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第2話 魔法使い

僕が日本に転生してから、数か月が経ったある日。

いつも通り、図書館で調べものをしたあとに、事件は起こった。




図書館での調べものを終えて、外に出た時だった。


道の向こう側からこちらへ渡ろうとしている少女がいた。

高校生くらいだろうか?

信号も横断歩道もない道を渡ろうとしている。

交通量が少ないとはいえ、危ないなと思いながら、僕は見ていた。


すると。


「きゃっ。」

少女が転んでしまった。

そして、


フォーン!!

クラクションを鳴らしながら、大きなダンプトラックが迫ってきた。

ブレーキを掛けているようだが、間に合いそうにない。


少女は、その場を動けないでいる。

その時、僕は咄嗟に両手を上げて叫んでいた。

「氷よ。出でよ!アイス!!」

僕の両手から放たれた氷の塊は、ダンプと少女の間に壁を作り、ダンプは氷の壁にぶつかって止まった。


驚いて唖然とする少女に僕は駆け寄った。

「大丈夫だったかい?」

ダンプと少女の間の氷の壁がみるみる消えていく。

「あ、はい。ありがとうございます。」

「怪我は?」

「だ、大丈夫です。」

どうやら大きな怪我は無いようだ。良かった。

「危ないじゃないか。気を付けるんだよ。」

少女の無事を確認して、その場を去ろうとしたその時。


「あなた。魔法使いですか?」

少女が思いもよらない言葉を言った。

僕は、少女の言葉に驚いた。

い、今、なんと言った?

「あなた、魔法使いですよね?」

驚いて呆然とする僕の手を掴んで、彼女は言った。

「いいから、そこの図書館で話しましょう。」

僕は強引に引きずられて少女と図書館に入った。


図書館に入ると、僕らは向かい合わせに座った。

周りに人はいない。

カウンターの中に職員が1人いるだけだ。


少女は何故か僕を睨んでいる。

命の恩人なのに。

「僕は、君を事故から救った。まあ、少し不思議なことはあったけど、あれは忘れてくれればいい。口止め料とかも要らない。僕らは、それだけの関係で、もう会うこともない。それでいいよね?」

「そうは行かないわ。あなたは魔法を使った。この日本で。いったい何者?」

「君は、その、ファンタジー映画の観過ぎか、ゲームのやり過ぎなのかな?魔法なんて現実にあるわけないじゃないか。」

「でも、あなたは『アイス』の魔法を使った。事実よ。」

「だから、あれは幻なんだよ。気のせい。幻覚。ダンプに轢かれそうになって、幻想を見たんだよ。」

「幻想なんかじゃない。あなたは、魔法使いよ。」

少女は、どうしても譲らない。


「僕は、普通の人間の男性で、名前は菰田 博(こだ はく)。年齢は、25歳。ここから離れた洋館に一人で住んでる。魔法使いでも何でもない。」

「名前、こだはく・・・、はく・・・、ハック!!やっぱり、あなた、ハック・フォクサーね!!」

少女の口から思わぬ名前が出てきてギョッとした。

「な、なんでその名前を・・・?」

「私は、櫻田 桜花(さくらだ おうか)。前の名前は、オウカ・ブロッサム。」

!?

「オウカ!? 回復師(ヒーラー)のオウカか!」

僕は驚いて思わず大きな声を出してしまった。

カウンターの中の職員が怪訝な顔でこちらを見る。

オウカは、勇者パーティの紅一点で、高い魔力を誇る回復師(ヒーラー)だった。年に似合わず芯が強く、それでいて可愛いところもある。そんな女性だ。


「どうやら、私たち2人は、あっちの世界からこの日本に転生してきたようね。」

「君は、本当にオウカなのか?」

「・・・多分。」

「多分?」

「まだ、転生前の記憶が曖昧なの。時々、パッと一部だけ思い出す。回復魔法も初期のしか思い出せない。」

「本当にオウカなのか確認したい。僕にヒールをかけてくれ。」

「わかった。」

そういうと少女は、両手を僕の腕にかざした。

「回復せよ。ヒール!」

少女の手が青白くぼんやりと光り、僕の腕にあった小さな切り傷が無くなっていった。

間違いなく回復魔法だ。

「君は、本当にオウカなんだな。」

「だから言ったじゃない。」

そして、僕は気づいた。

「君がここにいるということは、君も死んだのか?」

「そう。ダークドラゴンにやられた。あなたの後にね。それは覚えてる。」

「そうか。じゃあ、魔王は?」

「私にも、あの後、どうなったのかは、分からない。」

オウカにも分からないか。

残ったあの2人なら、なんとかしてくれただろうか?


「ところで、桜花。日本での生活はどうなってるんだ?」

「年齢は18歳。高校生。両親はいない。今は義理の両親にお世話になってる。子供のころから不思議な力があって、親族から避けられてたみたい。」

「不思議な力?」

「予知能力。誰かが事故にあうとか、怪我するとか、そういう不吉なことを事前に予言してたみたい。だから親族に気味悪がられて。両親の事故も。」

「予言したのか。」

「それが決定的だったみたい。血縁関係のない義両親に養子に出されたの。」

「桜花。」

僕は絶句した。

「それが、転生後の今の私。義両親も完全放任だから、自由にしてるわ。今は。」

オウカは、こちらの世界でも逞しく生きている。

元の世界でも紅一点のムードメーカーだったな。


「もし、よければ、僕の家に来ないか。町から離れていて魔法の鍛錬にもちょうどいいし。」

「ホントに!一人で寂しかったから、喜んで行くよ。」

「部屋も多いし、一人には大きすぎる屋敷だから、歓迎するよ。」

「じゃあ、決まりね。早速、支度しなきゃ。義両親は、大丈夫。ちゃんと説明するから。明日、ここで待ち合わせで良い?」

・・・一人でドンドン話を進めてしまう。。。

「ああ、いいよ。」

「じゃあ、明日ね!」

そういうと、桜花は、さっさと出て行ってしまった。

相変わらず、マイペースというかなんというか。

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