「はぁーーっ、行ってしまわれたーー……」
三狂獣がマモリ様の後ろ姿を見つめながら、名残惜しそうにため息をつきました。
「まったく、てめーらのせいで俺達の楽しい癒しの時間が台無しだぜ!! バカヤローー!!」
金髪のカブランは、総長の頭を小突きました。
「いてぇーー!!」
「なにがいてーだ。お前達もピザにされれば良かったんだ」
「あの、さっきのピザの話は本当なんですか?」
副総長が標準語でいいました。
やれば出来るみたいです。
「お前達は子供だから手加減してもらえたのだろうな」
「そう言えば子猫ちゃんを撫でるようにと言っていました」
副総長は、総長の顔を見ながら言いました。
二人とも顔色が急に悪くなります。
「ひっひっひっ、それは本当の事だろうな。まあ、これに懲りたら幸魂女学園には手を出さないことだな。あの四人を怒らせればガンネスファミリーは敵になり全力を出すぜ。ひひひっ」
「おいっ!! カブランいつまでしゃべっているんだー!! 行くぜ!!」
赤髪のアスランと銀髪のクートが既に歩きはじめています。
三狂獣は、来た道を戻っていきます。
そこにマモリ様の姿はありません。
三人の背中は少しさみしそうです。
「うわあっ!!!!」
突然、軽音部の部室の引き戸が全力で開けられて、バンッと、大きな音がしました。そのため、部室の全員が驚いて大声を出しています
ちーちゃんが三十センチくらい飛び上がり手をバタバタさせています。
まるで本物のミナミ血吸いコウモリのようです。かわいいですね。
「あなた達、いったい何をしたのですか??」
「ええー、なにか私達、生徒会長にそんな剣幕で怒られるようなことをしましたでしょうか?」
ユウキは、生徒会長が開け放した引き戸を閉じながら聞きました。
「ち、違います。怒っているわけではありません。驚いているのです。昨日から、幸魂工業高校の男子生徒の行儀が良くなったという報告がありました。幸魂女学園の生徒を見ると会釈をしてくると言っていました。いったい何があったのですか?」
「ああー、そんなこと。気にしないで下さい。それより、私達はいま、たいへん重要なことを検証中です。邪魔をしないで下さい。ユウキちゃん! はやく続きを!」
ノブコが三つ並んでいるパソコンの中の、ユウキ用のパソコンの席の後ろで言いました。
横にはエイリがいます。そして奈々とちーちゃんの二人も待ち遠しそうに待ち構えています。
四人はユウキが探した、カッパの手がかりを確認中だったようです。
「そ、そんなこと……」
生徒会長は驚きを隠せないようですが、何がそんなに重要なのかと興味津々です。
「さっきのが、テレビ番組の映像です。そして、これがチューバーの動画です」
ユウキが席に座るとマウスを操作して動画を出しました。
画面には「最恐心霊スポット、に○潟県シベリア村」となっています。
「最強心霊スポットォォォォーーーー!!!!」
生徒会長が大声を出しました。
「しぃーーーー!!」
エイリとノブコ、奈々とちーちゃんが口に人差し指を当てて生徒会長をにらみました。
ものすごく沢山眉間にしわをよせて、最高に口をとがらせています。
「だだ、だって、あなた達は『オカルト研究部じゃない』って言っていたじゃありませんかー。もう完全にオカルト研究部になっていますよーー!!」
「あのー、うるさくするなら、部外者は生徒会室へ帰ってくださるかしら」
ノブコが言いました。
「ハウスッ!!」
エイリが指を扉の方に向けて言いました。
「ハッ、ハウスって、私は犬ではありませんことよ!」
「静かにして下さい。出来ないなら出ていって下さい!!」
優しい顔をした奈々も、我慢出来なかったのか眉間にしわを寄せて言いました。
「わ、わかりました。静かにしますから、邪険にしないで下さい」
生徒会長は自分の口にチャックをする真似をしました。
それを見て、エイリとノブコ、奈々とちーちゃんが一回うなずいて、ユウキのモニターに集中します。
画面は木々の間に顔を出したカブラのような屋根の建物を映します。
「ここが、シベリア村です。シベリアをテーマにしたテーマパークですが、十年ほどで閉園して廃墟になりました。ここでは、チューバーが実際に行方不明になっています」
動画は明るい時間帯の廃墟の全体像を紹介します。
そして画面が夜中の映像に切り替わりました。
「あたりはすっかり真っ暗です。ふふっ!! こわいですねえぇ!! ここが問題の宿泊施設です。行方不明者はここの配信途中で消えました」
真っ暗な映像の中で、ライトに照らされた白い建物のドアが浮かび上がりました。
パチンという音と共に部屋の照明が消えました。
「ひっ!!」
モニターを見ていた五人が小さく悲鳴を上げました。
「あーーっ、気にしないで下さい。雰囲気、雰囲気」
そういうとユウキは窓のカーテンを閉めます。
ライトもユウキが消したようです。
部屋の中が、薄暗くなります。
動画は、ライトのあるところ以外は真っ暗です。
そして、部屋も暗くなります。
「うわあ、気持ち悪い。なんでこんな所に布団が一杯詰まっているんだーー」
太った男が言いました。
「すげーー、天井近くまであります」
もう一人の細い男が言いました。
建物に入ってすぐの部屋の中に、大量の布団が入っています。
ライトは部屋の中の布団から再び廊下を照らし出します。
大きな建物の廊下を歩くと、どんどん入り口から遠ざかります。
遠ざかるほど、二人は呼吸が荒くなり、声が小さくなります。
何かを感じているのでしょうか。
「見てください!!」
「うおっ!! なな、なんであんな所にイスがあるんだよーー!!」
階段の踊り場に、まるでこっちを見下ろすようにイスが置いてあります。
真っ暗な中に、イスだけがライトに照らし出されました。
浮かび上がるイスにはなにものかの気配が感じられるのでしょうか、しばらくライトはその場を写し続けます。
――ガターーーン!!!!
階段の上から大きな音がします。
「ひっ!!」
画面の中の男達が飛び上がり悲鳴を上げました。
そして、こっちの五人も少し体が飛び上がりました。
「な、なにがあった? あんな音がするなんて、普通じゃねえぞ!!」
太った男のライトが、上下左右に小刻みに動きます。
揺れながら階段の上を照らします。
「どどど、どう、どうしますか?」
細い男が聞きます。
「こ、ここ、このままでは帰れないだろう」
太った男が言った瞬間二人のライトが消えました。
あたりが真っ暗闇になります。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! おかしい!! おかしいぃぃぃーーーー!!!! 入る前に充電は確認したーー!!!! 満タンだったはずだーー!!!!」
「ふふ、二人とも同時は考えられませーーん!!!!」
パン、パンという音が聞こえます。
二人がライトを叩いているようですね。
「おおっ!!!! ついた!!!!」
ライトが付きました。
「きゃっ!!!!」
その瞬間、エイリとノブコ、奈々とちーちゃん、生徒会長の声が上がりました。
「かかかか、影、影が……女の人、髪の長い女の人」
五人がモニターを指さします。
指の先は、こっちを向いているイスを指さしています。
私にも一瞬見えました。何かを訴えているようです。こっわっ!!
でも、動画の配信者は気がついていないようです。
「あーそれは、関係ないので無視して下さい」
ユウキは平然と言いました。
どうやら、あの女性の影はカッパとは関係ないようです。
いやいや、ユウキさん、普通に心霊現象ですよ。
恐くないのでしょうか?