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0087 行動開始

「ふむ、岸破め。奴は政治家としては四流じゃが、悪党としては超一流じゃな。ふふふ」


カメラの前で信作じいさんが不敵に笑っている。

少し笑って、目を閉じて閉じた目のまま天井をむいた。

きっと、頭の中でいろいろ考えをめぐらせているのだろう。


「お爺さま……」


ノブコが心配そうにつぶやいた。

テロの首謀者とは、どの位の罪になるのだろうか。

国民の為には財源がなくなるのに、政府は信作じいさんの首に10億円もの懸賞金をかけた。


「ふーーっ」


僕は大きなため息が出た。


「神様!?」


ユウキが、僕のため息に気がついて心配そうに上目遣いで僕を見た。

相変わらず美しくてかわいい顔をしている。


僕は少し怒っている。

この国のお米の値段は今三倍になろうとしている。一大事だ。

ユウキとこの部室で見たアンナダメダーマンというアニメでは、主人公が米は10キロ、3000円、キャベツは1玉、100円、玉子は1パック10個入り100円で安定供給することに必死になっていた。

底辺生活者の給料が上がっていない、いや実質下がっているこの国では、主食の値上がりは自殺者の増加や、孤独死の増加に直接つながっていくのではないでしょうか。


ユウキのおばあさんは年金生活者で、4万円程度しかもらえていない。

たまたま、お米は生産しているので生活出来ているけど、そうじゃ無い人は食べていけずに自殺を選択するかもしれない。

うふふ、国会議員の先生のように年間何百万円もの年金をもらっているのなら良いのでしょうが、4万円の人の事を考えないと政治家とは言えないと思います。


国民への食糧の安定供給は政府の最低限の義務じゃないのでしょうか。

夫婦別姓などの議論や外国への支援や、お米の輸出、美味しいお米を輸出するのは日本の義務とか言っている政治家はどうなのでしょうか? いまは、何もかもいったん棚上げをして、食糧の安定供給する事に集中すべきではないのでしょうか。上級国民以外は皆、困っていますよ。

だから、僕は日本政府に怒っているのです。

そしてその怒りは、その政府を選択している日本国民にもむいている。日本国政府は日本国民によって選ばれた人達なのですから。


僕の中では、日本国民は「マモリたい」ものの中から外れてしまった。

アッガーノ王国人の僕は外国人なので日本を客観的に見ることが出来る。

これが外国人、姫神マモリの素直な感想です。


「ふふふ、おもしろい。我が心の師、吉田松陰先生もまた罪人として処刑された。わしもまた、日本の為なら死ぬ覚悟は出来ておる。いや、既に遅いぐらいじゃ。司令官!! さっさと攻撃を開始せよ!!」


どうやら、信作じいさんの覚悟が決まったようだ。テロリストの首領を演じるようだ。


「なっ!! なにーーっ!!」


配信動画を映しているモニターの司令官が叫んだ。

司令官の回りには報道の腕章をした人達が、携帯端末をもってグルリと囲んでいる。

その中の1つが、マーシーの幻覚チャンネルを映しているようです。


「ぷっ!!」


司令官の驚き方が面白かったのか、ユウキが噴き出しました。


「くそっ!! ここで、攻撃を開始したら、俺は旧仲のじじいの命令で動くように見えるではないか!!」


司令官は腕を組み、いまいましそうな顔をして目を閉じた。


「ふっふっふ」


信作じいさんは、司令官を映すモニターを見つめ得意げに笑った。

信作じいさんの狙い通りになったのでしょう。


「おい、女!! お前はどこの放送局だ?」


司令官は、テレビカメラの横のレポーターに声をかけた。


「は、はい! 八州テレビでございます」


「おい、旅団長! 手勢をつれて八州テレビへ向え!! そして、八州テレビを占拠せよ。逆らう者は皆殺しにしてかまわん。おい、カメラ、撮しているのだろう。テレビ画面は偏向放送をしているが、この映像は届いているのだろう。八州テレビの者達、いまから1部隊を送る、死にたくなければ逃げよ。だが、真実を放送したい者の命はとらぬ、優遇を約束しよう」


司令官は顔に影を落として不気味に笑った。


「ふーむ、困ったのう」


信作じいさんがつぶやいた。


「どうしました?」


僕は、何に困っているのかわからなくて質問した。


「いよいよ、進軍が始まりそうじゃ。なんとか、時間稼ぎを出来ないものかのう」


信作じいさんは、悪のテロリストの首領を演じていながら日本国民を心配しているようだ。

部室にしばらく沈黙が続いた。


「一つ策があります」


沈黙をやぶって、ノブコが言いました。

僕達は、ノブコの案に乗ることにして、準備を始めた。





「あっ!!」


丁度準備が終わると、部室の壁の地上波の八州テレビの画面に司令官のアップが映った。


「きけーーっ!! おろかな日本人共よーー!! 我々はテロリストではない! アッガーノ王国の正式な国軍である。したがって、旧仲のじじいとは無関係だ。旧仲のくそじじい! お前は勝手にテロでもやっていろ! 我がアッガーノ王国は日本国政府に宣戦を布告し、日本国の元首はそれを受領した。いま、この国とは戦争状態だ。これより日本を占領するため兵を進軍させる。死にたくない奴は、避難せよ。残っている者は日本軍兵士として対処させてもらう。なお、アフリカ大陸だけは保護区として不可侵とした。アフリカに避難することをおすすめする」


地上波の画面の一つだけ、これを放送した。

そして、配信動画の多くが司令官を映していた。

マーシーの幻覚チャンネルだけは、避難を呼びかける信作じいさんを映している。


「マーシーさん、では、いきましょうか」


僕達はノブコの策を実行しようと行動を開始した。

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