「アスラーーン!! たたた、たいへんでーーす!!!!」
「おおっ!! マモリ様!!」
アスランはマモリ様の声を聞くとうれしそうになり、マモリ様を見つめます。
しばらくマモリ様の顔を鑑賞した後、いまいましそうに地べたに転がる北川商業の番長に視線を落としました。
それは、無言で「これがたいへんの原因です」と言っているようです。
「相変わらず美しい」
ヒデキとケンイチがマモリ様の顔を見つめてつぶやきました。
「なんですか、これは?」
「これは、川北商業という高校の番長です」
アスランは再びマモリ様の顔を見て答えました。
「高校生ですか。可哀想に撃たれていますね。まだ子供の高校生を容赦無く撃つとは、撃った奴は地獄送りですね」
「えっ!?」
アスランは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、口がアングリ開いて鼻水がつるんと出て来ました。
そう言えば、その子を撃ったのはアスランですね。
「まあ、ついでです。このままでは、可哀想なので治してあげましょうか」
マモリ様は何の動作もしていませんが、川北商業の番長の体がうっすら輝くと、後頭部がなおっていきます。
「えーーっ!!!! す、すごい!!」
それを見て、まわりにいた者が声を出しました。
出さなかったのは、それを知っている三狂獣だけです。
中でも、ひときわ大きな声を出したのはリリイでした。
「な、なんですかー! こ、この魔法はー! 死者の蘇生なんて魔法は無いはずですぅ」
「あー、これは死者の蘇生ではありません。ただの治癒魔法です」
「えーーっ!! た、ただの治癒って、こんなことが出来るなんて聞いた事がありませーーん」
「うふふ、そんなことはありません。僕が魔人と戦っていたときは、一万人の魔人軍に対して人間は十倍の十万人で戦いました。それでも勝てません。ほぼ全滅です。ケガをした人間は、いつも僕が治癒で治していました。だから僕は数億回くらい治癒魔法を使いました。誰でもその位治癒を使えば出来る様になりますよ」
「えええっ!! す、数億回ーー!!」
リリイの驚き方が尋常ではありません。
大きな魔力を持つリリイでも驚くような事なのですよね。きっと。
「そんなことより、何がたいへんなのですか? まさか龍人でも攻めてきたのですか? あいつらはけっこう強いですから気を付けないと」
「あの、マモリ様。まさか龍人と戦った事があるのですかぁ?」
「ふふふ、四人と戦った事があります」
「えっ、四回もぉー」
「いいえ、一回です。人間の村を襲ってきたので四対一で戦いました。三人は殺しましたが、一人逃げられました。逃げた一人はなかなか手強かったです」
「あ、あの、龍人は、一人一人が魔王と同じくらい強いと言われていましたけどぉー」
「あー、確かに」
「……!!????」
リリイは何かを察したようです。
私にもわかりました。
マモリ様は魔王とも、きっと戦っています。
しかも、あの言い方なら魔王より強いですね。
「あっ、あのー、たいへんなのは、この川北商業の番長が撃たれた事です。それだけです。龍人は来ていません。見た事もありません」
カブランが、たまらず言いました。
「そうですか。おかしいと思いました。龍人は龍の進化形態です。世界に数匹しかいないはずなので驚きました」
その数匹の内の三匹を殺したのですね。
恐い人です。
「ぐっ!! ぐわああああぁぁぁーー!!!!」
川北商業の番長が上半身を起こして叫びました。
「おっ、気がついたようですね」
マモリ様が優しそうな目で見つめました。
「ろ、六文銭! 六文銭!! って、そんなもん持ってーねーわ!! んっ、ここはどこだ」
川北商業の番長がさけびました。
まだ、寝ぼけていますね。
でも良かったですね。六文銭は三途の川の渡し賃です。
渡したら成仏していましたよ。
「ここは、ガンネスファミリーのアジトだ」
カブランが言いました。
アスランは、マモリ様が言った地獄送りに怯えてしまって、正気では無いようです。
「ちっ、マフィアのアジトかよ!!」
その言葉を聞くと、客人のシマズヒサシか鋭い目つきになりました。
カブランとクートも同じような目つきになりました。
アスランだけはふぬけています。放っておきましょう。
「おめーさん、こんな所に連れてこられて恐怖とかは感じねーのですかい?」
ヒサシがなるべく感情を殺して聞きました。
「ぺっ! 生まれてこのかた、恐怖なんて感じた事はねえ。ひひひ、可哀想と感じた事もねえ」
番長はツバを吐き捨てるとそう言って、回りの恐い顔をした男達の顔をニヤニヤしながら見渡しました。
「こいつは……」
ヒサシが顔を左右に振りました。
「マモリ様。こいつは、おそらく赤ん坊でも容赦無く殺すような、救いようのねえタイプの人間だ」
クートが、しかめっつらでマモリ様を見つめました。
「うん、殺し屋に多いタイプの人間だね。でもこの子は、ルールも守れそうにも無いから、殺し屋も無理だね。でも、子供だからねぇ」
「あ、あの……」
幸魂工業高校の総長、ヒデキが言いかけました。
「てめー!! 誰に話しかけているんだ!! てめーごときが勝手にマモリ様に声をかけるんじゃねえ!!」
カブランがヒデキに怒りを爆発させます。
「ひっ!」
ヒデキがカブランのあまりの剣幕に小さく悲鳴を上げました。
「こらこら、カブラン!! 僕はそんなに偉くはありません。なんですか? 言ってみてください」
「は、はい。こいつは、何度かダブっています。既に成人です」
「ひゃぁあーーはっはっ!! それがどうしたー!! おいっ!! マモリ!! てめーは可愛い顔しているなあ! 他の女と同じでぶん殴りながら犯してやるぜ!! ひひひひ、ひゃあぁはっはっーー!!」
「そうですか。そんなにひどいことをしてきたのですか。残念ですが、仕方が無いですね。あなたには地獄でも見てきてもらいましょうか。気に入ってもらえると良いのですが」
「ぺっ! 馬鹿が何を言っていやあがる!!」
「うふふ、あなたみたいな元気な人が来れば、地獄の亡者も大喜びすることでしょう。開け! 獄門!!」
マモリ様が手を上げて言いました。
「うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!!」
「やめろーー!! やめてーー!!」
「だじげでーー!! ひいぃぃぃーー!!」
マモリ様の手の上で黒い穴が開きます。
以前の穴より大きくなっていますね。
穴が大きいためか、地獄から漏れてくる声が沢山聞こえてきます。
びゅっびゅっと穴から、大量の血が噴き出してきます。
「ヒデキ、ケンイチ、ヒサシさん、少し穴の中をのぞいて見ますか。そこが地獄と呼ばれているところです」
三人が穴の中を恐る恐るのぞき込みました。
「うわあああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
三人が声を上げると尻もちをつきました。
三人とも、穴の中から吹き出す血で全身が真っ赤になっています。
人が頭を目の前で吹き飛ばされても何とか耐えた三人が、悲鳴を上げて尻もちをつくとは、私はのぞく気にもなりません。
「さあ、獄炎。今回は一人だけです。一番連れて行くのにふさわしい人を連れて行ってください」
真っ黒な穴から出て来た炎が、赤い血管のような模様を浮き出させ、手の形になります。
その手がアスランの方に伸びていきます。
「うわあああああああぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!! ちちちちちち、ちち、違う、ちがあぁぁあーーーうぅぅっっ!!!!」
アスランが、涙目で逃げます。
「こらこら、間違えていますよ。そこで不敵に笑っている人です」
北川商業の番長は、恐れる素振りも見せずシュルンと穴の中に連れ去られました。