魔法使いとヒーラーにも休息が必要。
ということで、中級魔法習得のお祝いも兼ねて、隣町のショッピングモールに気晴らしに行くことになった。
「お出かけなんて久しぶり♪」
「桜花、あまり無駄遣いするなよ。」
「大丈夫♪大丈夫♪ハック様はお金持ちだから♪」
「僕のお金だったとしても、無駄遣いするなっ。」
「はいはい。」
「はい。は、一度!」
「は~い。」
・・・子供か!
そうこうしているうちにショッピングモールに到着した。
この辺りでは、一番大きな商業施設だ。
映画館にボーリング場まである。
「ボーリングやろう!」
「よし。いいだろう、勝負だ。」
大魔法使いとしては、小娘ヒーラーには負けられない。
数十分後。
「私のリード♪」
マズイ。このままでは負ける。
大魔法使いのプライドにかけて負けられない戦いがここにはある!
僕は、渾身の一球を投げた!
ボールは右へ曲がっていく。
このままではガターで負けだ!
次の瞬間。
「・・・風よ吹け。ウインド!」
一陣の風がボールに向かう。
ボールは左に向きを変え、全てのピンを倒した。
「ずるい!魔法使った!!」
「魔法禁止とは言ってない!」
「ずるい!ずるい!」
「勝ちは勝ちだ!!」
我ながら大人げなかったか。
「わかった。フルーツパフェ奢るから許してくれ。」
「うーん、いいよ♪」
女子はスイーツに弱い。
カフェで休憩しながら、2人の転生の話になった。
「私たちって、なんで日本に転生したんだろうね?」
「うーん、なんでだろう?僕らは魔法使いとヒーラーの能力を持ったまま、日本に転生してきた。そのことに何か大きな意味がある気がするんだ。」
「大きな意味?」
「分からないけど、僕の家の前の住人は、魔術の研究をしていたみたいだし。今、この世界に魔法は無いけど、過去にはあったのかも知れない。」
「過去・・・。過去の魔術を復活させようとしてるとか?」
「あり得ない話じゃないな。」
「でも、魔法を復活させようとしている人がいるとして、私たちの転生と何の関係があるんだろう?」
「それは分からないから、調べるしかないな。あの地下室にヒントがある気がする。」
「じゃあ、それは、大魔法使いハック様に任せるね♪」
「だから、その呼び方はやめてくれ。日本での僕は博(ハク)だ。」
「私、ハックとまた会えて良かった。」
「僕もそう思うよ。オウカと再会できるなんて思ってもいなかった。」
一瞬、桜花の目に涙が浮かんでいたように見えた。
とにかく、あの地下室の本を手当たり次第に調べるしかないだろう。
「じゃあ、次はショッピング行こう!」
桜花は元気だ。。。
ショッピングモールには、様々な店が入っている。
桜花の買い物の付き合いも流石に疲れてきた。
「ちょっと、疲れたから、そこのベンチで休んでるよ。」
「ハク、わかった。私一人で大丈夫だから、休んでて。」
・・・行ってしまった。僕は、広場の隅にあるベンチに座った。
広場は吹き抜けになっていて、中央にはフリークライミングの施設がある。
なかなかに本格的だ。
何人かの子供が壁に挑戦している。
僕は、それをぼーっと眺めていた。
きゃー!
叫び声が聞こえて、そっちを見ると、子供が一人、壁の上の方にぶら下がっていた。
命綱が切れたのか、ロープを付けている様子はなく、手の力だけで体を支えているような状態だ。
このままでは、落ちてしまう。
次の瞬間。子供が力尽きて手を放してしまった。
「風よ吹け。トルネード!」
僕は咄嗟に魔法を唱えた。
つむじ風が子供を掬(すく)い。
子供をそっと地面に着地させた。
周りの大人たちは唖然としている。
泣き出した子供に、母親らしき人が駆け寄る。
助かってよかった。
僕は、黙ってその場を立ち去った。
この時の僕は、まだ、知らなかった、
その様子を遠くから監視する者がいたことを。
一方そのころ、
「重い~。たくさん買い過ぎた~。」
桜花は、一人で買い物中だった。
「ハクはどこ~?どこ行っちゃったの~?」
その場に座り込んでしまった。
「待たせたね、桜花くん。私が来た。」
ヒーローのように、かっこ良く僕が現れる。
「どうでもいいけど、早く荷物持って。」
「ど、どうでもいい・・・」
僕は大量の荷物を両手に抱えた。
「さ、次の店いこー!」
・・・まだ、買うのか?
僕の顔は引きつっていた。
そのあとも散々連れ回された。
「あー、楽しかった。ご飯なに食べる?」
「がっつりステーキとか食べたいな。」
「よし、買い物に付き合ってくれたから、晩ご飯は私が奢るよ。」
・・・いや、買い物のお金は全部私が出してるんですが・・・
「たくさん食べてよ♪」
その日は、桜花にステーキをご馳走になった。