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第13話 みんなの戦い

僕は、魔法使いハック。

ギルドに所属している正式な魔法使いだ。

今日も酒場で仕事の依頼を待っている。

最近は、魔物が増えてきて冒険者も人手不足だ。

魔法使いは重宝がられて、よくお呼びがかかるけど、短期の仕事ばかりで退屈だ。

僕は世界中を旅したいのに。

海の向こうの国や、ドラゴンの住処、天まで届く山々や、精霊の都。いろいろな所をこの目で見てみたい。


「きみは魔法使いかい?」

後ろから声をかけられた。

振り返ると、人懐っこそうな笑顔の男の人が立っている。

「はい。僕は魔法使いです。水・火・土・風。一通りの魔法は使えます。初級だけですけど・・・。」

僕は申し訳なさそうに言った。

「それなら大丈夫。僕も戦士だけど、まだレベル低いから。」

にっこり笑う。

彼も若いけど、冒険者なんだろうか。


「僕に何か用ですか?」

彼に聞くと、思いもよらない答えが返ってきた。

「僕と一緒に冒険の旅に出ないか?僕は世界中を冒険したいんだ。」

「世界中!?」

渡りに船とはこのことだ。

僕は二つ返事で彼とともに冒険の旅に出ることにした。

彼の名前はユウ。

後に『勇者』と呼ばれる男だった。




「ハクっ。ハクッ!」

う、う~ん。誰かが呼んでいる・・・。

「ハクッ。」

目を開けると、目の前に桜花の顔があった。

「うわっ!!」

僕は慌てて飛び起きた。

「驚くなんて、失礼ね。」

桜花がむくれている。

「でも、気が付いて良かった。」

イボンヌがホッとしたように呟く。

「心配したんだぜ。3日も寝てたんだから。」

ロックが笑う。

「私の回復魔法がなかなか効かないくらい消耗してたんだから。」

桜花には、本当に心配をかけてしまった。

そうか、僕は3日も気を失っていたのか。

光竜との戦いで、相当、体に負担がかかっていたようだ。


「それで?どうなった?」

僕は、桜花に聞いた。

「光竜は、消えてしまったわ。それからは、何もなし。周りを調べたけど、何も出てこなかった。」

「そうか・・・。」

敵をあそこまで追い詰めたのに逃げられてしまった。

とどめを刺せなかったのは、僕の責任だ。

「みんな、申し訳ない。僕のせいで逃がしてしまった。」

「ハクのせいじゃないよ。みんなの責任だ。」

ロックが悔しさを押し殺すような声で言った。

「私だって、もっと戦えたはずなのに!クソッ!」

イボンヌが声を荒げた。

イボンヌ・・・。元々は敵側だったんだ。

きっと思うことはたくさんあるだろう。


「光竜は逃げてしまった。でも、瀕死の重傷のはずだ。すぐには復活しないだろう。」

1階のリビングで、4人で今後のことを話し合った。

「あの時。光竜は光に包まれて消えた。あれは、テレポートだと思う。アバンの仕業だ。」

「そうだね。アバンは前に2回もテレポートで消えてる。」

桜花が補足してくれた。

「アバンが四天王の一人を仲間に引き入れたってことか。」

イボンヌのいう通りだ、ということは。

「つまり、他の四天王も仲間に引き入れられた可能性が十分にある。」

僕は続けた。

「そうなると、本当に命がけの厳しい戦いが待っているはずだ。僕は桜花を守る義務がある。でも、イボンヌとロックは、そうじゃない。」

「どういう意味?」

イボンヌが僕に、問いかける。

「ハク、何を言ってるんだ?おいらとイボンヌも仲間だろ?最後まで一緒に戦うよ。」

ロックが怒りながら言う。

「イボンヌとロックまで巻き込むわけにはいかない。これは、僕と桜花の戦いだ。」

一瞬の沈黙の後、

「もう、私とロックの戦いでもあるんだよ!!」

イボンヌが叫んだ。

・・・そうか。イボンヌもロックも、それぞれに理由があって戦っているんだ。

僕が間違っていた。

「ごめん、イボンヌ、ロック。最後まで一緒に戦おう。」

「もちろん!」


僕らは、改めて今後について話し合った。

アバンは、光竜以外の四天王を仲間にした可能性がある。

敵の本拠地はいまだにわからない。

そして、敵の狙いは、桜花なのは変わりない。

ということで、今まで通り、この屋敷を拠点にして、敵を迎え撃つ。

その一方で、敵のアジトを何とか探る。

アジトがわかったら、こちらから打って出る。

この両面作戦で行くことにした。


その日から、新聞・テレビ・雑誌・ネット、あらゆる情報を見て手掛かりがないか探った。

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