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第3話

「参ったな。やっぱり救急車か……?」


 そう呟いたとき、誠司の腕の中でピクリと動いた悠真が微かに目を開ける。


「あ、相川さん! 大丈夫? わかる?」


「あん、た、誰……」


 カスカスの声でそう問われた。とりあえず意識が戻ってよかったと胸をなで下ろし、ピーチのジュースを飲ませる。


「あっまい……なに、これ。僕、どうなったの……?」


 しばらくしてやっと意識がしっかりしてきて自らその場所に座れるまでになった。


「ああ、よかった……死んでるのかと思って驚いたよ」


「あんた誰? 勝手に部屋に入ってきて、強盗かなにか?」


「いやいや、俺はこのマンションの管理人だってば。入居のときにいろいろ説明したでしょうが」


「はあ、管理人がなんで勝手に入ってくるわけ? このマンションってそういうルールでもあるの?」


 目が覚めてホッとしたのもつかの間、なぜか誠司に突っかかってくる悠真に若干のいらつきを感じる。


(この人、自分の状況があんまりわかってないんだな……)


 そう感じた誠司は状況の説明をする。すると悠真はなんとか納得したようだった。彼はずっと仕事をしていて、終わった途端に眠ってしまったという。部屋の荒れ方もそうだが、扉の前に山積みになっている荷物がこれ以上増えると、他の住人の迷惑になることも告げた。


「ああ、なら全部部屋に放り込んでおいてください」


「放り込んでって君、この部屋のどこにあの量の箱が入るっていうのさ」


 外で見た箱の山は完全に扉を覆い隠すほどあるのだ。それにこの部屋もそうとうな荷物がある。とても置く場所など確保できない。


「え~じゃあどうすればい……」


「よし、わかった! もうここまで関わったし、俺がなんとかしよう!」


 潔癖で人の世話を焼くのが趣味のような誠司は、その場で立ち上がって胸の前で拳を握った。こんな部屋を見せられて黙っていられないのが誠司の性分だ。


「は? なんとかって……あんたになにができるわけ? いいから、部屋に段ボールを……」


 悠真が最後まで言い終わらないうちに、誠司は腕まくりを始めて当たりを見回した。ゴミとそれ以外を分けて整理整頓すればちゃんと綺麗になるはずだ、とすでに頭の中でシミュレーションを行っていた。足元で顔色の悪い悠真をそっちのけで、誠司はやる気満々である。


 さっさと部屋を出て行き、管理室から続いている自分の部屋からストックのゴミ袋とゴム手袋、軍手、マスク、ぞうきんなど、部屋の掃除に必要なものを一式そろえて再び悠真の部屋に戻ってきた。


「あんた、なんだよそれ……」


「なにって、こんな部屋にいたら体調も悪くなると思うよ。とにかく掃除しないと!」


「は? なんであんたが……えっ、ちょっと、なにして……」


 悠真の言葉など無視してとにかく目の前のゴミの回収から始めた。あからさまにゴミであるペットボトルやおかしの袋などを拾って袋へ入れていく。こんなところで誠司の潔癖と世話好きな性格が出たのであった。

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