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0048 恐怖シベリア村

「い、行こう」


太った男と細い男は、意を決したように階段をのぼり始めました。

こっちを向いている踊り場のイスからは、出来るだけ遠くになるようによけながら先へ進みます。

階段を上り終わると、真っ暗な通路に出ました。

長い通路は両側に客室のある廊下のようです。

客室の多くは扉が閉じていて外からの光がまったく入りません。


「宿泊施設だな」


「ですね」


太った男が言うとそれに細い男が答えました。


「な、なに?」


「うえ??」


カメラマンから指示があったみたいです。

もう一階上に行けと指示でもあったのでしょうか。

ライトが上の階を照らします。

ライトは相変わらず小刻みに揺れています。


「はーーっ、はーーっ、行くか」


太った男の呼吸が深く大きくなります。

息苦しいのでしょうか

壁に沢山の手形が付いています。誰かのいたずらでしょうか。

せっかくのチャンスなのに手形には無反応です。

きっとそれ以上に気になるものがあるのかも知れません。

二人が足を踏みしめると、バリッバリッと音がします。

遠くの方で、ミシミシという音が聞こえてきます。


「やはり客室だ」


ライトに照らし出された長い廊下の両横はいくつも扉があります。

そして、二人の男のライトは一点で止まりました。

その階の一番奥で固定されました。


「はーーっ、はーーっ、あそこだ! はーーっ」


「はーーっ、はーーっ、あそこですね! はーーっ、はーーっ」


二人が言いました。

一番奥の部屋に何かを感じているようです。

二人は、誘い込まれるように奥の部屋にむかいます。


「誰もいない」

「いますよーー……はっ」


太った男が言った後、女性の声がしました。


「うわあああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


太った男と細い男ともう一人の男と女性の悲鳴が聞こえます。


「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーーー!!!!」


それを見ていた、オカルト研究部の女性陣も悲鳴を上げました。

突き当たりの部屋は、まるでお姫様の部屋の様に広くて美しい装飾が施されています。

大きな窓の前に何故か赤いイスが置いてあります。


「あ、あそこ!」


ノブコが言います。


「これですか!?」


ユウキが動画を止めて少し映像を戻しました。

大きな窓が四つあり、その一番右端の窓の右のカーテンが不自然に膨らんでいます。

まるで、人が隠れているようです。

でも、もしそこに人がいれば足は見えるはずです。

透明な人が隠れているのか、たまたまそういうふうに見えるのか、どちらでしょう。


「そ、そうですわ」


エイリが言います。


「ほ、本当だ。全く気が付きませんでした」


奈々とちーちゃんと生徒会長が言います。


「うふふ、良く気がつきましたねぇ。まだ誰も気がついていませんよ」


ユウキはもう一度再生をしますが、普通の再生では全く気が付きません。

ネットでもまだ誰も気がついていないと言うことなのでしょうか。

エイリとノブコはマモリ様の紋章があるので、他の人より動体視力が良いのかも知れませんね。


「ここここここ、こえぇ、声がきききき、聞こえたーー!!」


太った男がゼーゼー言いながら絞り出すように言いました。

動画の中の男達は、カーテンには気がついていません。


「あ、あ、あの、イス、気持ち悪いなぁ」


窓ぎわにポツンと置かれた赤いイスは不気味に窓の外を見ています。


「気持ち悪いですね」


細い男が同意します。


「お、お前、座って見ろ」


「ででで、出来ません。出来ません」


細い男は全力で拒否します。


「しかたがねーなあ。お、俺が座るか」


太った男はライトに照らされた赤いイスにむかいます。

馬鹿なのでしょうか。

太った男は無造作にイスに座ります。


「うわあぁ!」


男の声がしました。


「ななな、何だよ!!」


太った男が、イスからジャンプするように立ち上がり画面に向って言いました。

声の主はカメラマンだったようです。


「あの、そのイスに座った人は、全員呪われて死んだと噂されています」


「な、なにぃーー!!!! な、なな、なんで座る前に言わねーーんだよ!!」


「まさか、座る度胸が有るとは思いませんでしたー」


「他に何か、隠していることはありませんか」


細い男が画面に向って聞きました。


「あとは、黒い大きな仏壇を見てしまったら死ぬと」


「ななな、何だってーーーー!!!!」


シベリア村なのに、なんで仏壇が有るのでしょうか。

意味がわかりません。

あるわけ無いですよね。


「そ、そんなの、仏壇の無いところを行けばいいじゃねえか」


「それが、神出鬼没で何処に有るのかわからないそうです」


「はあぁーーーーっ!!」


太った男と細い男は、血走った目で画面に近づきます。

目の下が真っ黒になっていて、少しやつれているように見えます。


「はあぁっ!! こんどは地下に行けだとーー!!!!」


また、カメラマンから指示が有ったみたいです。

二人は文句を言いながらも、地下に向います。




「な、なんだ、こりゃあ。ビチャビチャじゃねえか」


地下の廊下は全面水浸しです。

奥に入ると、もう一段下へ進む階段が有り、その先はプールの様に部屋の中に水が溜まっています。


「こ、恐ぇーー!!」


地下のプールは、真っ暗闇です。

ライトに照らされた所だけが白く浮かび上がります。

これは、カッパがいてもおかしく有りません。

ザパーーッと出て来たら、腰が抜けるほど驚きそうです。

オカルト研究部員と生徒会長が、大きな音を立ててツバを飲み込みます。


「おい、用意がいいなあ」


太った男が苦笑いであきれています。

胴長が人数分用意されています。

三人はそれを着けると一歩一歩水の中に入っていきました。

恐る恐る水に入って行く太った男と細い男の後ろ姿を画面は追いかけます。


「水は生温かいなあ、そして部屋はやたら広いなあ……」


太った男が言うと、部屋の中を左から右へライトが移動します。

暗闇の中を移動する光は、水面をキラキラ光らせて幻想的な美しさです。


「うわあああああああぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


不意に男達が悲鳴を上げました。


「きゃっ!!!!」


オカルト研究部員と生徒会長が悲鳴を上げて少し飛び上がりました。

画面の中では男達がザブザブ音を立てて水の中を移動します。

走ろうとしている様ですが、うまく走れないようです。


「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」


悲鳴は断末魔のような声になります。

そして、カメラが水没したのか画面がノイズだけになりました。


「この人達、いまだに行方不明だそうです。生配信はこの画面で終わったということです」


ユウキが言いました。


「ええっ!?」


「おわかり、いただけましたか??」


ユウキが顔に影を落として全員の顔を右から左へ見ていきます。

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