皆で食事会の後、俺は想と連夜さんの借金返済の契約書の話を聞いて衝撃を隠せなかった。
(ちょっと待って、俺も多部ちゃんと契約書結んだよね? ま、まさかね)
多部ちゃんに限って連夜さんみたいな内容は無いよね? あ、あんなエッチなの……もう! エッチだぞ佐倉! 何考えてるんだ!
でもさ、よく考えたら俺まだ毎月返せない時のお手伝い内容を聞いてないよね?
……不安になって櫂達と話している多部ちゃんを見るけどいつも通りの笑顔だった。
(と、と、と、とりあえず家に帰ってから確認しないと)
こうしてしばらく俺がフリーズしてるうちに辰巳と輝久は帰っていたし、その後は想達と何を話したのか、どうやって帰ってきたのかは記憶がないけれど……気付けば多部ちゃんちの自室に居た。
「多部ちゃん? どこ?」
家中探してるんだけど、俺がちょっと目を話した隙に外出したみたいでいない。
仕方ないからまた明日確認するしかないか……俺はなんだかザワザワする胸を抑えながらベッドにダイブするとそのまま意識を飛ばした。
そして結局、朝からも多部ちゃんと契約書の話は出来ずに、気付けば想をお迎えに行く時間になっていた。
今夜は必ず聞いてみよう! と意気込み出発したんだけど、今夜はそれ以上の事が起こり当然聞けなかった事はこの時の俺はまだ知らなかった。
◇◇◇◇
「想! お疲れ様~迎えにきたよ?」
「ありがとう、ちょっと準備するな~」
あわただしく閉店準備をする想に慌てないでいいと伝えて、一緒に片付けを手伝う。
久々にゆっくり想と話をしたかった俺は、今日は車がいつものとこに停めれなかったのも好都合! と思い、ちょっとだけ散歩をしようと誘っていた。
「久々に佐倉くんと散歩嬉しいわー」
「俺も~」
昨日の夕食会の後、めっちゃ微妙な感じで別れたからよかった。
(やっぱりあの契約書の話は本当なのかな? その、エッチすぎるし……あーもう! 恥ずかしすぎるって)
一人赤面しながら、勇気を出して俺が結んだ多部ちゃんとの契約書の事を想に話してみた。
「え、た、多部ちゃんが? まさか! 連夜さんとはちゃうやろうけど、お手伝いか~なんやろな? あんな爽やかで優しい人やし、きっと変な事は考えてないはず。佐倉くんのことしっかり考えてるやろ、きっと」
「そ、そっかな」
「うん! 大丈夫やって」
想にそう言われると何だか俺の勘違いだったようにも思う。
そうだよね、多部ちゃんがそんな目で俺を見てるハズないか……なんか、胸がチクリと痛いのは気のせいだと思いたい。
「あ、佐倉くん。せっかくやしもう少し散歩しやん?」
「うん、いいね」
「やったー! あ、佐倉くん、あれ食べよ」
「クレープ?」
「うん! あの店有名やねんで~久々に食べたい」
「うわー俺も食べる!」
二人でキャッキャ言いながら、女性達の列に並んでクレープを買う。
誰かとこんな風に遊んだのは久々だから、楽しくてちょっと舞い上がってたのは内緒だよ。
「うわ、めっちゃ美味しそう」
「あ、そこのベンチに座ろ~」
「オッケー!」
「うわぁ! めっちゃ美味しいね、想」
「ほんまや~! 久々に食べたー! あ、彰太くんにお持ち帰り出来るかな?」
「ははは、彰太喜ぶだろうね」
「あ、そうなったら全員分いるか」
「そうかも~」
こうして想と笑いながら昨日の夕食会の話をしながらクレープを食べて、そろそろ帰ろうかと車の方に歩き出した時、ふいに後ろから声をかけられた。
「あれ、想くん?」
「あ、ほんとだ~」
声をかけて来たのは以前よく想の店で見かけた客の二人だった。
たしか、一人はスポーツ選手で……何だか想を舐めまわすように見ているなと思っていたので印象に残っている。
「うわぁ、久々ですね? 最近店に来てくれへんから忙しいんかと思ってました」
「えっ、忙しいと言うか」
「知らないの? 俺達、想くんのお店出禁になったんだよ?」
「そうそう、俺達、結構巷じゃ有名人なのにねぇ~? なんでだろ」
「え? そうなんですか? なんでやろ……」
何でって? 連夜さんが想に色目を使ってるお客さんを出禁にしたと言っていたからだよ。
ということは、ちょっとヤバい?
「そ、想、そろそろ帰らないと時間遅れちゃう」
「うん! そやなー」
「え、帰っちゃうの?」
「まだお話しようよ~」
雰囲気の変わった男達の様子に、本能的に危険を感じ始めていた。
(……あれ? 気付けば人通りが少ない路地にいる)
「っちょっと! 離して……」
「想に触るな」
「ねぇ、想くんのお友達? 君も可愛いね?」
(……ちょっとやばい、想と早く帰ろう)
「もう! 浮気ですか~? 出禁とか俺よく分からんけど、また店に来てくれて大丈夫なんで……ほな、佐倉くん行こか~」
「うん、じゃあ失礼します(帰ったら多部ちゃんに報告しないと)」
想が上手く相手にさよならを告げて、自然に男の腕から抜け出そうとしていたのでとりあえずこの後一緒に走り出そうと考えていた時だった。
「え、ちょっと待ってよ? 俺達はお話まだあるよ~」
「っ……はな、してっ……」
「はいはい、大人しくしてね」
「想!」
その瞬間、男達は想の口元に布のようなものを嗅がせた。
想の身体からみるみる力が抜けてく……
「ごめん、佐倉くん……逃げ、て」
「想!」
「ふふふ、さあ一緒に来てもらおうか」
「っわかった」
「いい子だ」
こうして俺は静かに頷くと、男達の後に付いていった。