今、闘技場にいる人はマモリ様を除くと、ガンネスファミリーに投げ捨てられた悪党共ともう一人います。
私はそれに気がついたのです。
そう、ファルコンチームのベンチの前の、分厚いコンクリートを壊してその前にあぐらで座っている男、コングが闘技場にいます。
コングが大きく口を開けて、それと同じように両目も見開いて、この光景を見ています。
「ふふっ、コングは地獄には縁が無さそうですね」
マモリ様から悪い笑顔が消えて、ぱっと明るい表情になり、うれしそうに言いました。
マモリ様は、コングが地獄に落ちるような悪党なら、そのまま地獄送りにするつもりだったようです。
「うおっ!! なっ、なんだ!? なんなんだ!?」
スピーカーからファルコンファミリーのボスの声がします。
スピーカーからドンドンという音が聞こえます。
「ふーーっ!! 堅いドアズラ」
ズラーが、ファルコンファミリーのVIP席の、ボスの所に到着したようですね。
「ば、馬鹿め!! そのドアは象が体当たりしたって壊れねえんだ!! ひゃはははっ」
「なら、オラは象より強いズラ」
ズラーが言い終わると、ドカンという音と共にガランガランと何かが壊れる音が聞こえます。
「なっ、何だと! おいっ! 護衛達はどうした!?」
ファルコンファミリーのボスが少しあせっていますね。
「あー、それならオラとデェスでたおしたダニ」
「もう、外の護衛達は、闘技場に投げ捨てたデェース」
「なっ! おめーは姫神デェスか? くそっ!!」
ファルコンファミリーのボスがデェスちゃんの顔を見て、勝てないとあきらめてしまったようですね。
「ああ、そうか。デェス、ここはおら達に任せるダニ」
「そうズラ、手出し無用ズラ」
「わかったデェース。オラは手を出さないデェース」
「本当か? はあぁはっはっはっ! ならば勝った!! ここに居る護衛の六人は殺しの達人だ。お前達のような数あわせに負けるわけがねえ!!」
ファルコンファミリーのボスが勝ちを確信したようです。
「うふふ、ダニーあんちゃんも、ズラーあんちゃんも、私よりはるかに強いデェース!!」
「えええっ!?」
ファルコンファミリーのボスの顔が目に浮かびますね。
きっと、目玉が飛び出して、鼻水を垂らして、アゴが外れるくらい大きな口をあいているのでしょうね。
「うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!」
「ごえぇぇーー!!!」
「さあ、痛い目に合いたくなければ、大人しく我らの主人の元へ来ていただきたいダニ」
闘技場の客席に、ファルコンファミリーのボスの姿が見えてきました。
ダニーとズラーとデェスちゃんの両肩に一人ずつ、ぐったりした男の姿があります。
三人は両肩の男を闘技場に投げ入れます。
大勢の人を殺してきたのでしょう、すぐに獄炎に捕まり獄門の中に姿が消えました。
「ひっ!!」
目の前で獄炎に捕まる殺し屋の姿をみて、ファルコンファミリーのボスが小さく悲鳴を上げました。
既にさっきまでの悪党の恐い親玉の雰囲気が消えて、弱々しいデブのおっさんになっています。
「ひゃははは、ファルコンのぉー! ざまあねえなあ!!」
ガンネスの声がスピーカーから聞こえてきます。
闘技場には数人の男の姿がありますが、他のマフィア連合の手下は姿を消しています。
残っている男達は、悪さが足りないのか、善行を行なったのか、地獄にはふさわしくなかったようで取り残された者達のようです。
六人の殺し屋を地獄送りにすると、マモリ様は獄門を閉じました。
「マモリ様、御命令通り、ファルコンファミリーのボスを連れてきましたダニ」
ダニーがマモリ様の前でひざまずきました。
そして、うやうやしく頭を下げます。
「うふふっ! よくやってくれました」
マモリ様が、わざと女の子のように言いました。
「なっ、なに???? お前達の主人はガンネスじゃねえのか?」
「ふん、オラ達はマモリ様の眷属ダニ」
「そうズラ」
「そうデェース」
ズラーとデェスもひざまずいて、マモリ様に頭を深く下げます。
「ひゃははっ!! ガンネスファミリーじゃ。そのマモリ様が一番えれえのさ!! 何しろ守護神様だからな。ありがてえ神様なんだよ!!」
「かっ、神様だと」
「さてと、あなたには選択肢があります。一つは、地獄に行くという選択肢、もう一つはガンネスファミリーの傘下に入るという選択肢です。どちらを選びますか?」
マモリ様は、ファルコンファミリーのボスの言ったことは無視をして軽い感じで言いました。
「ふふふっ、地獄などと言われても普通なら何を言っていると、笑い飛ばす所だが、あんな物を見せられたら信じるしかねえ。ふふふ、はあぁーはっはっ!」
ファルコンファミリーのボスは力強く笑いました。
既に腹をくくったようです。
「ガンネス!! 後は任せました! 僕にはもう一つ仕事が残っています」
「そっ、それは?」
ガンネスが不思議そうに聞きました。
普通なら、ここで一件落着です。何があると言うのでしょうか?
「うふふ」
マモリ様は、笑いながら手を前に出し人差し指を立てました。
その先には、あの男、コングがいます。
「ミミイーー!!」
コングが大声を出しました。
「人前では、呼ばないで欲しいのぉー」
声の方を見ると、客席の昇降口の影に人影が有ります。
影の顔の中央には長い物が見えます。
天狗でしょうか?
いいえ、出て来たのは長い耳の可愛い少女です。
「俺の変身を解除してくれ!!」
「へ、変身ですってぇーー!!」
ガンネスチームのベンチにいつのまにかユウキ達がいます。
まあ、一通り終わっていますから、良いのでしょうけどまだ危険ですよ。
どうして、あの子達は控え室で大人しく待てないのでしょうか。
マモリ様がヤレヤレという表情になっています。
「おおーーとっ!! これは、驚きました。コング選手の姿が変わります。赤い肌に頭には立派な角があります。この姿は、昔話でおなじみの赤鬼です。これがコング選手の本当の姿とでも言うのでしょうかーー?!」
「ええぇーーっ!!!! マーシーさん、まだいたのですかー!?」
マモリ様が驚いて放送席を見ます。
「ふふふ、いますとも、私はいつも最後に帰るようにしていますからね。さっきまでは、恐くて机の下に隠れていました。今日は良い物を見られそうです」
「ひひひっ!! ここまでを見られたら、生かしちゃおけねえんだがなあ!!」
ガンネスがドスの利いた声で脅かすように言いました。
「ははは、それは大丈夫ですよ。私が見た物をそのまま言っても誰も信じません。なにしろ私は、薬中ですからねえ。あーっはっはっはっ!!」
全く笑えません。
「なら、大丈夫ですね」
マモリ様も軽いですね。
まあ、マモリ様がいいと言えば誰も否はいえません。
「マモリ様、俺ともう一度戦って欲しい」
「戦う? もうその必要は無いですよ。ファルコンファミリーは既にガンネスファミリーの傘下です。あなたはすでに自由です。好きに生きていいのです」
「いいえ、好きに生きていいのならなおの事、あなたと全力で戦いたい」
「そうですか。なるほど」
どうやら、コングはまだ実力を出し切れていなかったようですね。
油断をするからですよ。
コングが立ち上がり、ニヤニヤ笑いながらマモリ様の前にゆっくり近づきます。