う。
まあ、ただ家に遊びに来るだけなら、こんなにも緊張しなかっただろうけど、
一応、『ご挨拶したい』と言ってくれたから……
思わず優星に、
〈おはよう! 朝から大掃除してるよ、母〉
〈えっ、お気になさらずに〉
〈でしょう? そう言ってるのに大変だわ〉
〈なんだか緊張して来た〉と返って来たので、
〈あ〜全然大丈夫よ! 父なんて新聞逆さまに読んでたよ! www 本当にあんな人居るんだ! 初めて見たわ www〉と送ると、
〈マジか……俺も何かやらかしそうだな〉と。
「皆んな緊張してるんだな」
〈じゃあ、ちょっとシャワー浴びてくるね〉
〈うん、じゃあまた後で〉
〈うん、チュッ〉
と返したが、緊張しているのか、親に会う前だからなのか、チュッとは返って来ないで、グッと親指のマークが返って来た。
「フッ」
そして、10時前、
「行って来ま〜す」と言うと、
「花怜! 帰って来る前に連絡してね」と母に言われた。
「は〜い!」
待ち合わせの駅に到着すると、柱に
──やっぱカッコイイ!
「おはよう!」と言うと、
「おはよう!」と返って来た。
が……
「ん?」
なんだか違和感を覚えた。
ジーッと顔を見つめると、ニコニコ笑っている。
「えっ?」
「ふふ〜」とニコニコしている。
「!!」
私は気づいた!
「優輝先輩?」
すると、
「花怜ちゃん凄いね」と言われた。
やっぱり! どうりで違和感を感じたわけだ。ホクロの位置が違うし、やはりよく見ると少し顔が違う。
「どうして?」と優輝先輩に聞くと、
「偶然ココで優星に会ったんだよ」と言う。
「優星は〜?」とキョロキョロしながら言うと、
「あっちに居るよ、今ちょっと道を聞かれてたから」と言われて、そちらの方を向くと、優星がこちらに向かって歩いて来た。
「ふふ、花怜ちゃん、
「あ、はい! そう呼んでって……」と照れてしまった。
すると、
「何の話?」と優星が戻って来た。
「おはよう〜」と言うと、
「おお、おはよう!」といつもの優星だ。
優輝先輩が私を試したことを話された。
「ハハッ、そっか……」と私が間違えなかったことに喜んでいる優星。
「じゃあ、そろそろ俺は行くわ。又ね花怜ちゃん!」
「はい、また〜」
「頑張れよ!」と優星のお尻を叩いている優輝先輩。
「おお!」と言っている優星。
──話したのかなあ? 優輝先輩に……
そして、手を振って別れた。
すると優星が、
「凄いじゃん! 間違えなかったんだ」とニコニコしながら言うので、
「間違えないよ! すぐに分かったよ」と言うと、
「そっか」と嬉しそうだ。
「うん、似てるけど、やっぱりずっと一緒に居ると違うって分かるよ」と言うと、
「そっか」とニコニコしている。
黒のスーツをバッチリ着こなしている優星の姿を見て、私は、
「黒のスーツ、カッコイイね! 似合ってる」と言うと、
「そうか?」と、照れているようだ。
「うん、逆ナンされなかった?」と聞くと、
「あ〜〜」と言って笑っている。
「え? 嘘! マジ? なんか道を聞かれたって優輝先輩が言ってたけど……」と言うと、
「うん、道は聞かれたんだけど、『お兄さん、カッコイイから声を掛けました』って言われた」とニヤニヤ笑っている。
──なんだ! その締まりのない顔は!
「ふ〜ん、そうなんだ! で案内してたの?」と聞くと、
「うん、改札口までな! そしたら、そう言われた」とニヤニヤしている。
──やっぱナンパじゃん!
あ〜〜モテる彼氏って、結構辛いんだよと思っていた。自分に自信がないから、そう思ってしまうのだけど……自分の彼氏なんだと分かっていても、不安しかないんだよ、女って……
「綺麗な人だったの?」と気になって聞いていた。
すると、
「うん! 可愛いお婆ちゃんだった」と言われた。
──え?
「あ……そう、なんだ」と言うと、凄く笑っている。
──やられた! てっきり若くて綺麗な女性だと思い込んでしまっていた。
「ハハッ、もしかして、若くて綺麗な女性だと思った?」と聞かれたので、
「そんなこと……」
「思ったんだ! ハハッ」と笑われた。
──悔しい
私が拗ねていると、
「花怜も今日のワンピース似合ってて可愛い」と褒めてくれた。
「……ありがとう」
今日は、張り切って、くすみピンクのワンピースにしてみたのに……なんだか敗北感。
「ん? どうした?」と言うので、
「何でもない……」と言うと、
「あ、ご両親、
「え? 朝から並んで買って来てくれたの?」
「うん」とニッコリしている。
──だから、朝は用事があるって……
福餡屋さんの粒あん大福は、すぐに売り切れてしまうので、いつも朝早くから行列が出来ている。
「そうだったんだ! うわ〜喜ぶわ〜ありがとう」と言うと、嬉しそうだ。
そして、駅のロッカーに預けた。
「じゃあ、行こうか?」と言う優星。
「今日は、何処行く?」と聞くと、
「横浜まで行こうか?」と言う優星。
「うん」
私は、一気に笑顔になっていた。
そして、スッとさりげなく手を繋いでくれる。
これなら、恋人に見えるよね? 私彼女だよね?
と、なぜか私は見知らぬ人たちに、恋人だと認めて欲しがっているようだ。
思わず恋人繋ぎで繋いだ手を見て、ニッコリ笑って隣りから優星の顔を見上げる。
「ん?」と聞かれる。
「ううん」と言うと、
「何?」とコンと自分の肩を私の肩に当てる。
「ふふ」
ただこれだけの事なのに、嬉しいのだ。
──あ〜〜今、絶対私の方が優星のこと、好きだよな〜
でも、優星は、手をぎゅっぎゅっとしてくれた。
「ふふ」
なので、私もぎゅっぎゅっと返すと、
「それで全力?」と聞く。
「うん! だって握力20しかないもん」と言うと、
「20? 子どもか」とビックリしている。
「え? 優星は?」と聞くと、
「47か8だったかなあ〜」と言う。
「何それ? 怪力」と言うと、また、ぎゅっーっと握るので、
「あっ折れる!」と言うと、
「ホントだよな、折れそうだ」と笑っている。
──笑ってる場合ではない、まあ折れはしないだろうけど……
「大事に扱わないとな」とボソッと言った。
驚いて、また、顔を見上げた。
「ん? ホントに」と、妙に優しい。
熱でもあるのかと、額に手をやると、
「ハハッ熱なんかないわ!」と笑っている。
「そっか……」
「俺さあ」
「うん」
「そんなに怖かったか?」と聞かれたので、
「うん、最初は何考えてるのか、分からなかったから」と言うと、
結構、初めて会った人には、
『怒ってます?』と聞かれることも、しばしばだったのだと。
「そっか、私だけじゃなかったんだ!」と笑いながら言うと、
「お前な!」と笑っている。
「ふふ」と笑うと、
「でも、花怜に分かってもらえて良かった」と言った。
「うん! もう全然怖くないよ」と言うと、
「そっか……」とニコニコしている。
──心配してたんだね、寧ろ今は私の方が大好きなのに……