僕は、魔法使いハック。
ギルドに所属している正式な魔法使いだ。
今日も酒場で仕事の依頼を待っている。
最近は、魔物が増えてきて冒険者も人手不足だ。
魔法使いは重宝がられて、よくお呼びがかかるけど、短期の仕事ばかりで退屈だ。
僕は世界中を旅したいのに。
海の向こうの国や、ドラゴンの住処、天まで届く山々や、精霊の都。いろいろな所をこの目で見てみたい。
「きみは魔法使いかい?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、人懐っこそうな笑顔の男の人が立っている。
「はい。僕は魔法使いです。水・火・土・風。一通りの魔法は使えます。初級だけですけど・・・。」
僕は申し訳なさそうに言った。
「それなら大丈夫。僕も戦士だけど、まだレベル低いから。」
にっこり笑う。
彼も若いけど、冒険者なんだろうか。
「僕に何か用ですか?」
彼に聞くと、思いもよらない答えが返ってきた。
「僕と一緒に冒険の旅に出ないか?僕は世界中を冒険したいんだ。」
「世界中!?」
渡りに船とはこのことだ。
僕は二つ返事で彼とともに冒険の旅に出ることにした。
彼の名前はユウ。
後に『勇者』と呼ばれる男だった。
「ハクっ。ハクッ!」
う、う~ん。誰かが呼んでいる・・・。
「ハクッ。」
目を開けると、目の前に桜花の顔があった。
「うわっ!!」
僕は慌てて飛び起きた。
「驚くなんて、失礼ね。」
桜花がむくれている。
「でも、気が付いて良かった。」
イボンヌがホッとしたように呟く。
「心配したんだぜ。3日も寝てたんだから。」
ロックが笑う。
「私の回復魔法がなかなか効かないくらい消耗してたんだから。」
桜花には、本当に心配をかけてしまった。
そうか、僕は3日も気を失っていたのか。
光竜との戦いで、相当、体に負担がかかっていたようだ。
「それで?どうなった?」
僕は、桜花に聞いた。
「光竜は、消えてしまったわ。それからは、何もなし。周りを調べたけど、何も出てこなかった。」
「そうか・・・。」
敵をあそこまで追い詰めたのに逃げられてしまった。
とどめを刺せなかったのは、僕の責任だ。
「みんな、申し訳ない。僕のせいで逃がしてしまった。」
「ハクのせいじゃないよ。みんなの責任だ。」
ロックが悔しさを押し殺すような声で言った。
「私だって、もっと戦えたはずなのに!クソッ!」
イボンヌが声を荒げた。
イボンヌ・・・。元々は敵側だったんだ。
きっと思うことはたくさんあるだろう。
「光竜は逃げてしまった。でも、瀕死の重傷のはずだ。すぐには復活しないだろう。」
1階のリビングで、4人で今後のことを話し合った。
「あの時。光竜は光に包まれて消えた。あれは、テレポートだと思う。アバンの仕業だ。」
「そうだね。アバンは前に2回もテレポートで消えてる。」
桜花が補足してくれた。
「アバンが四天王の一人を仲間に引き入れたってことか。」
イボンヌのいう通りだ、ということは。
「つまり、他の四天王も仲間に引き入れられた可能性が十分にある。」
僕は続けた。
「そうなると、本当に命がけの厳しい戦いが待っているはずだ。僕は桜花を守る義務がある。でも、イボンヌとロックは、そうじゃない。」
「どういう意味?」
イボンヌが僕に、問いかける。
「ハク、何を言ってるんだ?おいらとイボンヌも仲間だろ?最後まで一緒に戦うよ。」
ロックが怒りながら言う。
「イボンヌとロックまで巻き込むわけにはいかない。これは、僕と桜花の戦いだ。」
一瞬の沈黙の後、
「もう、私とロックの戦いでもあるんだよ!!」
イボンヌが叫んだ。
・・・そうか。イボンヌもロックも、それぞれに理由があって戦っているんだ。
僕が間違っていた。
「ごめん、イボンヌ、ロック。最後まで一緒に戦おう。」
「もちろん!」
僕らは、改めて今後について話し合った。
アバンは、光竜以外の四天王を仲間にした可能性がある。
敵の本拠地はいまだにわからない。
そして、敵の狙いは、桜花なのは変わりない。
ということで、今まで通り、この屋敷を拠点にして、敵を迎え撃つ。
その一方で、敵のアジトを何とか探る。
アジトがわかったら、こちらから打って出る。
この両面作戦で行くことにした。
その日から、新聞・テレビ・雑誌・ネット、あらゆる情報を見て手掛かりがないか探った。