僕らの転生の理由を調べるため、僕は地下室に籠るようになった。
桜花はその間も魔法の鍛錬に明け暮れた。
地下室にある本は、ほとんどが黒魔術や呪術、祈祷など、今の世に伝わっているものや伝説・伝承などで、僕らのいた世界の魔法に通じるものは無かった。
やはり、元の世界のものは、あの魔導書だけしかないのか。
それにしても、何故、あの魔導書だけがここにあるのか?
地下室の本をほとんど調べ尽くしたある日。
床に妙なキズのような線があるのに気付いた。
溜まった埃を払ってみると、そこに何と取っ手が現れた。
僕は、それを恐る恐る持ち上げた。
すると・・・そこは隠し収納だった。
中には、魔導書らしき本が数冊あった。
「桜花!隠し収納を見つけたぞ!これで、謎が解けるかも知れない!」
「やったね。苦労した甲斐があったよ。」
そして、隠し収納の奥になにか棒状の物があるのに気付いた。
「これは、なんだ?」
その棒状の物を掴んで取り出すと、
「これは、魔法の杖だ!」
「すごい!」
「なんで、この世界に魔法の杖が?」
「わかんないけど、早速使ってみたら?」
僕らは魔法の杖を持って家の外に出た。
「さあ、魔法を使ってみて。」
「わかった。」
僕らは安全な広い場所で試してみることにした。
魔法の杖は、僕らが転生前にいた世界で作られた物のようだ。
材料の木は、この世界には無い。
「岩よ、出でよ。ウォール!」
僕は魔法を唱えた。
杖の先が光り、
ゴゴゴゴゴっと地鳴りのような音がして、地面が揺れる。
地面から、大きな土の壁が現れた。
成功だ。
これは本当の魔法の杖だ。
「すごい!さすが、大魔法使いハック!」
「だから、その呼び名はやめろって。。。」
とにかく、これは本物の魔法の杖だ。
なぜ、日本に?
僕らは、隠し収納にあった魔導書やその他の紙片を調べることにした。
魔導書は、中級・上級・特級までが揃っていた。
それ以外は、日記のようなものや、メモ書きなど、特に重要とは思われないものだった。
それにしても、この家の前の主は、どうやって魔導書や魔法の杖を手に入れたのだろう。
まさか、転生者だったんだろうか?
それとも、もっと昔に転生者がいたのか?
謎は増すばかりだ。
そして、僕と桜花が、町に買い出しに出た時に事件は起こった。
この街に1軒だけあるスーパーマーケット「ヨサゲヤ」は、たくさんの食品を扱っている、この町の奥様御用達のスーパーだ。
「桜花、お菓子もいいけど、あまり沢山買うなよ。」
「わかってますよー。あ、このチョコ美味しそう♪」
・・・本当に、わかってるのか?
そんな僕らを影から見ている男がいた。
「あ。アイスクリーム見てくるね。」
「桜花、アイスは一つだけだぞ。」
「はーい。」
まったくもう。。。
その時、桜花の悲鳴が聞こえた。
キャー!
僕はすぐに悲鳴がした場所に駆け付けた。
桜花が男に羽交い絞めにされている。
そして、何か呪文のようなものを唱えている。
これはマズイ!!
僕は直感的に危険を察知した。
あいつは何かしようとしている!
しかし、男は桜花を盾にしていて、こちらから攻撃できない。
僕が躊躇していると
桜花が後ろ蹴りで男の股を蹴り上げた。
男が怯んだ次の瞬間。
「氷よ、出でよ。アイス!」
僕は、攻撃範囲を男に集中して、魔法を唱えた。
魔法が直撃した男はダメージを負ったようだ。
畳みかけるなら今だ!
「また、会おう。」
男が不敵な笑みを浮かべた。
・・・と、男がふっと宙に消えた。
空間移動魔法(テレポート)だ。
何者だ!?
僕は呆気にとられていた。
「ハク!」
桜花が抱きついてくる。
「大丈夫か?桜花?」
「うん。あいつ何者?」
「わからない。。。」
僕らは、家に戻った。
桜花の腕には、小さな傷が出来ていた。
この傷は刃物や腕を掴まれてできた傷ではない。
魔法攻撃による傷だ。
あいつも『魔法使い』だ。
そして、明らかに桜花を狙っていた。
何が目的なのだろう?
とにかく桜花の身が心配だ。
何か、手掛かりがないか、もう一度、隠し収納にあった紙や日記に目を通した。
すると日記の一文に目が留まった。
・・・・・・・・・・
〇月△日。
この世界にきて1年が過ぎた。
魔術や黒魔法の本を読み漁ったが、
ここには魔法は存在しないらしい。
俺だけが魔法を使えるのは、何故だ?
どこか見覚えのある男が突然来て、
お前の力が借りたいと言ってきた。
報酬もはずむという。
どうせ、元の世界には戻れない。
ここで暴れてやろう。
俺は、ここで魔王になるんだ。
・・・・・・・・・・
これは、、、転生者の日記?
だとすれば、魔導書も魔法の杖もこの男のものか。
魔王になるだって!?
僕は、日記のことを桜花に話した。
すると、桜花が過去の話をしだした。
「実は、私、子供のころに拐われそうになったことがあるの。私の予知能力の話を誰かから聞いて、男の人が訪ねてきて。連れて行かれそうになった。」
「それで?」
「私。その時はまだお母さんと一緒だったから、お母さんが守ってくれた。その男は、きっと、私の能力が欲しかったんだと思う。」
「その男か、その仲間が、スーパーに現れたってことか。」
「そうだと思う。」
「だとすると、転生者である『日記の男』が、桜花の能力を狙う謎の組織の仲間になったってことか。」
「ハク。どうしよう。私こわいよ。」
「大丈夫。大魔法使いがついてる。」
とはいえ、今の僕の力では、不安だ。
何とかして魔力強化をしなくては。
相手は自称『魔王になる男』だ。
一筋縄ではいかないだろう。
今のところ、敵の正体も、居場所も分からない。
有効な情報も無い。
ただ、相手が、桜花の予知能力や魔法の力を欲しがっているのであれば、また、襲ってくるはずだ。
桜花には申し訳ないが、しばらく囮になってもらって、敵が襲ってきたら、生け捕りにして情報を吐かせる。
これしかない。
敵がいつ襲ってきても良いように、魔力強化の鍛錬は続けよう。