――ぽちゃん。
夜明け前の森を思わせるこの場所には、数多のステンドグラスで出来たランプが、木々の枝にかけられていた。光は、ない。
止まり木に掴まる鳥たちが森の海を見下ろす中。
突如怒号が響き渡る。この場所へ、いなければならない物語の主役の名を呼んで。
「旭はまだ来ないのか!?」
腕を組み、苛立つ姿に、周囲はヒソヒソ声で話始める。
機嫌が悪い時は誰も彼もが距離を取って、周囲から人がいなくなるほどだ。そのため、学園長補佐を「まさに神だっ……!」と崇める人までいるくらいである。
果たして、この空気に耐えられた者がいただろうか。否いないだろう。学園長を怒らせて、平然としていられるのはよほどの“変人”だ。
「旭って、
「そうそう。笑顔がこわいっていうあの、ね」
「見ろよ。学園長の顔が引きつってるぞ……こんな顔にさせるのは、旭先輩と蒼馬先輩だけだよなあ。オレの知る限りでは」
年若い学園長の額には青筋が浮かんでいる。その隣で、優雅に微笑んでいる青年がもうひとり。
「来ないですねえ。相変わらず面白い事してくれますよねぇ彼」
「お前、絶対楽しんでるだろう。はあ…………胃が痛い」
「胃薬調合しましょうか? 私が」
「断わる」
「あらあら。あ、丁度手紙が届いたようですよ。ふむふむ」
何も無い空間に手を伸ばし触れた瞬間、手紙が現れる。
「それで、なんて書いてあるんだ」
「“旭たちに振り回されて大変だとは思います。思いますが、
「…………返信はいい。あいつに最速で手紙出せ」
「はいはい。では、お願いしますね」
ついに限界点を超えたらしい、
盟約式が始まるまで、残りあと一時間。