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第3話 訓練

それから僕は、家に帰って、桜花の受け入れ準備を進めた。

屋敷中を掃除して、不要なものを片付けて、換気をして。

一通り終わった時、廊下に扉があることに気づいた。

扉には鍵が掛かっている。

僕は、書斎の引き出しに鍵があったことを思い出し、その鍵を持ってきた。


カチャリ。

鍵が開いた。


懐中電灯の明かりを頼りに中へ。

扉を開けてすぐに下に続く階段があった。地下室だ。

階段を降りてすぐにスイッチを見つけて電気をつける。


か細い明かりに照らされた地下室は、あまり広くなく、

本棚や机が、書斎のように並んでいた。

本棚の本の一冊を手に取ってみる。


『古代の魔術』というタイトルだった。

それ以外にも、魔術や呪術、祈祷、黒魔法などの研究書が並ぶ。

ここで、何を調べていたのだろう?

菰田博の記憶にも、この部屋の存在は無い。

ということは、その前の住人のものか。

その中に見覚えのある表紙の本があった。


これは、、、『魔導書』だ。


なぜ、これがここにあるんだ?

僕は、頭が混乱していた。


本棚にあった魔導書は、元いた世界で、見習い魔法使いが使うもので、初期の簡単な魔法の使い方が書かれている。

魔法の存在しないこの世界になぜ、、、?


とりあえず、魔導書だけを持って、地下室を後にした。


僕は、何とも言えない不安を感じていた。

日本にも、魔法使いがいたということか?

今、この世界では、魔法は無いことになっている。

どういうことだ?




翌日。

我が家に桜花がやってきた。


「うわー。すごいお屋敷!」

「なんで、僕が一人で住んでるのか、今のところ、分からないんだけどね。」

「きっと、大金持ちの家で遺産相続したんだよ!」

「そんな感じはしないけどな。」

「絶対そうだって!じゃなきゃ、おかしいもん。」

桜花は、相変わらず無邪気だ。


「桜花の部屋は、ここな。」

2階の一番奥の部屋だ。

「ありがとう。いい部屋だね。」

「僕は階段の前の部屋だから、何かあったら呼べよ。」

「うん、わかった。」

「風呂とトイレと台所は1階な。」

「はーい。」

。。。本当にわかってるんだろうか?まあいい。

僕は、いつも通り、居間でくつろぐことにした。


「リビングも広いね。」

桜花が下に降りてきた。

「荷物、片付いたのか?」

「全部、片づけた。」

桜花の目が止まる。

「これ。魔導書じゃない!なんで、ここにあるの?」

「それが、わからないんだ。この世界には、魔法は存在しないはずなのに。」

「昔はあったってことなのかな?」

「それか、何者かがこの世界に持ち込んだか。」

何者か・・・自分で言ってゾッとした。

あまり、考えたくはない。

「まあ、何とかなるでしょ。『大魔法使いハック様』がいるんだし。」

「僕はまだ記憶が不完全なんだ。あまり期待しないで欲しい。今は、初期魔法すらやっとだし。早速、明日から、魔法の鍛錬を始めよう。」

「えーっ!」

「えーじゃない。」

・・・先が思いやられる。




魔法の鍛錬。

具体的には、体力及び魔力の増強と、魔法の精度の向上。

要は、肉体的なトレーニングをしつつ、魔法の発動をひたすら繰り返す。

この世界に魔力アップのアイテムや装備は存在しない。

魔物もいないから経験値も手に入らない。

地道なトレーニングしかないのだ。




「腕立て100回!」

「はい!」

「次、スクワット100回!」

「はい!」

「次、ヒール詠唱100回!」

「は、はい・・・。」

トレーニングは順調だ。

「なんで、私ばっかりやってるのよ!」

「いいかい。桜花。パーティの中で回復師(ヒーラー)の役割は重要だ。なんと言っても、傷を治したり、状態回復することが出来るのは、ヒーラーだけだ。そのヒーラーが最初に死んでみろ。パーティは即全滅だ。それくらいヒーラーの役割は重要なんだ。だから、特にヒーラーは、死なないように体力アップが必要なんだよ。」

「分かったわよ。やれば良いんでしょ。やれば。」

「分かればいいんだ。」

僕も、さぼっている訳ではない。

両手両足に重りを付けて生活している。

魔法使いも意外に体力勝負なのだ。


「さあ、ご飯にしようか。」

しっかりと食事を取るのもトレーニングのうちだ。

僕は、元の世界ではパーティの料理担当だった。

スライムから始まって、サーバルタイガーやクロコダイル、ゴーストにベビードラゴンまで、様々な魔物を調理してきた。

日本の食材なら、プロ並みの料理を作れる自信がある。


「また、カレー!?」

「文句を言うな。カレーは栄養たっぷり具沢山の最高の料理だぞ。」

「でも、もう3日連続・・・。」

「カレーは3日目が一番美味しいんだ!!」

「2日目じゃなかったっけ?」

「・・・とにかく、食え!」


さすがに、明日は別の料理にするか。




そして、3か月後。

僕と桜花は、中級魔法まで使えるようになっていた。


日本で、果たして中級魔法が必要なのかどうかは分からないが、地下室の件もあるし、備えあれば患いなしだ。

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