ぼん太はいつも村人たちにうそをついて回ります。
まるでそれが自分の役目とでも思ってるみたいに。
ある朝なんてこうです。
畑で大根を引っこ抜いてる
「おい大変だ。お前んとこのばあさんがぶったおれたってよ」
それで松吉が飛んで帰ったあと、ごっそり大根をちょうだいするなんていうオマケまでついてんですから困ったもんです。
それから村のむすめたちには、こんなうそもついてましたっけ。
「おーい、お前さんたちの持ってる焼きいも。さっきカラスがフンしたぜ。よくそんなもん食えるなあ」
それを聞いて、むすめたちはもうガッカリ。
うらめしそうにいもを置くと、ぼん太をキッとにらみつけてどっかへ行ってしまいます。
その後、何事もなかったかのようにいもを拾い上げ、あっかんべーと
ぬれぎぬを着せられたカラスだってカアカア鳴くしかありません。
いくら世の中広いったって、ぼん太ぐらいひどいのを探すのは難しいでしょうね。
こんな調子だから村人からはハエやヘビ、いやいやそんなもん以上に嫌われていたのは言うまでもありません。
ぼん太の方だって仲良くしようなんて気はさらさらないんですから、嫌ってもらって大いに
もしも嫌う代わりに優しくしてくる変わり者がいたら、よけい悪さしてギャフンと言わせにゃ気がすまない、そんなへそ曲がりがぼん太という男なんであります。
そうして村の子どもたちは、いつしかこんな歌を口ずさむようになったそうですよ。
──うそつきぼん太は
きっと大人たちが
でもそれを聞いたって、ぼん太が腹を立てることなどありません。
それどころかうれしそうに子どもたちを追い回し「お〜い、オイラみたいなうそつきはいるか? いたら一緒に地獄までつれてくぞ!」なんてヘラヘラしてんですから。
そのおかげかどうかは知りませんが、村の子どもたちは正直者ばっかになったそうですよ。
そりゃそうでしょう。
だれだって地獄になんて行きたくないですもんね。
さて話変わって、ここは村はずれにあるぼん太のおんぼろ小屋。
かつては父親もいたそうですが、ウメの病がひどくなるにつれ、ただれた体を気味悪がってどっかへ逃げてったと村のだれかが言ってましたっけ。
まったく子が子なら親も親ってやつですね。
ここでのぼん太はまるっきり別人です。
ウメの
「おっかさん、さっき村のむすめからうまそうな焼きいもをもらったよ。これを食って早く良くなりますようにってさ」
するとウメは目をしばたたかせながら、もうしわけなさそうに言います。
「おやまあありがたいこった。こんな体じゃなけりゃ、ちゃんお返しができるのにねえ」
「いいんだよ。その代わり、オイラがちゃんと
ああ、ここでもやっぱりうそばっかり。
でもウメにつくうそは、相手をよろこばせるためのうそと決まっておりました。
「お前にはめいわくばかりかけてすまないねえ……」ウメが弱々しい声を出します。「私さえいなけりゃ、今ごろはきれいなヨメさんとかわいい子どもに囲まれ、だれもがうらやむぐらい幸せだったろうに」
そんな言葉をさえぎるよう、ぼん太はガハハと笑い飛ばします。
「何言ってんだい。こうしておっかさんと二人で暮らせりゃおんの字さ。だからいつまでも長生きしとくれよ。そのためならオイラ、どんなことだってすっからよ」
口を開けばうそばかりのどうしようもない男ですが、母を思う気持ちだけはだれにも負けません。
そんなぼん太を見て、ウメは心の中でいつもこう念じていたそうです。
(ああ、どうかせがれに人並みの幸せを与えてやってくだせえ。代わりにこの年寄りがどんな苦しみでも引き受けますだ)
村人たちは今日もおんぼろ小屋を遠巻きにして、うわさ話に花を咲かせます。
「ぼん太のやつ、どうしてあんなロクデナシになったのかね」
「まったくだ。ばあさんはだれより正直者だってのに」
「そりゃお前、親父がいなくなっちまったからに決まってら。それまではまじめないいヤツだったぜ」
「いんや、理由はそんだけじゃあるめえ。実はここだけの話、あそこのばあさんはタチの悪い病におかされてるらしいぜ。きっととんでもねえ
「ひえっ、おっかねえ……」
そんな心ない言葉がウメの耳までとどかぬよう、ぼん太は必死にうそをつき、村人たちを遠ざけます。
それでますます毛嫌いされるわけですが、そんなこと、ぼん太にとっちゃ痛くもかゆくもないことです。
村人たちが自分をさければさけるほど、ウメは傷つかずにすむ、痛ましい姿をバカにされずにすむんですから。