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第5話 襲撃

僕らの転生の理由を調べるため、僕は地下室に籠るようになった。

桜花はその間も魔法の鍛錬に明け暮れた。

地下室にある本は、ほとんどが黒魔術や呪術、祈祷など、今の世に伝わっているものや伝説・伝承などで、僕らのいた世界の魔法に通じるものは無かった。

やはり、元の世界のものは、あの魔導書だけしかないのか。

それにしても、何故、あの魔導書だけがここにあるのか?

地下室の本をほとんど調べ尽くしたある日。

床に妙なキズのような線があるのに気付いた。

溜まった埃を払ってみると、そこに何と取っ手が現れた。

僕は、それを恐る恐る持ち上げた。

すると・・・そこは隠し収納だった。

中には、魔導書らしき本が数冊あった。


「桜花!隠し収納を見つけたぞ!これで、謎が解けるかも知れない!」

「やったね。苦労した甲斐があったよ。」

そして、隠し収納の奥になにか棒状の物があるのに気付いた。

「これは、なんだ?」

その棒状の物を掴んで取り出すと、

「これは、魔法の杖だ!」

「すごい!」

「なんで、この世界に魔法の杖が?」

「わかんないけど、早速使ってみたら?」


僕らは魔法の杖を持って家の外に出た。


「さあ、魔法を使ってみて。」

「わかった。」

僕らは安全な広い場所で試してみることにした。

魔法の杖は、僕らが転生前にいた世界で作られた物のようだ。

材料の木は、この世界には無い。

「岩よ、出でよ。ウォール!」

僕は魔法を唱えた。

杖の先が光り、

ゴゴゴゴゴっと地鳴りのような音がして、地面が揺れる。

地面から、大きな土の壁が現れた。

成功だ。

これは本当の魔法の杖だ。

「すごい!さすが、大魔法使いハック!」

「だから、その呼び名はやめろって。。。」

とにかく、これは本物の魔法の杖だ。

なぜ、日本に?



僕らは、隠し収納にあった魔導書やその他の紙片を調べることにした。

魔導書は、中級・上級・特級までが揃っていた。

それ以外は、日記のようなものや、メモ書きなど、特に重要とは思われないものだった。

それにしても、この家の前の主は、どうやって魔導書や魔法の杖を手に入れたのだろう。

まさか、転生者だったんだろうか?

それとも、もっと昔に転生者がいたのか?

謎は増すばかりだ。




そして、僕と桜花が、町に買い出しに出た時に事件は起こった。


この街に1軒だけあるスーパーマーケット「ヨサゲヤ」は、たくさんの食品を扱っている、この町の奥様御用達のスーパーだ。

「桜花、お菓子もいいけど、あまり沢山買うなよ。」

「わかってますよー。あ、このチョコ美味しそう♪」

・・・本当に、わかってるのか?


そんな僕らを影から見ている男がいた。


「あ。アイスクリーム見てくるね。」

「桜花、アイスは一つだけだぞ。」

「はーい。」

まったくもう。。。


その時、桜花の悲鳴が聞こえた。


キャー!


僕はすぐに悲鳴がした場所に駆け付けた。


桜花が男に羽交い絞めにされている。

そして、何か呪文のようなものを唱えている。

これはマズイ!!

僕は直感的に危険を察知した。

あいつは何かしようとしている!


しかし、男は桜花を盾にしていて、こちらから攻撃できない。

僕が躊躇していると

桜花が後ろ蹴りで男の股を蹴り上げた。

男が怯んだ次の瞬間。

「氷よ、出でよ。アイス!」

僕は、攻撃範囲を男に集中して、魔法を唱えた。

魔法が直撃した男はダメージを負ったようだ。

畳みかけるなら今だ!


「また、会おう。」

男が不敵な笑みを浮かべた。


・・・と、男がふっと宙に消えた。

空間移動魔法(テレポート)だ。

何者だ!?

僕は呆気にとられていた。


「ハク!」

桜花が抱きついてくる。

「大丈夫か?桜花?」

「うん。あいつ何者?」

「わからない。。。」


僕らは、家に戻った。

桜花の腕には、小さな傷が出来ていた。

この傷は刃物や腕を掴まれてできた傷ではない。

魔法攻撃による傷だ。

あいつも『魔法使い』だ。

そして、明らかに桜花を狙っていた。

何が目的なのだろう?

とにかく桜花の身が心配だ。


何か、手掛かりがないか、もう一度、隠し収納にあった紙や日記に目を通した。

すると日記の一文に目が留まった。




・・・・・・・・・・


〇月△日。

この世界にきて1年が過ぎた。

魔術や黒魔法の本を読み漁ったが、

ここには魔法は存在しないらしい。

俺だけが魔法を使えるのは、何故だ?


どこか見覚えのある男が突然来て、

お前の力が借りたいと言ってきた。

報酬もはずむという。

どうせ、元の世界には戻れない。

ここで暴れてやろう。

俺は、ここで魔王になるんだ。


・・・・・・・・・・




これは、、、転生者の日記?

だとすれば、魔導書も魔法の杖もこの男のものか。

魔王になるだって!?


僕は、日記のことを桜花に話した。

すると、桜花が過去の話をしだした。

「実は、私、子供のころに拐われそうになったことがあるの。私の予知能力の話を誰かから聞いて、男の人が訪ねてきて。連れて行かれそうになった。」

「それで?」

「私。その時はまだお母さんと一緒だったから、お母さんが守ってくれた。その男は、きっと、私の能力が欲しかったんだと思う。」

「その男か、その仲間が、スーパーに現れたってことか。」

「そうだと思う。」

「だとすると、転生者である『日記の男』が、桜花の能力を狙う謎の組織の仲間になったってことか。」

「ハク。どうしよう。私こわいよ。」

「大丈夫。大魔法使いがついてる。」

とはいえ、今の僕の力では、不安だ。

何とかして魔力強化をしなくては。

相手は自称『魔王になる男』だ。

一筋縄ではいかないだろう。


今のところ、敵の正体も、居場所も分からない。

有効な情報も無い。

ただ、相手が、桜花の予知能力や魔法の力を欲しがっているのであれば、また、襲ってくるはずだ。

桜花には申し訳ないが、しばらく囮になってもらって、敵が襲ってきたら、生け捕りにして情報を吐かせる。

これしかない。

敵がいつ襲ってきても良いように、魔力強化の鍛錬は続けよう。

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